5.45.撤退
真っ赤に燃える翼、真っ赤な長い髪の毛、真っ赤な瞳。
すべて赤で整えられた男が、燃える槍を持って現れた。
だがその人物は、応錬とリゼにとってはよく知っている人物である。
応錬が『多連水槍』を一つ握って、鳳炎と同じ位置に飛んできた。
足場にも槍を束ねているので、長時間の浮遊ができる。
「応錬、なぜこんなに手間取っているのだ」
「いや、あいつ普通に強いんだって……。というかアマリアズは大丈夫か?」
「リゼが向かった。もう回収している」
「さすが。いい目だな」
鳳炎は昔から目が良い。
懐かしむ時間は今はなさそうなので、表情を切り替える。
すると、鳳炎が声を掛けてきた。
「敵の情報を」
「『風剣』、『風拳』、それと回復技能、あと一回で八連撃を繰り出してくるから、接近戦は注意だな。あいつの攻撃は基本見えない」
「私では難儀しそうだ」
「そういう技能、お前持ってないもんな」
「前は任せる」
「任された」
応錬は『多連水槍』を解除して、大地に足をつける。
白龍前を構えながらゆったりと歩き、フウリルに近づいていく。
鳳炎は空を飛び、援護に徹してくれるようだ。
とはいえ鳳炎は不死身であるので、無茶はできる。
しかし、死んでしまうと子供の姿になってしまい、若干能力の性能が落ちてしまう。
性格も知性も子供に近くなってしまうので、本人曰くあまり死にたくはないとの事。
フウリルはそんな二人を前にして、苦笑を浮かべていた。
どう考えても、鳳炎が加わると負けが濃くなる。
彼の持っている技能『絶炎』。
これが非常に厄介であり、当たってしまうだけでこちらの負けが確定する。
掠っただけでもアウトなので、今後の戦闘ではより一層注意を払わなければならない。
「……これは無理だな」
失った翼を『再生』で回復し、飛びあがる。
そして、黄緑色の靄を手の中に集めた。
「不安の味は不味いのだがな」
「!? え、まじかそこからでも人間の感情集められんのかよ!!」
「感情? なんのことであるか?」
「説明する時間ねぇよ! とりあえず行くぞ!!」
「分かった」
二人はすぐに動き出したが、やはりフウリルが感情を食す方が早い。
餅のように伸びる感情だったようで、二口でそれを口に放り込み、飲み下す。
不味そうに舌を出した時、鳳炎が攻撃を繰り出した。
「『フレイムクロー』」
手に鷹の爪を再現し、捕らえるように広がった。
急降下してフウリルを捕らえようとするが、それは空振りに終わる。
「!? 応錬! あいつどこに行った!?」
「……逃げたな」
「なんだと!?」
応錬が確認しているが、もうフウリルの姿はどこにもいなかった。
先ほどの『感情捕食』で得た力はすべて逃走に使用されたのだろう。
領民たちは未だに土の壁の奥で困惑しているようだが、その場から動いてはいない。
彼らの前に姿を現す必要もないだろうし、そのまま逃げた方が賢明だ。
「凄まじい勢いで逃げてるわ……。俺の『操り霞』でも追いかけらんねぇ」
「……そう、か。はぁ……」
酷く落胆した様子で、鳳炎が下りてきた。
炎の翼を閉じ、手に持っていた炎の槍もかき消す。
小さくため息をついたが気を取り直したように笑い、応錬を見た。
「……久しぶりだな」
「おうよ。お前、魔族領に行ってただろ」
「ああ、その通りである。魔力石を持ってきた。宥漸に使わせるといい」
「お、それはありがたい。さすが、やっぱり持ってきてくれた」
「当てにするような策を立てるな……」
呆れたように頭を掻いたが、頼りにされているのは悪い気分ではない。
もし持って来ていなければどうするつもりだったのか、とは思ったが、それは聞かないでおく。
リゼが復活しているあたり、何かしら『封殺封印』を解く魔力を確保することができたのだろう。
しかし、それよりも鳳炎は気になることがあった。
あれから四百年。
天使が動き出し、応錬が目覚めた。
そして、宥漸がここに来ている。
「……」
「なにそわそわしてんだ?」
「その、なんだ。宥漸がいるんだろ?」
「いるぞ。なんせ、俺の封印を解いたのはあいつだしな」
「零漸はまだだろう?」
「ああ。封印を解くのはこれからだ」
とりあえず全員と合流しよう。
そういうことになり、二人は宥漸たちが待機しているであろう場所へと向かっていった。




