5.27.教会内部
「おじゃましまっす!!」
「あっちょま──」
バカンッ!!
強気蹴り飛ばされた扉は簡単に吹き飛び、金具が壊れて大きな音を立てながら倒れてしまった。
この音に気付かない者はいないだろう。
絶対に誰かが聞きつけて来る、と警戒したが、いくら待ってもしーん、と静まり返った空気だけしか返ってこない。
おや、と思って顔を上げてみると、教会の中は真っ暗だった。
気配を辿ってみても、人の気配は感じられない。
アマリアズは既にそれが分かっていたのだろう。
いやぁ……僕は逃げている人の気配が多すぎて判別しにくかった……。
でも中に入ってみるとよく分かるな。
本当に誰もいない。
となると、調べ物がはかどりそうだね。
……う、ううん、なんか泥棒みたいだな。
アマリアズが『空間把握』を使ってこの場から周囲の状況を探っている。
無機物も把握することができるので、調べ物は意外と得意なのだ。
しかし細かいものを探るとなると時間がかかるらしい。
僕が周囲を警戒しながら、アマリアズの調査が終わるのを待つ。
「応錬さんが言ってた馬車ってのはあれか。んで倉庫は……ここね」
「どう?」
「あったあった。めっちゃ爆弾置いてある。向こうに書類が置いてあるから、ちょっと調べに行ってみよう」
「了解」
歩くたびに足音が教会の中に響いてしまうが、誰もいないと分かっているのであまり気にせずに走っていった。
外から見ていても分かったが、この教会は意外と大きい。
大きなシャンデリアや高級そうな燭台などが、廊下の装飾のためだけに使われていることから、相当な財力を有しているということが分かる。
天使がこの場所にいたというし、件の四天教会に繋がる手掛かりがある可能性は高い。
今から向かう場所にそれがあればいいが、と願いつつ、アマリアズが案内してくれた部屋の扉を開けた。
入ってみると、確かに多くの書類が積まれている。
ついでに爆弾の入った箱もあった。
どうしてここにあるのか疑問に思ったが、アマリアズはここも爆破するつもりだったのだろう、と言っている。
それが真実かどうかは分からないが、なんにせよここにあるのは危険なので、魔法袋の中に仕舞い込んだ。
怖いもの知らずなのか。
しかし、周囲を見てみる限り、これだけの数の書類を一つ一つ調べるというのは時間がかかりすぎる。
一度持ち帰った方がいいのではないか。
そう考えている真横で、アマリアズはがっさがっさと書類を片っ端から魔法袋に入れていた。
「ぬおおおおおい!?」
「え? なに」
「え、いいの!?」
「だって調べる時間なんてないしー」
それは僕も考えてたけどさっ……!
な、なんだこのもやもや!
ああ、もういいや。
アマリアズに資料の回収は任せて、僕は違うところ探してみよう。
適当に歩いて回り、とりあえずこの部屋を調べてみた。
とはいえ書類以外に特に気になる物はない。
「んん……」
なーんもない。
というか、お偉いさんがいる部屋とかないのかな。
そこに行ってみればもっといい情報が手に入りそうな気はするけど。
少し集中して、周囲の気配を辿ってみる。
ウチカゲお爺ちゃんの様にはいかないけど、僕だってできないことはない。
「……?」
そこで、足元に何かが伝わった気がした。
僕の持っている『大地の加護』によって気配感知が敏感になっていたから分かった些細な振動だ。
眉を顰め、その振動が何だったのかを探ってみることにした。
爆発の衝撃などとは違う振動。
喩えていうのであれば、雫が水溜りに落ちた時に生じた小さな波紋が、足の裏を通り抜けていったような感じだ。
それは今僕たちがいる部屋を走り回り、天井の一点に集まり切って消滅した。
目を開けて、その波紋が消えた場所を見てみるが、何もない。
アマリアズは今の振動に一切気付いていないようで、最後の書類を魔法袋の中に突っ込んだところだった。
「アマリアズ、なんか感じなかった?」
「え? ……いいや?」
やはり分からなかったらしい。
これは無視してもいい振動だったのだろうか?
だが、自分にだけ分かるというのは、なんだか妙だ。
悩んでいると、アマリアズが眉を顰めた。
なにを考えているのか、おおよそ想像がついたのだろう。
「何を感じたの?」
「なんか、振動。波紋が天井のあそこに集中して、消えていった」
「波紋、振動……。振動……………………『反響探知』……?」
アマリアズがそう呟いた瞬間、僕の気配感知が強い殺気を感じ取った。
すぐに身構えると、大きな音を立てて槍が壁を貫通してきた。
それを腕で撫でるようにして滑らせ、火花を散らしながら軌道を逸らす。
後ろに飛んでいった槍は勢いを殺すことなく、僕たちの後ろに飛んで行って壁を貫通して消えていった。
「アマリアズ!」
「分かってるっての!」
僕たちはすぐに戦闘態勢を整え、まずは壁を破壊して外に出ることにした。
一気に踏み込んで『爆拳』を発動させて壁を壊し、外に転がり出る。
恐らく敵は天使だと警戒していたのだが、どうやら……違った様だ。




