5.6.すれ違い
走っている間、空中で赤い光が何度か見え、それが海に落ちていく。
計三回くらいだろうか。
赤い火の玉が海に沈んだのを目撃している。
っていうかなんで応錬さん走ってんの……?
ゲートから出てきた時に使った技能で運んでくれたらいいのに……。
ていうかあそこまで結構距離あるけど大丈夫!?
「応錬さん、少し早く行きましょうか」
「そうだな。あいつ飛べるし」
「では、『クイックリー』」
カルナが技能を使う。
その瞬間視界が狭まり、ギュンッと素早く走れるようになった。
相変わらずこの一瞬速くなるのには慣れないが、少し走ればすぐに普通に移動できるようになる。
走りにくい砂浜を抜けて、何度か森に入って岩場を跳び越す。
そうしているうちに目的地付近まで来ることができたが、その時には既に何もいなかった。
応錬が技能を使って周囲を索敵するが、特に危険な影はいないとの事。
だが残念ながら、鳳炎という人物もいなかったようだ。
「あーあ、あいつ魔族領に飛んで行っちまった……」
「え、分かるんですか?」
「まぁな。ま、とりあえず生きてることは分かったし、あいつのことだからしばらくすれば戻ってきてくれるだろ。それよりも……」
応錬が目を凝らす。
その先には海の中で今も尚燃えている何かがいるようで、じたばたともがき苦しんでいる様だ。
不意に手を持ち上げ、海の中で水流を作り出す。
燃えている存在三つをこちらに引き寄せ、砂浜に強制的に打ち上げた。
海から引っ張り出されたのは、天使だった。
その内一体にはまだ息があるようだが、残り二体は燃え尽きて真っ黒になっている。
完全に燃え尽きるまで炎は消えないようで、やはり今も体全体を炎で包んでいた。
水の中にいたというのに燃え続けていた炎。
あれが、鳳炎という人物の技能なのだろう。
「『無限水操』」
虚無から水を作り出し、辛うじて息がある天使へとそれをぶっかける。
するとどうしたことか、消えなかった炎が音を立てて消えていく。
彼の作り出す水には、鳳炎という人物の消えることのない炎をも消す力を持っている様だ。
つくづく凄い人だなと実感する。
すると、一体の天使に近づいた。
「鳳炎の炎に焼かれて、良く生きてんな」
「……ぇぁ……」
「放っておいても死にそうだなぁ……。話は聞けそうにないか」
「無理だろうねぇ」
アマリアズの言う通り、さすがにそれは難しいだろう。
炎に焼かれ続けて生きていること自体が不思議だし、後一日も持たなさそうだ。
回収したまでは良かったが、話が聞けないのであればもう不要だろう。
だが、天使はすでに動き出しており、残りの三体を殺すために封印を解こうとしているということは分かった。
昨日の今日、応錬が封印から目覚めたのだけど、それはもう天使側に広まっている様だ。
となると、やはりグズグズしてはいられないだろう。
「早くしないとですね」
「ああ、その通りだな。だが……リゼはまぁ大丈夫だろう。零漸も何とかなると思う」
「なんでそう思うんですか?」
「封印されている場所が場所だからな。な、カルナ」
「そうですね」
そういえば、そのもう一人と、僕のお父さんが封印されている場所は知らない。
どこなのかを聞いてみると、ポトデラダンジョンというダンジョンと……。
「宝魚の原だよ」
「宝魚の原!!?」
ほ、宝魚の原って宝魚を釣ったあの!?
めっちゃ近くにいるじゃん!!
なんでそんな近い所に……。
と、そこで思い出したのだが、そんな封印されたような場所は、あの辺には無かったかのように思う。
綺麗な川が流れていて、河口に行くにつれて川幅は大きくなっていく。
川の奥には平原があって、そこには本当に何もない。
ずーっとあるいていけば霞にかかった山の中に入ることができるだろうが、宝魚の原は本当に広大で、丘も何もない場所なのだ。
あそこの何処に、封印されているのだろうか。
もしそこにいるであろう目的の人物を探そうものなら、相当骨が折れるはずである。
応錬が言う大丈夫だろう、には、これが含まれている様だ。
「俺だって零漸がどこに封印されてるか知らねぇし、もし天使が零漸を探そうものなら、前鬼の里にいるウチカゲが気付くはずだ」
「でも、天使は場所を知っているかもしれないけど?」
「場所は知っていても、正確な場所は知らないさ。鳳炎は……目立ってたから分かっただけだろうし」
確かにその通りかもしれないが、応錬さんは確かな確証は持っていないようだ。
少し曖昧な答えのような気がする。
ていうか、宝魚の原に封印されてるのが、僕のお父さんなんだね。
前鬼の里の近くだったら、確かにウチカゲお爺ちゃんが気付いて阻止してくれそうだ。
となると、優先するべきは……ポトデラダンジョンにいる人の方かな?
だ、だけど封印を解くために必要なものが揃っていない……かぁ……。
なんか堂々巡りだなぁ。
「ううむ、じゃ。ポトデラダンジョン行くか」
「え、いいんですか!? まだ何も解決してないような気がするんですけど!!」
「鳳炎は気を配ることができる男だからな。ブチギレながら」
「え」
「魔力石のことについても、きっと聞き出して事情を察してくれるはずだ。だから、今一番危険な状況にあるリゼのところに行ってやらねぇとな。守ってくれる奴が居ねぇから」
そう説明してから、応錬さんはお母さんにポトデラダンジョンの場所を聞き出した。
場所は把握しているので、すぐに行き方を二人で考え始めたようだ。
なんか、応錬さんの鳳炎って人に対する信頼厚いなぁ……。
良い方に向かってくれたらいいけど。
そういえば、ポトデラダンジョンってどんな所なんだろう。
アマリアズに聞いてみよ。
「アマリアズ」
「ん、なんだい?」
「ポトデラダンジョンってどんな所?」
「毒のダンジョンだよ」
……?




