5.20.魔力蓄積装置
僕とアマリアズが応錬さんを咎めたが、実際彼は何も悪くない。
しかしその膨大過ぎる魔力総量のせいで、貰っていた魔力石がすべて消滅してしまったのだ。
少しくらい文句を言わせてほしい。
鳳炎という人物が気を利かせて持ってきてくれることに期待するのもいいが、やはりそれでは不確定が過ぎる。
この魔道具店にそういったものがないか期待しながら、カルナが聞いてくれた。
「イルーザさん、魔力を溜める魔道具など、ありませんか?」
「ありますよ」
「「「あるの!?」」」
「何年私が魔道具研究をしていると思っているんですか」
ひょいひょいっと指を振ると、また魔道具がこちらの飛んできた。
机にコトリと置かれたものは正方形で、青白い光が無数に走っている。
これが魔力回路だということはすぐに分かったが、ここまで小さいものだと回路を組み込むのには相当難しかったのではないだろうか。
それを応錬に渡して、握らせる。
指を鳴らすと、小さな音が鳴った。
「痛っ!!」
「落とさないでくださいねー」
「おいなんか刺さってんだけど!?」
「魔力針です。応錬さんの魔力回路から直接魔力を抜き取っています」
「怖いな!? 最初に説明しとけよ!!」
しばらくの間そうしていると、音が止んだ。
手を開くと、青白い色から赤い色に変わっている魔道具があった。
それを摘まみ上げて確認していたが、すぐに頷いて僕に手渡してくれる。
「はい、どうぞ。二万の魔力が入っています」
「あ、ありがとう、ございます?」
どっちにお礼を言っていいか分からなかったので、とりあえず二人の顔を交互に見て頭を下げておいた。
手に持ってみると、この魔道具は非常に軽く、持ち運びやすい。
この中に魔力が二万も入っているとは誰も思わないだろう。
だがこれは繊細なものらしく、一定以上の衝撃を加えてしまうと簡単に壊れてしまうらしい。
強く握っただけだけでもよくないらしく、本当に丁寧に扱わなければ魔力をこの箱の中に維持できないのだとか。
「もっと硬くできればよかったのですが、材料がなかったのでそういうわけにはいかず……」
「いや、だがこれでダンジョンに入ってリゼを助けることができそうだ。毒に抵抗するものはあるか?」
「マスクがあります。応錬さんには必要ないでしょうけど」
「そうだな。だから三人分頼めるか?」
「分かりました」
イルーザが立ち上がり、隣にあった棚の引き出しの中から、幾つかのマスクを取り出してくれた。
ずいぶん硬い素材で作られているようで、光沢がある。
様々な人の顔の形にフィットする様にして綿が取り付けられており、後ろで縛って固定するもののようだ。
よくよく観察してみると、小さな穴が開いており、フィルターのようなものが中に仕込まれている。
これが毒を除去してくれる重要な部分なのだろう。
それを、七つほど手渡してくれた。
こんなにいるだろうか、と思ったが、どうやらこのフィルターには使用制限があるらしく、使い始めて五時間で毒を除去してくれなくなるらしい。
部品を交換すればすぐにでも使えるようになるが、ダンジョン内では無理がある。
なので二セットは持って行ってもらうのだとか。
だがポトデラダンジョンは意外と浅いダンジョンの様だ。
とはいえ中にいる魔物が強力なので、踏破できた人は今のところいない。
この魔道具を持って行ったとしても、中腹に行くまでにマスクの効力は失われてしまうだろう。
それに合わせて、マスクの交換部品と一つのカンテラを手渡してくれた。
「カンテラ?」
「それは一定範囲の周囲の毒を吸収して結界を張ってくれる魔道具です。魔力を流さないといけないことがネックですが、三十秒くらいで結界が形成されて、その場所は安全になります。これを使って、マスクの交換などを行ってください」
「おお……なるほど……」
見た目は普通のカンテラだが、これが簡易的な結界になるのだから大したものだ。
そこでふと、気付いたことがあったので周囲を見渡してみた。
数多くの魔道具が並んでいるのだが、そのどれもが目立つものは無い。
自然に溶け込むように作られており、言われなければ魔道具だと気付かないものばかりである。
もしかしたら彼女は、インテリアにもこだわりを持っているのかもしれない。
これであれば、窃盗されることも少なくなるのではないだろうか。
早くも、ポトデラダンジョンに挑むための道具が揃ってしまった。
食料などは道中ですぐに買い込めるだろうし、今から向かっても問題はないだろう。
「助かったぞ、イルーザ。で、お前はどうする」
「お手伝いしたいのはやまやまですが、何の報告も来てませんでしたから……今どういう状況になっているのか、分かりません。なにかできることはありますか?」
「……そういえばお前って戦えるの?」
「ジグル君に魔術を教えたのは私ですよ?」
「あ、そうだった。じゃあ安心か」
応錬が、カルナと目を合わせる。
魔道具の扱いに長けている彼女であれば、情報収集をしてくれるかもしれないと思い、頼みこむ。
「天使の動向を探ってくれ。ダチアたちも動いてくれているからな。ここで何か有益な情報を掴むことができれば対処のしかたや、本拠地も分かるかもしれん」
「ふむ、なるほど。できる限りのことはやってみましょう」
「頼んだ」
そこでイルーザが指を振った。
カーテンや窓が開き、暖かい風が通り抜ける。
どうやら『静寂』が解除されたようだ。
僕は魔道具を丁寧に手に持って、懐に仕舞った。
それだけでは心配だったので、一応布でくるんでおく。
アマリアズがカンテラを持ってくれたので、マスクを持つことにした。
「よし、じゃあ行きますかね」
イルーザに挨拶をしてから、僕たちは店を出たのだった。




