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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第五章 鳳凰・鳳炎、白虎・リゼ
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5.29.合流


 倒れたまま動かなくなった女を、未だに警戒しながら見ていたが、いくら待ってもやはり動かず、既に意識がないように思えた。

 アマリアズと顔を見合わせる。


「え、これは……」

「さっきのがこいつを操ってた術者だと思うんだけどね。できれば話を聞きたいところだけど……まず生きてるかどうか確かめよう」


 大丈夫だということはなんとなく分かったので、僕とアマリアズはその女子に近づいた。

 アマリアズが手を取って脈を取ってみると、こちらを向いて頷いた。

 どうやら生きているらしい。

 操られていたというのはあながち間違っていないかもしれないが、さっきの魔法は明らかに技能レベルの攻撃力を有していた。


 あれが擬似技能だとするなら……。

 この人がその実験に使われた人だという可能性は十分にある。

 いや十中八九そうなんだろうけどね。


 貴重な情報源……。

 気絶してるから起きそうにないけど、操っている術者の術中から抜け出せたんだから、落ち着いたところで話を聞くことはできるかもしれない。

 とはいってもこの状況じゃなぁ……。

 向こうは爆撃され続けてるし、天使も動き出したわけだからもう収拾がつかなくなってきてる……。

 兵士さんも動いてるけど、あんまり意味を成してなさそうだ。


 まぁ、天使の侵攻だからね。

 技能持ちに合わせて、テキルの魔道具をふんだんに使っての攻撃だし、一般の兵士が手に負える案件じゃない。

 僕たちも何とかできるような力は持っていないけど……。

 とにかくこの人は重要人物だ。

 是が非でも後で話を聞かないと。


「アマリアズ、どうする? このままここにいると襲われるかもしれないけど」

「んんんん……! くっそう、やることが増えていく……! とにかく! こいつは連れていこう! さっき天使がこっちを見てたし、応錬さんの方で何か起こったのかも。各個撃破されるより、全員集まって情報を共有した方がいい!」

「そんじゃ、応錬さんのところに向かおうか!」

「んじゃその人頼んだ!」


 そこは僕に押し付けるのか。

 まぁ、力もあるからいいけどさ。


 気絶している女を肩に担ぐ。

 こういう状況なので多少雑な運び方になるのは許して欲しい。

 アマリアズが『空間把握』で応錬の位置を把握し、指をさしてから先導して走っていく。


 カルナに掛けてもらっていた技能の効果は既に切れているので、ここからは普通に移動するしかない。

 警戒しながら走るが、少し遠くを見やれば爆弾のせいで更地になっている場所があり、違う方を見てみれば、逃げ惑っている領民が幾人も散見できた。

 もう爆発は起きていないようだが、死傷者は多く出ている。


 走りながら、アマリアズに声を掛けた。


「で、結局天使の目的って何さ! こんな人使って!」

「擬似技能ってのが、人間に仕込むことができる様に調整してるんでしょ。術者がいるのが気になるけど……。まだ完全じゃないのかもね」

「人間の住むところを破壊してでもしなきゃいけない事なの!?」

「実験はついで、でしょ。本来の目的はポトデラダンジョンの崩壊なんだから。まぁ、それはもう無理だけどね」


 応錬の『土地精霊』によって、地盤は強固になっている。

 あと何百回爆発を発生させたとしても、ポトデラダンジョンが崩壊することは決してないだろう。


 そしてこの騒ぎに乗じて、擬似技能の実験。

 だが目的がこれだけではない、というのはアマリアズも考えていた。

 話はそこまで単純ではないはずだ。


「とりあえず、情報を共有しないと何も分かんない。応錬さんとカルナさんが何か掴んでることを祈ろう」

「……」


 やはり、天使には腹が立つ。

 ギリと歯を食いしばり、この領地と前鬼の里を比べた。

 ただ普通に生活していただけなのに、こんな事になるなんて誰も思わなかっただろう。


 天使の企みのせいで、罪のない人々がどうして犠牲にならなければならないのか。

 今背に背負っている女もそうだ。

 擬似技能の実験材料にされていたのだとしたら、彼女も被害者である。

 襲ってきたとはいえ、操られていたのだから、彼女に罪はない。


 険しい表情をしていたのに気づいたのだろう。

 アマリアズが横目でちらとこちらを見やり、また目線を前に戻す。


「君の言いたいとこは分かるけどね。だけど相手は天使だ。本当の目的も分かってないし、人数の把握もできていないし、どこまで勢力が広がっているかも分からないし、本拠地だって、魔道具のレベルだって、なーんにも、分かってない」


 擬似技能を作った先に何があるのか。

 その詳しい情報は、今のところ何も分かっていない。

 先ほど教会で集めた資料の中にそれがある可能性はあるが、極めて低いだろう。

 天使がこの四百年間密かに続けてきたことがようやく明るみになってきたが、逆に言えば四百年もの間、悪魔にバレることなく隠れ続けて実験を続けていたのだ。


 そんな極秘情報が、あの教会にある筈がない。

 精々このキロック領に、どれだけ天使の息がかかった者がいるか分かる程度だろう。


「だからこそ、今君が背負ってる人の情報が必要だ。絶対に、死なせないでね」

「……分かった」


 ダンッと力強く大地を踏みしめ、走る速度を少し上げた。

 ようやく応錬の気配を感じることができるようになり、アマリアズの案内なしでも向かうことができるようになる。

 迷いなく真っすぐ走っていくと、その隣からカルナが近づいてきたことに気が付いた。


 それに合わせ、二体の天使の死体が、応錬の足元に転がっているということも分かったのだった。


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