5.23.戦闘開始
今の状況としては、敵勢力に天使が六名と人間が二十人。
だが高性能の爆弾を多く所持していることが分かっているので、迂闊に近づけない。
彼らはポトデラダンジョンを潰すために、こちら側に向けて爆弾を起動させ続けている。
今、応錬の『泥人』が爆弾を無力化するために走り回っているが、もう既に様々な場所に爆弾が運ばれてしまっていた。
一体だけで処理しきるのは無理だろう。
しかし、ダンジョンの崩壊は阻止することができた。
これで気兼ねなくこちらに集中することができるのだが、領民は今も尚逃げ惑っており、混乱している。
兵士がようやく立て直し始めたので、しばらくすれば避難誘導を行ってくれるだろうが、大して期待ができないのが現状である。
その前にまた爆弾が起爆するかもしれないからだ。
そうなってしまえばまだ混乱してしまうし、被害も大きくなっていく。
既にこれでもかという程損害を被ってるわけではあるが、そこで一つ、また分からないことが脳裏に浮かんだ。
ダンジョンを壊すだけであれば、キロック領を破壊する必要はない。
ポトデラダンジョンの周りには森があるのだから、そこで隠れながら作業をする事もできたはずだ。
だが彼らがとった行動は、ポトデラダンジョンを潰すついでにキロック領を破壊するというもの。
天使の勢力がこれをやったと知られれば、彼らの信頼は一気になくなる。
この事がガロット王国に伝わったのであれば、国民の考えも変わるかもしれない。
「……でも、どうして……?」
あの爆弾が用意されているということは、入念に準備をしていたのだと思う。
だからこそ、キロック領をついでに破壊するというのは、当初からの計画の内だったはずだ。
緊急を要する時代が起きたために、キロック領内で仕方なく起爆させたのではない。
悶々と考えていたが、結局答えには辿り着かなかった。
なんにせよ、今は……あいつらを何とかしなければ!
「カルナ!」
「任されました。『クイックリー』」
僕たちの移動速度が急激に上昇する。
まずはここから離れるのが先決だ。
このままではずっと爆撃を浴びることになってしまうので、真正面から突撃するよりも、一度迂回して横から突撃した方がいい。
全員が即座に移動を開始する。
応錬が『操り霞』で天使のいる場所を把握しているので、本隊を叩くためにそちらへ赴いている様だ。
「応錬さん! 天使は!?」
「まだ高みの見物だ。俺はそっちを叩く。お前たちは途中から分かれて爆弾を何とかしてくれ!」
「アマリアズ、指示よろしく!」
「ええっ私!? ってそうか、索敵系技能私と応錬さんしかいないからな……。分かったよ」
アマリアズが『空間把握』で敵の位置を把握した。
その瞬間、応錬の後を追うのを止め、小道に入る。
三人で移動し続け、ある程度の場所まで来たら一度止まった。
そしてアマリアズが指示を出す。
「敵の服装は普通の人と同じだけど、爆弾を必ず抱えているから、すぐに分かる。カルナさんは向こうに、私と宥漸君はあっちに行こう」
「お母さんは別行動なんだ」
「カルナさんは一人でも何とかなる。でも私は宥漸君の『身代わり』がないとやばい」
「あ、そうか」
お母さんは確かに……何とかなりそう。
でもアマリアズは遅いもんね。
ウチカゲお爺ちゃんに機動力に欠けるって何回も言われてたし。
「……なんか失礼なこと考えてない?」
「カンガエテナイヨ」
「あ、そう」
勘だけはいんだもんなぁ。
「って、あれ? お母さんは?」
「もう行ったよ。ほら、私たちもいくよ!」
「はやっ! 了解!」
まだかけてもらった技能の効果が残っていたので、僕とアマリアズはすぐにその場から移動した。
アマリアズが周囲の敵の位置を把握してくれていたので、敵は簡単に見つけ出せた。
手に大きな黒い塊を持っている。
それには赤い光が幾本も走っており、不気味に光っていた。
あれが件の爆弾で間違いないだろう。
道中でアマリアズに『身代わり』を掛けておいたので、もし爆発しても問題はないはずだ。
二人で同時に襲い掛かり、敵を一人無力化させる。
僕は頭を蹴り飛ばし、アマリアズは片刃の『空圧剣』の峰で首を思い切り叩いた。
二度の衝撃によって首が踊り、簡単に地面に倒れてしまう。
同時に、爆弾が地面を転がってしまったが、ちょっとやそっとの衝撃では爆発しないようだ。
アマリアズはそれを手に取り、すぐに魔法袋の中に押し込んだ。
「え、持っていくの!?」
「起動方法は今見て分かった。遠隔操作じゃないよこれ。だから持って行っても大丈夫。何かに使えそうだし」
「怖いな……」
「ほら次行くよ!」
こんな調子で、アマリアズの指示に従って敵を倒して、爆弾を没収して回った。
だが間に合わなかった場所もあり、何度か爆弾を起爆させられてしまったが、こちらの被害はない。
天使を応錬が足止めしてくれている間に、何としてでも爆弾を何とかしようと走り回った。
しばらくこれを繰り返し、回収した爆弾の数は二十個ほどになった。
倒した数は五人程度だが、その近くの箱の中に、爆弾が幾つか入っていたのだ。
だが、運び込まれたのはこれだけではないはず。
どこかにこれを保管する場所があるはずだが、それは一つしかなかった。
二人は、高くそびえる教会に視線を向けた。
「行く?」
「行くかぁー……」
頷き合い、そして教会へ向けて走り出した。




