5.18.調達
意外にも盛んに貿易が行われていることに驚きつつ、街を見渡しながら警戒を続けていた。
商人が二列、三列の馬車を馬に引かせて大通りを通っていたり、隣の通りでは屋台が多く出ていて入国者を歓迎してくれている。
専門店なども多く建ち並んでおり、武器や防具、服やら薬屋らと本当に様々なものがこのキロック領には点在していた。
これだけ発展しているのだ。
ここを治めているオーラム王国という国は、もっと大きなものであることに間違いはないだろう。
第二の都市と言っても遜色がないほど、立派な街並みが佇んでいた。
僕たちはキロック領に入ったが、特に怪しまれることもなく普通に入国することができた。
応錬とアマリアズの色は目立つ。
なので応錬は帽子を、アマリアズは黒いローブを着こんでいた。
「応錬さん、それ……意味ありますか?」
「今これしかねぇしなぁ……。カルナのだからちょっと小さいけど」
「いや、和服でもすでに結構目立ってますけど……」
「様式が違うからな」
和服は、どこに行っても目立つ。
キロック領の人たちは前鬼の里のような服を着てはいないので、やはり一人だけ浮いてしまっている。
とはいえ、少し目に付くだけで、あまり気にはしていないようだ。
それならそれでありがたいけど、天使とかに見られたら一発でバレそうだよなぁ……。
アマリアズの目立つ箇所は頭だけだし、ローブを着ているお陰で問題はなさそう。
これもお母さんのだけど。
アマリアズも、応錬の服装を見て渋い顔をしている。
やはりこれでは、目立ちすぎる。
とはいえ、今はこの服しか持ち合わせていないようだし、仕方ないと言えばそうなのだが……。
「うーん、何処かで服を調達した方がいいんじゃない? 先手を取られたくないし」
アマリアズは、ポトデラダンジョンを探索する前に目立たない服を調達する方が先だと考えた。
確かに先手を取られるのは良くないなぁ……。
相手が技能を持っている以上、どういう技を使ってくるか分からないし、アマリアズと応錬さんの索敵技能をかいくぐって接近してくる可能性もある。
それでも応錬さんなら対処できるかもしれないけど、僕たちは多分無理だ。
お母さんは分からないけど。
なんにせよ、アマリアズの提案には賛成かな。
これから移動するにあたって、少しでも目立たない方がいいと思うし。
「そうですね、確かにそっちの方がいいかもしれません」
「ふむ、しゃあないな。じゃあ適当に見繕うか」
最初の目的地は決まった。
すぐに服屋にはいり、ささっと買い物をして応錬に着てもらう。
上に着ている羽織だけは脱いでもらって、少し大きめの茶色い外套を羽織ってもらった。
ローブではなくマントに近いものだ。
丁度くるぶしまで丈が下りているので、白い服も隠すことができている。
帽子はそのままだが、先ほどよりは目立たなくなっている。
これであれば、何とかなるだろう。
「で、応錬さん」
アマリアズが問う。
「天使は、今どこにいる?」
「教会だな」
腕を上げて、すっと指を指した。
そちらの方向を見てみると、確かに大きな教会が見える。
やはり教会なのか、と妙に納得したが、天使は目立つ。
彼らもまだ大手を振るって活動はできないはずだ。
応錬は常に天使たちの動向を確認しているらしい。
彼らの味方らしき人間たちは教会の人間であることは間違いないらしく、天使の指示に従って動いている様だ。
なにをしているかはさっぱりだが、禄でもないことをしようとしているのは確かである。
「早いところ、ここを出た方がよさそうだ」
「ではポトデラダンジョンに挑むための物資を調達しましょう。ここではそのダンジョン用のアイテムが豊富にありますから」
「ダンジョンの中で休むためのアイテムもあるか?」
「技能がなくなり魔法が主体となりましたが、この四百年で魔道具は大きく進化しているはずです。なのであると思いますよ」
「んじゃ、行ってみるか」
カルナの言う通り、確かに魔道具は様々なものが作られている。
高価ではあるが、非常に有用な道具だ。
だけど、その金額を支払えるだけのお金があるのだろうか……?
僕とアマリアズは顔を見合わせたが、とりあえず任せることにしようということになり、二人の後を追っていった。
しばらく歩いて到着した場所は、蝙蝠の看板が立てられている道具屋だった。
一見何の変哲もない店ではあるが、その看板を見た応錬は眉を顰める。
「……まじか」
「え、どうかしたんですか?」
「馴染みの顔が何でここで店やってんのかなぁーって思って」
そういいながら、扉を開けて中に入った。
「おいイルーザ!! お前何してんだこんなところで!!」




