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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第五章 鳳凰・鳳炎、白虎・リゼ
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5.31.実験台


 目覚めると、すぐさま周囲を確認しながら膝を抱えた。

 常にびくびくと怯えているようで、小刻みに体が震えている。

 僕たちの姿を見るとこの世で見たことのないものを見たかのように目を見開き、ガチガチと歯を鳴らしながらずり、ずり、と後退していく。


 僕たちと戦っていたとは思えない程の怯えようだなぁ……。

 めちゃくちゃ声かけにくいんだけど……。

 これ、どうしよう。


 悩んでいると、カルナがしゃがんで、彼女と同じ目線になった。

 怯え方からして無害であると悟ったのだろう。

 警戒心を解き、腰に携えている二振りの直刀を体で隠すようにしながら、歩み寄る。


「大丈夫ですか?」

「……」

「私はカルナといいます。貴方は操られていた様で、そこの二人が助けてくれたのですが、何か覚えておられますか?」

「……………い、痛くない……、枷もない……」


 優しい声に少し安心したようで、自分の姿を見ることができた。

 分厚いコートの袖をまくってみると、確かに手枷を付けられていた後はあるが、今はそれがない。

 足枷もないようで、彼女は手足をさすって久しく感じていなかった解放感を存分に楽しんだ。


 傷がないのはおかしいと思ったのか、しきりに首を傾げて傷口を探しているが、これは応錬が『大治癒』で完治してしまったので、探しても見つけることはできないだろう。

 すると、応錬が小さな瓶を取り出して蓋を開けた。

 それを彼女へと手渡してくる。


「これを飲め、『回復水』だ。内臓の傷を治療する」

「ひっ……」

「む、ううん、こういうのはやはり苦手だ。カルナ、頼んだ」

「慣れない事って分かってるなら前に出てこないでくださいよ……」


 小さな瓶の中に入った『回復水』をカルナに手渡し、応錬はその場から離れていく。

 ついでに僕とアマリアズも連れていき、女から離れることになった。

 こういうのは、同性に任せておいた方がいいだろう。

 酷く怯えているようだし、人数が多ければ警戒心も増してしまう。

 ここは、カルナに任せた方がいい。


 三人が少し離れたことを確認したあと、カルナは向きなおって微笑みかける。

 昔はこんな聞き出し方はしていなかったが、母親となっていろいろ分かったこともあった。

 こういうやり方の方が、かえって信頼を得て話してもらいやすいこともある。


「とりあえず、飲んでください。気分が良くなります」

「……く、薬は……」

「ああ、ご心配なく。これは薬草や魔物の臓物を使ったものではなく、ただの水に回復効果を付与した物なのです。変なものは一切入っておりません。あと、意外と美味しいですよ」

「は、はぁ……。で、では……」


 おずおずと『回復水』を受け取ると、一瞬ためらったが、すぐにくいっと飲み干してしまった。

 一抹の不安が残っている様子だったが、すぐに体の変化に気付いて目を瞠る。

 体をペタペタと触り、息がしやすくなったことに驚いた。

 だがそれだけではなく、息を吸う度に肺に痛みが走っていたのが嘘のように消え去っていたのだ。


「わ、わぁ……! これは……」

「貴方、今までどこに?」


 カルナがそう聞くと、喜んでいた彼女の表情に暗い影が落ちた。

 思い出したかのように周囲を警戒し始め、再び身を震わせ始める。


 天使に使われ、そしてここまで怯えているとなれば、碌な目には合っていないだろうとは予想していたが、これ程に怯えているとなると、その内容はなんとなく想像がつく。

 操られていたのだし、この様子では戦える精神状態ではなかったのは考えるまでもない。


 しばらく口を開くのを待っていると、恐る恐るといった様子で、空を指さした。


「……そ、空……」

「……え?」

「私は、天使に……空に、連れていかれました……」


 大きな手掛かり、そして大きな疑問。

 興奮する気持ちを押さえつけ、カルナは先ほどと変わらない様子で話しかける。


「空に……天使の拠点があるのね?」

「は、はい……。そこで、私は……実験台として……使われてて……」

「貴方、何歳?」

「……信じてもらえるかどうか、分からないのですが……百十四です……」

「へぇ、若いわね」


 さして驚きはしない。

 そういう擬似技能が作られていてもおかしくなかったからだ。

 彼女の見た目は二十代前半から後半程であり、とてもではないが三十には見えなかった。

 それ程若く見えるのだ。


 しかし精神年齢は見た目通りの印象を受ける。

 本当に百十四歳というのであれば、もう少し年寄りらしい言動があってもいいものだが、それがない。


「口調は、見た目通りにして変えているの?」

「い、いえ……。私が捕まったのが、二十五歳の……頃で、生まれたばかりの子が……そう、教えてくれたんです」

「……ちょっと混乱してるわね。もう少し詳しく話してくれるかしら」

「あ、えっと、つ、つまり……。二十五に捕まって、次に目を覚ましたら、生んだ子が八十九歳になっていまして、それだけの年月が経ったのだと、教えてくれたんです」

「……なるほど」


 彼女は捕まってすぐ、何かの実験のために眠らされてしまったのだろう。

 それから擬似技能を付与され、若い姿のまま八十九年の月日を過ごして、ようやく目覚めた。

 歳を取らない擬似技能のようだし、眠っていたために精神年齢の老化は起こらなかったのかもしれない。


「そのお子さんは?」

「私と同じように、随分若かったですね……。だけど、あの子の話し方は、もう老人のそれでした……」

「……擬似技能は、いろんな人に付与できるのね……」


 マズいことになりそうだ、とカルナは片手で顔を覆った。

 しかしまだ聞かなければならないことがある。

 すぐに手を避け、目線を合わせた。


「……ちょっと酷かもしれないけど、貴方が覚えている限りの中で体験したことを、教えてくれるかしら」

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