5.33.進行阻止
ようやく本題に戻った。
応錬は天使を三人、そしてアマリアズは一人始末した。
残り二人がどこに行っているのかいまだに分からない状況ではあるが、ここには六人の天使が居たので半数は減らせたことになる。
それに信者と思わしき人物も数十人倒しているし、爆発ももう収まっていた。
脅威が薄まったため、あとは兵士に任せておいても大丈夫だろう。
どうせこのキロック領の領民は、自分たちの言い分を信じてはくれないだろうし、さっさとリゼを助けてここから移動するのが得策だ。
天使側の拠点を一つ把握できたし、これは非常に大きな戦果である。
「さて、残りの天使は……っと、まぁ俺が出て来たんだから、最後にはそこに集まるわな」
「どこにいるんですか?」
「ポトデラダンジョンの前に陣取ってる」
そこで、爆発音が聞こえた。
明らかにキロック領の中ではなく、外から聞こえた。
「今のは……」
「あいつら、俺が『土地精霊』使って地盤を固めてるの分かってねぇんだ。だから直接ぶち込んだようだな。まぁ、それでも壊れはしないだろうが」
応錬の使っている『土地精霊』は、土地を浄化・変化・形成・改変することができる技能であり、魔力の使用量によって浄化・変化・形成・改変する範囲を決定することができる。
ほぼ無尽蔵の魔力をふんだんに使っているのだから、その効果が切れることはないだろう。
応錬はくすくす笑いながら、ゆったりとした歩調で歩いていった。
天使がポトデラダンジョンの内部に侵入する予定がないのであれば、こちらは急ぐ必要は無いのだ。
魔力もあるし、毒に対する魔道具も持っている。
あとは入ってしまえば、こちらのものである。
僕たちはアシェラを連れて応錬の後をついて行く。
カルナはアシェラの手を引いて歩いていくが、そこで気配が一つ留まっていることに気が付いた。
振り返ってみると、アマリアズが顎に手を当てて思案している。
「……アマリアズ、何か引っかかってるんだよね?」
「……………まぁね」
アマリアズがこうやって黙り込むときは、何か腑に落ちないことに気付いた時だ。
長い付き合いだし、それくらいは分かる。
今まで黙っていたということは、二人でなければ話すことができない繊細な問題なんだと思う。
アマリアズが、元神様だったっていう話みたいにね。
だけど……。
「誰かに聞かれるといけないから、まずはこっちを何とかしようよ。あとで一緒に話そう」
「うん、そうしようか。私一人じゃ答えは出そうにないし」
そう呟き、応錬の後をようやく追いかける。
しばらくそんな調子で歩いていき、ポトデラダンジョンの前に辿り着いた。
そこにいたのは二体の天使。
そして急遽集められたであろうキロック領の人間たちだ。
どこからまた持ってきたのか、あの爆弾を設置してポトデラダンジョンに向けて爆破している。
しかし削れるのは爆弾が置いてある付近だけで、その奥の様は一切変化がない。
まるで見えない結界があるかのように、微動だにしていないのだ。
その様子に応錬は笑いをかみ殺している。
カルナとアシェラは遠めからそれを見ており、アマリアズはやはり難しい顔をしてその光景を見ていた。
天使が四苦八苦しているのに、疑問を抱いているのだろうか?
「さて、どうするかね」
応錬の呟きに、一人の天使が気付いた。
ゆっくりとこちらを向き、武器を構え、前に出て来る。
翼があるというのに着地し、自分たちと同じ目線で戦うことを選んだようだ。
大きな刃が取り付けられている槍を両手で持ち、その切っ先をこちらへ向ける。
「……本当に、弱いな……」
アマリアズがぽそりと呟いた。
疑いの目を向けながら、腕を組んで周囲に『空圧剣』を展開する。
それを見た天使は目を見開く。
その反応を見て、アマリアズはやはり、といった風に眉を顰めた。
「技能の知識が欠落している」
『空圧剣』を一本飛ばす。
だがその速度はいつもよりゆっくりで、天使は危なげなくそれを回避した。
なんだこの程度か、驚いて損をした、という表情が顔に張り付いていたが、それを引っぺがすようにして『空圧剣』は大きな乾いた音を立てて破裂した。
ッスッパアァンッ!!
想像以上に強烈な攻撃をもろに喰らい、地面を何度か転がっていく。
翼と腕を器用に使ってなんとか立ち上がって構えを取る。
だがその時には既に、真横に『空圧剣』が迫っていた。
「お前、天使じゃない」
ッスッパアァンッ!!
先ほどよりも派手に破裂し、天使を大きく吹き飛ばしてしまった。
残った一体はついに逃走を試みたが、それをカルナは許さない。
「スローリー」
急激に体が重くなり、移動速度が落ちる。
焦っている間にも応錬が構えを取り、ダンッと踏み込んで突きを繰り出した。
『天割』が見事にヒットし、体に大きな穴をあけて地面に突っ伏する。
結局そのまま動かなくなり、キロック領にいた天使は、これですべて始末してしまった。
呆気ない。
応錬とカルナは拍子抜けだった、とポトデラダンジョンへと近づいたが、アマリアズだけは、この呆気なさに、危機感を抱いていた。




