6.3.帰ってきた前期の里
小雨が降り続く中、僕とアマリアズは地面に倒れていた。
前鬼の里まで飛んできたラックは平然としており、加えてカルナとアシェラも普通に立っている。
な、なんで二人は大丈夫なの……?
めちゃくちゃ気持ち悪いんだけど……。
ううぅ……。
「大丈夫?」
「だ、だいじょばない……」
「あらら」
笑わないでよ。
こっちは真剣に辛いんだから……。
ていうか、ラック、速すぎるでしょ。
空飛んでるんだから当たり前だろうけど、それにしたってもう少し手加減してほしい。
僕たちは飛んできたから早く到着したけど、他の人たちはもう少しかかるようだ。
さっき出会ったケンラさんには、そう説明してある。
稽古をしていたらしいけど、雨が降りそうなので帰路に着いていた途中だったみたい。
運が良かった。
「あ、あの……」
「どうしました?」
「わ、私……人間なんですけど、鬼の里にいて……大丈夫なんでしょうか?」
アシェラが不安そうに、周囲を忙しなく見渡しながらカルナに問うた。
彼女にとってここは初めて来る場所だし、身内もいないのだから不安を抱くのは当然だ。
当たり前の反応を見て、カルナは表情を緩めて微笑む。
「私も人間ですが、この子を育てられる環境は、用意してくれましたよ」
「えっ……ここに住んでいたんですか?」
「ええ」
「あ、そうだったんですね……。ちょっと、安心しました」
違う種族の輪の中に入ることを気にかけていたようだが、ここではそんな心配はいらない。
ここに住んでいる鬼たちは、きっと彼女を受け入れてくれるだろう。
寝転びながら話を聞いていると、ようやく起き上がれるようになった。
とりえあず上体を起こし、頭を振るう。
地面に寝転がっていたので泥がついてしまったので、それをある程度手で払った。
「ちょっと濡れた」
「雨だからねぇ……ぅぇ……」
「アマリアズはもうちょっと安静にしていた方がいいね」
「……リゼさんにも運ばれて、ラックにも乗せられたんだ……。こうなるさ……」
だ、だよねぇ……。
まぁここしばらく移動する予定はないし、ちょっとゆっくりできるかな?
まぁそれも、皆が集まる間までだろうけどね。
すぐに僕のお父さんを探しにいくことになるだろうし。
でもどうやって探すんだろう。
身近なところに居たとはいえ……封印されているような場所はしらないし、そういった場所もなかったように思う。
ううん、応練さんなら探せるのかな?
「宥漸!」
「おわああああああ!! ……って、ウチカゲお爺ちゃん!?」
「早かったな……! カルナ、他の皆も無事か?」
「そう慌てないで。皆大丈夫だから」
「む……ゴホン……。そうか、ならいい」
な、なんかあんなウチカゲお爺ちゃんはじめてみたかも……。
そんなに慌てるようなことあったかな。
でも心配してくれてたんだろうな。
「ただいま、ウチカゲお爺ちゃん」
「……ああ、よく帰った。皆、待っていたぞ」
「うん。でも、まずはお父さんを何とかしないと」
「宴はそのあとだな」
「そんな余裕ないって……」
ウチカゲの余裕のある提案に、伸びていたアマリアズがぼそりとそう言った。
確かにそんな余裕は、今のところないだろう。
天使が最終的に集まるのは、まさにここだ。
最悪、前鬼の里にも被害が及ぶかもしれない。
できることなら避難させておきたいところではあったが、それはできない、という。
「え、なんで?」
「里の者、皆がお前のためなら武器を手に取る、と言ったのだ。これが鬼どもの総意。私がそれを拒むことはできんからな」
「そ、そうなんだ……」
嬉しくはあったが、心配だ。
見知った人が居なくなるのは、やはり寂しい。
それに今は、応練、鳳炎、さらにリゼという戦力がこちらにはいるので、鬼たちの手を借りることは恐らくないだろう。
しかしその気持ちは、受け取っておきたい。
すると、後方から足音が聞こえてきた。
リックとパックが走ってきたのだ。
パックの背中には応練が乗っている。
「よーぅし、到着!」
「ギャギャッ」
「お前道中でめっちゃ肉食ってただろ!」
「ギャギャッ! ギュギュギュギュ……!」
「あげません!」
「グギャッ!」
パックがダンッと足踏みをしたが、応錬は知らんぷりだ。
背中から飛び降りて、やれやれとため息を吐いてからウチカゲの下へと近づいた。
「そっちは順調か?」
「申し訳ありませんが、順調ではないですな。テキルの魔道具の設計図がどう流出したのかは、今も分かっておりません」
「ガロット王国はどうだ?」
「今のところは問題ありません。向こうでは頭を抱える案件を幾つか抱えているでしょうが」
「そっか。ならまぁ、今は大丈夫か」
二人が話をしていると、リゼと鳳炎も到着した。
応錬がウチカゲと話しているのを見て首を傾げていたが、リゼはもしかして、と口にしながら指をさす。
「え!? 貴方、ウチカゲ!?」
「な、なんだと!?」
「お久しぶりですな、鳳炎殿、リゼ殿」
「わーお爺ちゃんになってるー!」
「悪魔のヤーキを見た時も思ったことではあるが、時代の流れを感じるな……」
再会を懐かしみたいところだったが、とうとう雨が本降りになってきた。
なので、まずはここから移動することになった。
シズヌマが気を利かせて番傘を持ってきてくれたので、それ以降は濡れることなく屋根のある場所へと移動する。
集まったのは、前鬼城二の丸御殿。
一室を借りて座布団を用意し、全員が腰を下ろしたところで、ウチカゲが口を開く。
「では、策を練りましょうぞ」




