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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第五章 鳳凰・鳳炎、白虎・リゼ
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5.19.イルーザ・マチス


 応錬がそう叫びながら入ると、中からドタドタという慌てて走ってくるような音が聞こえた。

 途中で何かをひっくり返したようでガラスが割れる音や、棚から物が落ちるような音が盛大に聞こえてきたが、そんなのはお構いなしに、彼女は姿を現した。


 魔導士のようなローブを着ており、頭には三角帽子を被っている。

 首からはペンダントがぶら下がっており、それには歪んだ星のマークが描かれていた。

 藍色の髪の毛を乱しながら目を瞠っている彼女は、すぐに帽子を取って笑顔になる。


 頭には、青く尖った角が生えていた。

 鬼のように綺麗な角ではなく、少しだけねじれている。

 この人は……悪魔だとすぐに理解することができた。


「おおおお、応錬さん!!?」

「なんでてめぇがこんな所にいるんだよ!!」

「なんで目覚めてるんですか!? 封印は!?」

「うるせぇ質問に質問で返すな!」


 笑いながら、そう言い合って高らかに笑った。

 彼女も控えめではあったが、同じ様に楽しげに笑う。


「ええええ何がどうして……!」

「いろいろあったんだよ。ていうかお前成長した? 背が高くなってるじゃねぇか」

「あれから四百年ですよ? 悪魔だってそりゃあ成長しますよ」

「それもそうか」


 すると、彼女はこちらに気付いた様だ。

 僕とアマリアズを見て首を傾げ、カルナを見て笑顔になった。

 すぐに駆け付けてきて、その手を取る。


「わぁカルナさん! どうしたんですか貴方まで! 前鬼の里にいたのでは?」

「久しぶりですね、イルーザさん。まさかあなたがここにいるとは……」

「いやぁ~毒に対抗する魔道具っていうのは人間の体に作用する抗体を作るようなものなので技術力が必要でしてね。もう普通の魔道具では面白くないと思って七十年前にここに移動してきたんですよー。人間の体に直接作用するものを作ることができれば、アトラック様やルリムコオス様のお体も何とかなるのかもしれないと思って日々研究を続けておりまして、実はいくつか実を結んだ魔道具がありましてそれを媒体にしてあのお二方の治療を──」

「ストップ、ストップ……」


 お母さんがイルーザさんを少し離しながら、口元に人差し指をつける。

 魔道具のことになると口がよく回る人の様だ。

 止めていなければ、ずっと語り続けただろう。


 その悪い癖は自分でも理解しているらしく、はっとして口元を押さえた。

 申し訳なさそうに両手を合わせ、舌を出す。

 反省はしていなさそうだ。


「にしても、お前。何も知らないんだな」

「え? なにがですか?」

「俺がここにいることに、まず疑問を抱くべきだ。驚くより先にな」

「……あ」


 数秒考えて、ようやく答えに辿り着いたらしい。

 すぐに帽子を被ってパチン、と指を鳴らした。


「『静寂』」


 冷たい空気が体を通り抜け、部屋のカーテンや窓がすべて勝手に閉じられる。

 看板もオープンからクローズに変えたらしく、扉からカコンッという音も聞こえた。

 先ほど散らかしてしまったものもこの一瞬で片付けたらしく、綺麗に整頓されたようだ。


 もてなすためのお茶や茶菓子がふよふよ浮かびながら机に置かれ、椅子も勝手に引いた。

 イルーザはそこに座るように促し、自分は早々に席へと着く。

 周囲の状況に驚きながら僕たちも同様に席に着くと、イルーザが口を開いた。


「天使ですね」

「分かったか」

「はい。皆さんはポトデラダンジョンの最奥に眠っているリゼさんを救出しに向かうのですね?」

「その通りだ。だが天使は既にこのキロック領に潜伏していてな。邪魔される可能性もある。更に行ったとしても魔力が足りなくてリゼの封印を解けないんだ」

「応錬さんの魔力があるではないですか」

「封印を解くのは俺じゃない。こいつだ」


 そう言って、僕の頭に手を置いた。


 うわああああまた変な感触がっ!!

 さ、触られるのって慣れないな……。


 イルーザは『なるほど』と小さく呟いて、指を振った。

 すると周囲から魔道具が幾つか飛んできて、それを手に取り確認を行っている。

 しばらくするとそれを僕に向けた。


「君、お名前は?」

「宥漸です」

「……ゆうぜん……。宥漸!? えっカルナさんもしかして……!」

「私の息子ですよ」

「ほえー!!」


 どうやらこの人も、僕のお父さんのことについて知っている様だ。

 なんかこうしてみると、世間って狭いなぁ……。


 しばらく感心しながら魔道具を弄っていたが、それを机に置き、もう一つの魔道具を手に取る。


「あのおチビさんがここまで大きくなったんですね~……。いやぁ、人間の成長は早いですね。えっと、宥漸君の魔力総量は二百六十ですね」

「……多いんですか?」

「少ないです」

「あ、そうですか……」


 な、なんか少ないって言われると悲しいな……。

 ……ちょっとアマリアズ、なに押し殺して笑ってんの。


 だが、そこでイルーザが首を傾げる。

 どうやら何か腑に落ちないことがあるらしく、応錬を見て問うた。


「応錬さん? 貴方の魔力総量って幾つでしたっけ」

「三十万だ」

「宥漸君、あの『封殺封印』を解くために、何か使いましたか?」

「魔族領で魔力石と言うものを集めて使いました。アトラックさんが選別してくれましたよ」

「あははは……知らなかったのか、アトラック様……」


 コホンと咳払いをし、向きなおる。


「『封殺封印』を解くために必要なのは、封印対象と同等の魔力を込める事です」

「「……えっ」」


 僕と応錬が、同時にそういった。

 カルナも驚いているが、この話からするに……アトラックさんに選別してもらった魔力石が一気になくなった理由がなんとなく分かった。


 それを、アマリアズが焦った様子で確認する。


「ちょ、ちょっと待って? っていうことは……応錬さんの封印を解くために、三十万の魔力が必要だったってこと……?」

「貴方の言う通りです」

「「ちょっと応錬さん!!」」

「いやだから俺のせいなのかよ!!」

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