6.4.封印場所特定
ウチカゲがそう口にすると、誰もが真剣な顔つきになった。
いまこの場にいるのは、僕、アマリアズ、カルナ、ウチカゲ、そして応練、鳳炎、リゼだ。
アシェラは薬物の投与実験を行われていたため、専門家に体を調べてもらっている。
問題がなければ、ここに連れてきてもらう予定だ。
すると、鳳炎が口を開く。
「だがウチカゲ。お前は既に知っているのだろう?」
「無論、把握しております。なにせ、この目で見ましたからな」
「お?」
おかしなことを言う、と言わんばかりに応練と鳳炎が小首を傾げた。
確かに封印場所は前鬼の里の隣にある宝魚の原だ。
応練たちも封印場所は知っていたので、それに関しては驚く要素はないが、ウチカゲは封印された様子を目撃した、と言っている。
知っているのはダチアくらいだろうと思っていた。
彼は封印場所へ四人を連れていった張本人なのだから。
「で、なんでウチカゲが零漸が封印されるところを目撃したんだ?」
「なにも私だけではありません。四百年前に生きていた鬼たちは、全員目撃しております」
「「…………あっ」」
どうやらなにかに気づいたらしく、応練と鳳炎は同時に声を漏らした。
僕たち、話についていけないんだけど。
まぁ当時を生きてきた人じゃないとわからない会話っぽいし、とりあえず黙って聞いておこう。
アマリアズもそうするみたいだし。
すると鳳炎が片手で顔を覆った。
応練はクスクスと笑っている。
「あのやろう……」
「ふっ……フフフ……、あいつ、どんだけでかかったんだ?」
「霊亀だろ? くそでかいに決まっているではないか」
「だよなぁ。こりゃ起きたとき苦労するぞー?」
どうやら僕のお父さんは大きいらしい。
でも応練さんも魔物の姿だと相当大きかった。
それ以上……ってことはないよね?
……ないよね?
しかし話を聞いている限り、そんな感じがする。
昔の鬼たちが封印されたところを遠くから見てたんでしょ?
前鬼の里から宝魚の原へいくには、森を一つ越えなければならない。
そう考えると……やっぱり驚くほど大きいのかも知れなかった。
「まぁ、場所は分かっております。私であれば、その大きさも何となく覚えておりますので、同行し宥漸に封印を解いてもらいましょう」
「うむ、それがいいだろう。流石にすぐ天使が来るわけでもあるまい」
「いや、鳳炎。そいつはわからんぞ。俺の封印が解かれた瞬間、天使と人間が襲ってきたんだ。奴らの動きは、想像を遥かに凌ぐほど速い」
「そうであるか……」
もしかすると、なにか特別な情報網があるのかもしれない。
封印を解いてすぐに行動ができたのであれば、常に監視されていた可能性が高い。
その辺りも視野に入れておいた方が良さそうだ。
今も尚、監視されているかもしれないからだ。
そこで鳳炎が応練を肘で小突く。
ああ、と言いたいことを理解した応練は『操り霞』を展開して宝魚の原を調べ始めた。
少し広いので時間がかかる、と前置きし、話を進めてもらうようにした。
「応練様の言う通り、天使は今にでもこちらへ向かっているはずです。しかし、調査をしに来ているようで、その事から察するに零漸殿の正確な封印場所は把握していないかと」
「なるほど。ではこちらが有利か。しかし一箇所に集まるとすぐに場所がバレてしまうな」
「鳳炎殿の言う通り。故に、こう致します」
ウチカゲは一人一人を指さして、指示を与えていく。
「まず、此度の作戦で肝になるのは『封殺封印』を解くことのできる、宥漸」
「……あ、はい!」
「そこにアマリアズのみを付けて、封印を解きに行ってもらう」
「……え?」
「え?」
ちょっと待って?
「ぼぼ、僕とアマリアズ二人だけ!?」
「うむ」
「いやいやいやいや二人はさすがに厳しいでしょ!! 宥漸君の『身代わり』があるとしても、天使は今回の封印阻止を成功させられなかったら、全員が揃うことになるって分かってるはず!! 全戦力を投入してきてもおかしくないと思うけど!?」
アマリアズがそう抗議したが、ウチカゲは呆れたように息を吐いた。
鳳炎も、カクッと肩を落とす。
「……あ、アマリアズだったか? それが分かってるなら、この作戦の意図を読み取れると思うんだが……」
「……えぇ?」
「確かに零漸が復活すれば、私たち四名が全員揃う。それは天使にとっては不都合だろう。だが今までの話と状況を聞いている限り……応錬は洞窟の中で。リゼはダンジョンの中で目を覚ました。そこに天使はいなかったよな?」
「いなかったはずだけど……」
「じゃあ、天使は私たちが“どう封印を解くのか”は知らないはず。だから封印を解く技能を持っている可能性がある私たちの方を、奴さんは積極的に狙ってくるだろうな」
「……確かに……!」
この中で技能を一番多く持っているのは、応錬だ。
彼であれば、そういう技能を持っていてもおかしくはない。
だが最初に封印を解いたのも応錬のため、その時居合わせた誰かが封印を解く技能を持っているということは、恐らく天使も把握している。
しかしあの時は、技能を持っている人しか集まってはいなかった。
現場に居合わせた天使はすぐに倒されてしまったし、召喚された殺戮天使も応錬のお陰で秒殺されたので、碌な情報は持ち帰ることはできていないはずだ。
まだ天使は、今集まっている仲間たち一人一人が、どの様な技能を使うかは一切把握できていない。
できているとすれば、応錬とリゼ程度だろう。
それを強みに、今回は二人のみで封印を解いてもらおうと、ウチカゲは考えたのだ。
応錬が目を空けて、くすくすと笑う。
「ヘイト管理しないとなー。んじゃ目立ちながら動けば無問題ってことだな?」
「会話に参加するのはいいが、敵はいたか?」
「おう。三人くらい森の中で隠れてるぞ。んでもってこっちに向かって十四人の天使が向かって来てる」
「…………は?」
「え?」
鳳炎が怒気の籠った言葉を口にした瞬間、ウチカゲとカルナが立ち上がる。
それに続いて鳳炎も立ち上がったついでに、応錬の頭を思いっきり引っぱたく。
「いってぇ!?」
「貴様そういうのは早く言えこのボケなすが!!」
「応錬様、鳳炎殿、リゼ殿は散開して注意を引き付けてくだされ! カルナは私と来い!」
「了解」
「いやちょちょっ! ウチカゲお爺ちゃん!? 僕たちはどこに!?」
「ああ、良く知っている場所だから案ずるな」
そう言って、ウチカゲが次に指定した場所は、確かによく知っている場所だった。
「子供の頃、宝魚を釣った、あの河原に向かえ」




