5.38.洞窟の外へ
しばらくしてリゼが落ち着き、酷く落胆した様子で肩を落として項垂れていた。
その理由は、自身の髪の毛の色が変わっていた事。
どうやら昔は青色の髪の毛だったようで、それを大層気に入っていたのだとか。
しかし今は、青白い。
それに淡く光っているので、白よりの青という色合いに見える。
う、ううん……。
僕としては綺麗な髪の色だと思うんだけどなぁ……。
ていうか青い髪の毛とか、あんまり見たことなかったかも。
でも髪の毛の色が変わったくらいで、そこまで落ち込むことあるかなぁ。
男の僕にはちょっと分からない領域かもしれない。
ふとアマリアズを見てみるが、彼は面倒くさそうに口を尖らせて早く立ち直ってくれないかな、とぼそりと呟いていた。
そういえば、今自分たちが付けている魔道具には制限時間があるんだった。
てなると……早く立ち直ってもらわなければ。
「あ、あのー……」
「はぁー……」
「そんなに髪の色が変わったの嫌だったんですか?」
「そりゃ嫌よ!! ていうか光ってるしナニコレ目立つ!!」
「青色は普通に目立つと思うんですけど……。あ、でも暗いところでは確かに目立つ……」
「うわああああんメリルに褒められた色だったのにぃ……」
ああ、思い入れのある色だったんだ。
それは確かに、急に変わってたらショックだろうな。
いやいや、そうだとしてもそろそろ移動してもらわないと困る。
この魔道具だってもうすぐ効果きれちゃうだろうし、そろそろ行かないと毒吸っちゃうから……。
「あの、リゼさん。その魔道具効果きれるの早いので、早いところ移動を……」
「え!? なんでそういうこと早く言ってくれないの!!?」
「言う機会奪ったの貴方じゃないですか!!」
「ほら何グズグズしてるの! こんなところで死ぬのなんてまっぴらごめんよ!」
「何この人!!」
僕が文句を言った瞬間、リゼはその場から消え去った。
「「……えっ」」
「ぉーぃ」
「「はっや!!」」
なにさあの速度!
ウチカゲお爺ちゃんと大差なくない!?
え、あの人あんななりして、あんなに速く移動できるの!?
一瞬呆気に取られていたが、僕たちもすぐに移動を開始する。
封印を解くことに成功したのだから、ここに居続ける理由はもう既に無い。
滑る道を何とかかんとかして進んでいき、しばらくしてようやく足場が安定してくる。
まだ周囲に静電気が走っているが、氷は貼り付いていなかった。
安全に走れるようになり、僕たちは速度を上げていくのだが、やはりというべきかリゼの姿は一向に見えない。
そこで気付いたのだが、魔物の気配が一切なかった。
おや、と思って見渡してみると、そこらへんに毒を持った魔物や虫が転がっている。
僕たちが倒した物ではないので、恐らく道中リゼがすべてやっつけてしまったのだろう。
「……さっきの魔法かな?」
「ああ、『サンダーウェイブ』のこと? あの技能は洞窟の中とかだと、ものすごい殲滅力を発揮するから侮れないんだよね」
「……それを先ほど受けたわけですが」
「宥漸君の防御力だったらあれくらい余裕で受けられるよ」
ま、まぁ確かに余裕だったけどね?
でも速攻で敵認定することないじゃん!
すると、目の前が明るくなってきた。
どうやら出口に近づいてきたようだ。
恐らくリゼは既に応錬たちと合流していると思うので、そこまで心配はしていない。
軽い足取りでポトデラダンジョンを出てみると……。
周囲は、大量の水に囲まれていた。
「「……え?」」
「お、帰ったか」
辺り一帯に展開されている水が、所々衝撃を受けているようで、波紋が何度か広がっている。
僕は気配で何が起こっているか、すぐに分かった。
それ以外の者は、轟音によって状況を強制的に理解する。
「ああ、攻撃されてるのね。あの爆弾で」
「起きたばっかなのにどーしてこうなるのよ応錬ーーーー!!!!」
「はっはっはっはっはっは!! いつものことだ!!」
「最悪!!」
スパァンッと頭を平手で打つ音が周囲に響き渡った。




