5.14.移動中での雑談
翌朝になったと同時に、僕たちは竜三匹に跨って移動を開始していた。
飛竜のラックは体がとても大きく、四人全員が乗ることができた。
鞍も何もないので振り落とされないか少し不安だったが、ラックは大地を走ってくれており、随分僕たちに気を使ってくれているらしい。
大きな足音を立てて走ってはいるのだが、揺れはほぼなく、快適だった。
ひ、飛竜が走ってるの凄い不自然なんだけど……。
ていうか木々の間を綺麗に通り抜けるの凄いな。
体大きいのに……。
因みに、騎竜のリックとパックは護衛を兼て一定の間隔を保ちながら並走している。
時々獣を見つけては蹴飛ばして咥え、あとで食べようと持ち運んでいた。
「す、すごいですね……」
「昔はこんな器用な奴らじゃなかったんだけどなぁー」
「そうなんですか?」
「ああ。昔はこいつらの飼い主が居てな。閉鎖的な空間で子供の頃から過ごしてたみたいだぞ」
話を聞いてみると、この三匹は昔、サレッタナ王国で飼育されていたらしい。
その飼育場所は三匹にとっては狭かったようで、しばらく肩身の狭い思いをしていたのだが、応錬さんたちが連れまわしていたのだとか。
当時はそうした方がいい状況だったらしく、とても助けられたらしい。
そこでアマリアズが口を挟んできた。
「そもそも、飛竜は自由気ままな性格で、騎竜は血気盛んな性格の個体が多い。行動を制限されると、どちらもグレることがあるはずなんだけど、この三匹はそういうのないんだね」
「はははは、そりゃローズの教育が良かったんだろうなぁ! ああ、そういえば昔の仲間について何か知ってるか? 気になってたけど聞くタイミング完全に失ってたわ」
そういいながら、応錬さんはラックの背を叩く。
ラックも長く生きているので、昔のこともよく知っているはずだ。
応錬さんが眠ってから起こったことも。
ラックは『ガルル』と何度か喉を震わせ、応錬に昔話を聞かせている様だ。
僕も、応錬さんに聞きたい事が結構あるかも。
お父さんのこととか、その鳳炎さんやリゼさんのこと。
悪魔さんたちとの関係とか……ウチカゲお爺ちゃんとかの話。
でもお母さんが近くにいる所で、お父さんの話をするのはなんかあれだな。
それはまた今度聞いてみよう。
「へぇ!! あいつらすげぇな!! いやぁ流石ジグル。こりゃリゼも鼻が高いなぁ」
「グルルル」
「え、マジ? あの婆さんまだ生きてんの? 怖すぎんか」
「ガル……」
「悪魔並みの生命力だな……」
うーん、僕たちにも分かるように話をして欲しい……。
ていうか、お母さんも昔のことはウチカゲお爺ちゃんから教えてもらってるんじゃないかな。
そう思って聞いてみると、にこっと笑って頷いた。
今まではずっと、今生きてるこの時代しか興味がなかったけど、お母さんは四百年からここに飛んできた人だ。
生き証人がここにいるとなれば、やはり昔の話と言うのは……。
「気になる!」
「そうねぇ。何から話しましょうか」
「移動中暇だしな。いまなら、何でも話せるぞー」
僕とお母さんの間に入ってきた応錬さんが、楽しそうに笑っている。
四百年前を知っている応錬。
更に今の時代を知ってるカルナ。
そして、四百年前から今に至るまでを知っている飛竜のラック。
生き証人がこれだけいるのだから、答えられないことはほとんどないだろう。
だからすぐに、僕は応錬さんにお父さん以外のことで一番気になってたことを質問してみた。
「ウチカゲお爺ちゃんとはどういう関係だったんですか?」
「その質問意外と難しんだよなぁ。護衛というか、友人というか……。なんにせよ慕ってくれてたのは確かだが。ほら、俺って昔、白蛇だったから」
「え?」
……白蛇?
あれ、なんか前鬼の里で聞いたことがあるような……。
「……もしかして、白蛇様?」
「あ、やっぱり知ってたか」
「ぬええええ!? 信仰対象だったんですかぁ!!?」
「そうなんだよなーっはっはっはっは」
た、確かにそれは正確な関係性を口にしにくい……!
どういう立場だったんだこの人……!
ま、まぁ初めてこの人を見た時は竜の姿をしていたし、昔は違う生物だったこともあるのかもしれない。
……いや、それはないでしょ。
元から龍で、その時は小さな蛇みたいな姿だったってことでしょ?
「いんや、違うな。俺は元々白い小魚だった。そんで蛇に進化して、次に龍の成り損ない。その次に青龍になって、最後に応龍になった」
「魔物って進化するんですか……?」
「俺たちが特別だっただけだな。普通は種族まで進化しないさ」
へぇー、そうなのか……。
技能を沢山持っていたり、進化して強くなったり……。
今は人の姿を取っているけど、これも技能か何かなのだろうか。
でも人の心に近いものを感じるし、生粋の魔物というわけでもなさそうだ。
確かに、これは応錬さんの言う通り彼らが特別な存在であるが故のものだろう。
僕にはその真意は分からないが、アマリアズはなにか知っているらしく、また口を尖らせてそっぽを向ていた。
この話に混じる気はなさそうだ。
「じゃあ、鳳炎さんって人は、どんな人なんですか?」
「あいつはな……めっちゃくちゃ頭が良かった」




