5.13.飛竜と騎竜
目の前にいるのは、恐らく飛竜と騎竜だ。
話には聞いたことがあったが、実物を見たことはなかった。
平然と三匹の竜に挨拶をするお母さんに、僕とアマリアズは驚愕の表情を浮かべる。
しかし、しばらくするとアマリアズは何かを思い出したようで、膝を叩いた。
「あん時のか!!」
「ガル?」
飛竜が首を傾げる。
しばらくじっと見ていたが、結局ふいっと首を戻してお母さんの方を向く。
なんで飛竜に懐かれてるの……?
ていうか名前知ってたよね。
え、どういう関係なの!?
「え、ちょ……。お母さんこの竜たちの事知ってるの!?」
「ええ。まぁーここまで大きくなってるとは思わなかったけど、応錬さんが呼んだのはこの子たちだってすぐに分かったわ。一匹だけだと分からなかったかもだけど、三匹いれば嫌でも分かるわ。ねー」
「ガルル」
「「ギャギャッ」」
そういいながら、カルナが飛竜の頭を撫でる。
人に慣れているようで、嫌がったり噛みついたりするようなことはない様だ。
騎竜たちも撫でてもらいたいらしく、カルナの下へと集まっていった。
この二匹は飛竜と比べて子供っぽい性格をしているらしい。
嬉しそうに軽く飛び跳ねて喜びを露わにしている。
いや、お母さんも凄いけど、この三匹を呼ぶ応錬さんも相当だなぁ……。
どういった技能で呼んだんだろう。
……え、待って?
もしかして僕たち……これからこの子たちに乗って移動するって事?
「そゆこと」
「まじかぁ……」
アマリアズが頷きながら肯定する。
確かにこの三匹に乗っていけば、片道二週間の道のりでも三日以内に踏破はできるだろう。
だけど、鞍なしで乗れる自信がまったくない。
馬にも乗ったことないもん……。
すると、応錬が大量の木の実を抱えて戻ってきた。
その後ろには、大きな動物が運ばれている。
水の槍が体を貫通しており、それは血抜きの役割も果たしているのか真っ赤に染まっていた。
「おお、来たかお前ら。久しぶりだな」
「ガルァ……」
「んぇ……? 良いじゃねぇか別に。こちとら緊急事態なんだから」
「ガルル」
「はははは、そりゃお互い様だ。俺たち、しぶとく生きてるしなぁ」
けらけらと笑いながら、応錬が大きな動物を騎竜のところへと持って行く。
せめてもの餞別だ、と言って差し出すと、二匹は嬉しそうに鳴いてからがつがつと食べ始めた。
飛竜からは何かまた愚痴らしきことを言われているようだったが、笑ってはぐらしている。
……もしかしてだけど、応錬さん、竜と話せる……?
「え、何で話せるんですか?」
「ん? ああ、ほら。俺って応龍だろ? 龍繋がりで、こいつらの言葉分るんだよね」
「ええ……凄い……。因みにさっきはなんて?」
「『急に呼び立てるな、まだ生きてたか』って言われたな。ていうかお前らも長生きなんだな」
「グルル」
「『人間と一緒にするな』だってよ」
笑いながら、飛竜を小突く。
それに苛立ったのか、尻尾をしならせて応錬の頭部に相当強い一撃を喰らわせた。
バコンという良い音が鳴り、頭から地面にぶつかって沈黙する。
だがすぐに頭をさすりながら立ち上がって、軽く謝罪した。
仲が良いのかな……?
でもまぁ、応錬さんは気にしていないみたいだし、友好的であることには間違いなさそう。
ていうか竜と友達ってすごくない?
とっても羨ましい。
「あ、そういえば名前は……? さっきお母さんからちらっと聞いたんですけど、どれがどれだか……」
「ああ、そうか。こいつがラック」
応錬が、飛竜の翼に手を置いた。
次に、狩ってきた動物を食べている二匹の騎竜を順番に指さす。
「あっちにいるのが、リックとパック」
「「ギャギャ!」」
「え、ごめん……。悪い、反対だった。あっちがリックで、そっちがパック」
そう言われて教えてもらったけど、どっちがどっちだか本当に分からない。
違いがないのだ。
間違えて仕方がないと思う。
だがなんにせよ、これで準備は整った。
この三匹に乗せてもらえば、ここで休んだ分など一日で取り戻すことができるだろう。
しかし、今日はこの三匹がここに移動してきたことで、疲れてしまっているらしい。
なので移動は明日から。
彼らがいるのであれば、一日くらいの休息は問題ないだろう。
そこで、カルナが一つ指摘する。
「ですが応錬さん。貴方はともかく、他の人にはポトデラダンジョンには解毒薬が必須です。近くにキロック領という街があります。そこで準備をするのがいいかと」
「ああ、それもそうだな。食料とかも調達しておきたいしな。主にこいつらの」
「「ギャギャギャギャ!」」
「はいはい、分かったよ……。ほんとお前らは昔から食い意地張ってんな!」
「「ギャムギャム」」
肉を食いながら声を出す騎竜は、なんだか面白かった。
アマリアズと一緒に、少し笑う。
さて、ポトデラダンジョンに挑むための準備をする為に、まずは街で物資を調達しなければならない。
その間に、天使が来ないことを祈るばかりだ。
今日のところは、ここでゆっくりと休むことにしたのだった。




