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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第五章 鳳凰・鳳炎、白虎・リゼ
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5.8.Side-鳳炎-再会アトラック


「うわああああ! 弁償しろおお!!」

「うるさいな!! 君が仕掛けてきたんだろう!? 僕のせいにするんじゃない!!」

「わああああ!!」

「ええい、付いて来るな!!」


 武器を破壊された幼い悪魔が、ぐずりながらも鳳炎の後ろにくっついて行っている。

 全力で逃げれば簡単に撒くことができるだろうが、相手は子供だ。

 武器を持っていないので脅威ではないし、他に魔法を使えるというわけでもないらしい。

 こうして攻撃してこないのが、その証拠だ。


 しかし鬱陶しい。

 鳳炎は幼い悪魔を引き離すようにして叱責するが、なかなか諦めてくれない。

 これが子供の執着心だろうか。

 悪魔の子供も、本当に人間の子供とそう変わらないな、と思いながらも、ぐずり続ける声に苛立ちを隠せずにいた。


 知り合いでもない子供にこうして泣き付かれるのは、どうも気に障る。

 明らかに悪いのは向こうだし、自分はただ防衛し、無力化しただけだ。

 これではこちらが悪者ではないか。

 本当に納得がいかない。


 こんなのを連れて魔王城に入っていいものか、と思案したが、逆に事情を話して引っぺがしてもらう方が早そうだ。

 鳳炎はすぐに魔王城へと滑空し、一番最初に目についたテラスに着地した。

 炎の翼を手で払ってかき消し、燃え移らない様に配慮する。


 ふと後ろを振り向いてみると、幼い悪魔がいなかった。

 おや、と思って見上げてみると、怯えた様子でこちらを見ている。

 どうしてそこに立つことができているのか、信じられないような面持ちでいる様だ。


 何か変なことをしているだろうか、と思って周囲を見渡してみるが、特に変な物もないし、何か技能が付与されているわけでもない。

 一体何に怯えているのだろうか。


「どうしたのさ」

「ななっ、なん、なんで!? ここ、怖くないのか!?」

「怖い?」


 はて、と首を傾げ、顎に手を添える。

 この辺に恐ろしい物など無いし、そういう気配も感じ取ることができない。


 しかし、自分が眠ってしまってからずいぶん時間が過ぎていることだろう。

 今があれから何年後なのか、正確な年数を把握できていないのは痛い。

 ここに来ればそれも分かるだろうが、もしかしたら共に戦った悪魔に寿命が来てしてしまう程、眠りについていたのかもしれなかった。


 となると、悪魔の上下関係も変わっているだろう。

 この場を支配しているのは、本当に悪魔なのだろうか。

 一抹の不安が急に押し寄せてきたが、それに呼応するように、幼い悪魔の顔色が一気に悪くなった。


 悪魔にしか感じられない何かを、感じたのかもしれない。

 すぐに後ろを振り返って警戒しようとした瞬間。

 目の前に、下手くそではあるが満面の笑みを携えた不気味な悪魔が、こちらを覗いていた。


「ぎゃああああああああああああ!!?」

「っ、っ、っ、っ(カラカラと笑う仕草)」


 悪魔は腹を抱えて声のない笑いを肩で表現し、心底楽し気に笑っていた。

 一体何がそんなにおかしいのか分からないが、涙を浮かべるほど可笑しかったらしい。

 指先で出てきた涙を拭い、しゃがれた指を不気味に動かして挨拶をしてくる。


 そして、自分の顔をしきりに指差した。

 まるで『俺に見覚えはないか?』とでも言っているかのようだ。


「誰だてめぇ!!」


 無論、鳳炎がこの人物を知るはずがない。

 なにせ、昔と随分……変わってしまったからである。

 彼は未だに自分の顔をしきりに指差しているが、その時、幼い悪魔が恐れた様にして、ようやく言葉を絞り出す。


「アア、アトラックサマ……」

「……え? アトラック?」

「……(ぱん、と手を叩く)」


 鳳炎は、今自分の目の前にいる悪魔を、まじまじと見た。

 体は老人のようになり、翼は大きく変形している。

 昔の記憶とはかけ離れた姿となってしまっているが、微かに、当時に面影を残しているように見えた。

 笑顔はやはり不気味だが、笑い方は、変わっていない。

 少し顎を引くようにして、口角を上げるのが彼の癖だ。

 そのせいで相手を睨むような角度になってしまうのだが、笑っているので恐れられはしなかった。


 昔、前鬼の里で初めて見る悪魔を怖がり、泣いていた小鬼たちを思い出す。

 アトラックの登場で、更に阿鼻叫喚になったことを覚えている。


「アトラック? 本当に?」

「(コクリ)」

「あれから、何年経った?」


 再会の喜びは確かにある。

 だが、それよりも彼の姿が大きく変わっていることに驚き、鳳炎が封印されてしまってから何年がたってしまったのか、気になって仕方がなかった。


 アトラックは指を四本立て、握り拳を作ってその隣に二度、とん、とん、と拳を置いた。


「四百年か……」

「(コクリ)」


 途方もない時間寝ていたのだな、と微笑を浮かべてしまう。

 経過した時間が途方過ぎて、なんとも言えない感情が込み上げた。

 だが、鳳炎の思考は冴えていた。

 その四百という数字は覚えがあり、眉を寄せて目を泳がせる。


 応錬が宥漸とカルナを未来に飛ばしたのは、その辺りではなかったか?

 天使が自分を殺そうとしたのがなぜそれと同じくらいの時間軸なんだ?

 なにか、関係性があるのかもしれない。


 一瞬で様々な懸念が脳裏に浮かびあがり、難しい顔をした鳳炎に、アトラックは骨ばった手をその方に置いた。

 彼は、口を利くことができなくなっている。

 それはゼスチャーで分かっていた事であり、鳳炎は特にそのことについては聞かなかった。


 アトラックは肩に手を置いたまま、今度は後ろに回って背中を押してくる。

 どうやらどこかに連れていこうとしている様だ。

 話せなくはなったようだが、この動きは彼の喋れないという事実を隠してしまうほど、動きに言葉が付いているように思えた。 


「……はいはい、行けばいいのね」

「(コクリ)」

「にして、久しぶりだね。アトラック」

「……」


 不気味な笑みで、彼は言葉を返したのだった。


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