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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第六章 霊亀・零漸
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6.6.Side-ケンラ-ギョウさん


「あ、あんのぉ~……」

「なんえ?」

「な、なんえ……ってなに……? いや、そうじゃなくて……。あの失礼だとは思うんですけど……ギョウさん、戦えるんですか?」

「おぉー。疑よーんな? 任せい任せい。まんだ若人にゃまきゃせんけぇ」

「ウチカゲ様に接する時と同じ感じで喋っていただけますぅ!?」


 訛りを一切気にすることなくぺらぺらと喋るギョウの言葉は、ケンラにとっては非常に難しい。

 辛うじて聞き取ることはできるが、解読は頭の中でできていない。

 なので何を言っているかさっぱりなのだ。


 こういう鬼だ、ということは前々から知っていた事ではあるが、実際接してみると厄介なことこの上ない。

 戦う前から疲れ果ててしまったケンラは、大きくため息をついてギョウを見た。


 背を伸ばしているギョウはケンラよりも背が高い。

 いつもの板前の服装とは打って変わって、今日は藍色の柔道着のような服を着ている。

 袴の紐が太いのが特徴的で、腹の下で大きな蝶結びが作られていた。


(この人無手だけどどうやって戦うんだ……? 相手は天使っていうし……)


 見たところ、ギョウは何も持っていない。

 懐に何か締まっているのだろうか、とも思ったがそんな風では無い様だ。

 なにか入れていれば、懐や袂が下に引っ張られる。

 歩き方や、肩の下がり方などでも判別することができるが、それができるケンラでもギョウは違和感なく普通にしていた。


 鬼人舞踊には無手の構えという型があるが、彼がそのような動きをしたところは、一度として見たことがない。

 歩き方は老人のそれだし、いつも使っている杖も今回は持って来ていない。

 本当にどう戦うつもりなのだ、とケンラは内心焦りまくっていた。


 なにせ、自分も天使と互角にやり合えるか分からないのだ。

 勇んで出てきたは良いが、戦闘経験は少ない。

 ただ型の筋が良いだけで皆に褒められているだけに過ぎないということは、自分自身が一番よく知っている。

 今だって、どこから襲ってきてもおかしくはない状況なのだ。

 気を張り詰めて周囲を警戒していると、ギョウが振り返る。


「ケンラ、ちったぁ落ち着きや」

「し、しかし……」

「釣りしとる心構えでおりゃええけ。そんな殺気とばしょーと、奴さんさくらしませんで」

「いやそれならそれでいいのですが……」


 ふっと気を抜いた瞬間、風を切る音が聞こえてきた。

 ケンラはすぐに表情を切り替え、流れるような抜刀で飛んできた矢を弾く。

 キッと飛んできた方向を見やると、二人の天使がこちらに弓を向けていた。


(おお、なんじゃら。それでええがん)


 ギョウは彼の消極的な面を心配していたが、表情が切り替わったのを見て不安はすぐに払拭された。

 どうやら本番に強いタイプだったようで、今は兵の面をしている。

 こういう表情ができる奴ほど、強い奴が多いとギョウは知っていた。

 これ以上励ましの言葉はいらないな、と少し笑い、自分も天使の方へと目線を向ける。


 遠距離武器を持っているところからするに、遠距離主体で戦う天使の様だ。

 となれば、所持している技能もそれに属しているはず。

 近接戦闘が得意な鬼という種族にとって、遠距離武器は一番の脅威。

 さて、どう攻略したものか、と考えている間に、ケンラは走り出していった。


 刃は既に納刀されており、低姿勢で走りながら接近していく。

 とはいえ相手は空を飛んでいるため、このままでは届かない。

 走ってきている間にも天使は矢を放つが、そのすべてがケンラに弾き落される。


「鬼人舞踊」


 ずんっ……!!

 大地に右脚をめり込ませ、力を溜める。

 そしてばねのように一気に跳ね上げ、大きく跳躍して天使へと肉薄した。


脚強陣(きゃくきょうじん)

「ホギュ」


 放たれた矢を刀で弾き、天使一人を蹴飛ばす。

 メギリという鈍い音を立て、放物線を描きながら飛んでいった。

 見事に入ったので、致命傷にはなっているはずだ。


 しかし、残りの一体は即座に距離を取った。

 そのため追撃をする事はできず、自由落下で大地に着地するのを待たなければならない。

 だがそこを狙わないはずがなかった。

 天使は弓を引き絞り、狙いを定めて放つ。


 ケンラは空中にいるため、避けることができない。

 精々刀で弾くのが限界だ。

 しかしもう一体の天使を蹴り飛ばしたことで、弓を引き絞っている天使に背を向けてしまっていた。

 マズいとは思いながらも、咄嗟に後ろを振り向くことができない。

 体をひねった時には、既に天使の弓から矢が放たれていた。


「!!?」


 そこで、強烈な違和感が襲ってきた。

 咄嗟に耳を塞ぎ、次の衝撃に供える。


 バァンッ!!!!

 乾いた音と爆発したような音が混じった、大きな音が後ろから聞こえてきた。

 それは空気を振動させ、矢を吹き飛ばしてしまう程に強力なものであり、耳を塞いでいたケンラでさえ意識が遠のきそうだった。


 ぐっと歯をくいしばって耐えていると、ようやく落ち着くを取り戻す。

 だが我に返って下を見てみれば、地面はもうすぐそこだ。

 咄嗟に態勢を整えて、無様ながらも怪我をすることなく転がって着地した。

 それと同時に、真上から天使が落ちてきて、地面に激突する。


「……いっつつ……」

「おお、よー気付いたなぁ」

「ぎょ、ギョウさん……今何したんですか……?」

「手を叩いただけだぞ」


 ニコニコ笑いながら、軽く手を叩いた。

 先ほどの音とはまったく違う優しい音だ。


「えぇ……?」

「儂だけの技だけな。真似すっじゃねぇで? 怪我すっけぇ」


 真似したくてもできるものか。

 と、ケンラは心の中で呟いた。

 音だけであそこまでの威力を出せるものなのか、と感心すると同時に、何かを掴みかけたが、結局それは分からなかった。


 天使を見てみると、二人とも死んでいる。

 技能持ちがここまで弱いとはなんだか考えづらく、ケンラは暫し顎に手を当てて思案した。

 それはギョウも思っていた事だったようで、首を傾げる。


「ふむ、いっぺんウチカゲ様と合流しょーかえ」

「それは駄目ですよ。自分たちはここで敵を引き付けるのが役目ですから」

「……まぁなんとかなっかえなぁ」


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