6.13.すべて打ち払う
「アマリアズ、動けそうか?」
「無理そう……!」
肩を押さえて痛みに耐えている間にも、天使はこちらに穂先を向けて攻撃の準備を整えている。
『天神槍』は攻撃にほんの少しだけ時間がかかる。
だが接近を許すほどの隙は無い。
ただ穂先で狙いを定めるだけなので、接近するまでに攻撃を発動されてしまう。
アマリアズの記憶が正しければ、『天神槍』は攻撃力15000の槍技能の中でもトップクラスの攻撃力を誇る技能だ。
防御力が二倍ある宥漸であったとしても、あれを受けることは難しいだろう。
むしろ攻撃による痛みをほとんど知らない宥漸が傷を負ってしまえば、明らかに大きな隙を生じる。
今は穴掘りに専念しているので、そちらに集中してもらいたい。
こちらには参入してこないことを祈るばかりだ。
鳳炎の目が、天使が槍を少し強く握るところを確認した。
その瞬間突きを繰り出してきたので、即座にその場から移動する。
「アマリアズ! 君は索敵系技能を持っているか!?」
「ある、けど……!?」
「よし!」
さすがにアマリアズを抱えながらの戦闘は、難しいと感じた鳳炎。
であれば敵の視界をまずは遮ることにし、片手を広げて技能を叫ぶ。
「『絶炎火柱』!」
大地から炎の壁が出現する。
それは天使を囲むように四方に展開し、凄まじい熱量が天使を襲う。
「!」
一気に視界を遮られ、天使は一瞬目を見開いた。
空を飛べばこの『絶炎火柱』から脱出することはできるが、その瞬間を狙われる可能性が非常に高い。
どうするべきかと考えていると、『絶炎火柱』から炎の球体がズボッと出現し、こちらへと飛んできた。
その数は四つ。
すぐに『天神槍』でそれらを破壊し、次の攻撃と次の行動を考える。
このままでは一方的に攻撃されてしまうので、やはり脱出を視野に入れなければならないだろう。
だがそこで重要になるのはタイミングだ。
「……準備が整う前に逃げようかしらね」
翼を広げ、一度の羽ばたきだけで急上昇する。
鳳炎の『絶炎火柱』の熱量が届かない位置にまで移動して下を見下ろしてみれば、あの二人はどこにもいなかった。
脱出したのを見たのか感じたのかは分からないが、炎の壁は静かに消えていく。
やはり、上空に誘導したかったのかもしれない。
その懸念はあったがあの場で待機しているよりは、選択肢が増える。
それは向こうも同じなのではあるが。
「『ファイヤーバラージ』」
「!」
後ろを振り返れば、鳳炎がこちらに手を向けていた。
次の瞬間、大量の火球が出現してこちらに狙いを定めて飛んできた。
「なめるなよ!」
天使はすぐに構え『天神槍』でそのすべてを撃ち落としていく。
だが撃ち落とされた分だけ鳳炎は更に火球を増やし、いつまでも続く攻撃を続けていった。
この『ファイヤーバラージ』は燃費が良い。
火球による弾幕を延々と作り出すことができる技能であり、もちろんこれにも『絶炎』が付与されている。
当たれば勝ちが確定する鳳炎のこの技能は、大量の火球と非常に相性がいいのだ。
しかし厄介なことに、天使はそのすべてを今もずっと撃ち落としている。
彼女の所持する『多連槍』という、一度の突きで数十回以上の突きを繰り出す技能がそれを実現させているのだ。
槍技能に恵まれた彼女はそれらの技能をすべて完璧に使いこなしており、たとえこの状況が数時間続いても、引けを取ることは一切ないだろう。
「……! 凄まじいなあいつ!」
鳳炎にしても、ここまでこの攻撃を耐える敵と会ったのは初めてだった。
違う技能も交えた方がよさそうだと感じた時、服の一部に切れ込みが入る。
「!? あ、あの弾幕の中でこっちにも狙いを定めてんのか!?」
『ファイヤーバラージ』による攻撃に加え、それを打ち払った際に生じる火の粉にすら、『絶炎』の効果が付与されている。
天使はそれすらも打ち払わねばならず、こちらにまで攻撃をする余裕はないように思えたが、そうではなかったようだ。
作戦変更。
鳳炎はその場から移動しながら、攻撃を続けていく。
「駄目押しだ。『周炎追尾』!」
鳳炎の後ろから、大きな火球が出現する。
それは弧を描きながら天使に接近したが、攻撃される前に自らの意思で移動して攻撃を回避した。
自動追尾、更に危機察知能力を備えた優秀な炎系技能であり、機動力こそないもののある程度は自分で考えて動くためとても使いやすい。
攻撃を回避されてしまった天使は『ファイヤーバラージ』を対処しながら目だけで『周炎追尾』を目視し、狙いを定める。
ぐっと天へ穂先を向け、思い切り振り下ろした。
ズザンッ!!
穂先が撫でた射線上の『ファイヤーバラージ』と『周炎追尾』が、同時に消滅する。
薙ぎ払いにも『多連撃』が付与押されていたため、予想より大きな範囲を同時に攻撃することができたのだ。
その結果『周炎追尾』は攻撃をしてくる事には気づいたが回避することができず、あっけなく霧散してしまった。
すると天使は、翼を閉じて落下していく。
大地の着地すると同時に槍の石突を地面に突き刺し、そのまま鳳炎に狙いを定めた。
「『地神槍』!」




