5.5.魔力石調達
一夜が明けた。
まだ朝日が少し顔を出しているくらいではあるが、テラオーム海峡から見る朝日は朝焼けが濃くでており、とても綺麗だ。
広い海が真っ赤に燃えており、波が立つたびにちらちらと白い光が海面を走っている。
昨日、散々騒ぎ散らしながらこれからどうするかを話し合った。
その結局、鳳炎という人物を見つけたとしても『封殺封印』を解くことができないので、まずはそのために必要な魔力石をどうにかして確保する必要がある、という結論に至った。
だが、正直それは難しいだろう。
第一、魔力石は新月の時でなければ回収ができない。
魔物を探すのは容易だとしても、回収ができなければ意味がないのだ。
新月は昨日終わったばかりだし、次の新月まで待つのは時間がかかりすぎる。
何か他に方法がないかを話し合ったが、今のところ良い案は出されていない。
応錬さんの知識の中にそういったものがないかを期待したが、残念ながらなかったようだ。
代わりになるものは今のところ見当が付いていない。
ここは一度魔族領に戻った方がいいだろうか、という案も出されたが、ここから魔族領に行く方が遠く、移動している内に新月がまた来る、と言われてしまった。
「んじゃどうするのさー!」
「そうだなぁ……」
僕がそう言うと、応錬が困った顔をして苦笑いをした。
魔力石以外の代わりになるようなものがあるとは思えない。
だが、過去の戦いの中の記憶から一つの仮説を思いついたようで、脇差を抜刀して手の中でくるりと回した。
「もし、宥漸があいつと同じ技能が発現するとするならば……『水龍』」
ぞうっと水が切っ先から噴出し、水の龍となって自分たちの頭上を泳ぎだした。
器用に刀の切っ先でそれを操り、僕の隣りに着地させる。
近くに来たのでそれをよく見てみると、随分精巧に作られていることが分かった。
魔物の姿の応錬さんにそっくりだ。
だけど、これで何が分かるんだろうか。
首を傾げているのは僕だけではないようで、お母さんもアマリアズも何をしようとしているのか理解できていないようだった。
応錬に顔を向けてみると、彼は『水龍』指をさした。
「宥漸、そいつの魔力を吸い取ってみろ」
「……へ?」
急に何を言い出すのかと思えば、意味の分からないことを口にした。
その真意が分からずアマリアズに助けを乞うように視線を向けると、何かピンと来たようでそれを説明してくれた。
「ああー『魔力吸収』のことかな……?」
「まりょくきゅうしゅう?」
「お前の父親である零漸はな、魔力を吸い取る技能を持っていたんだ。もし『封殺封印』を解くために使用する魔力を流し続けたのであれば、もしかしたらこれで代替えができるかもしれん。ま、お前が『魔力吸収』を使えることが大前提になるが」
「ど、どうなの? アマリアズ」
自称技能の神様に話を聞いてみる。
アマリアズは少し悩んだ後、微妙な顔をして眉をよせた。
「ん、ん~~~~……。宥漸君の『決壊』は『結界』に込められた魔力以上の魔力を込めないといけないから……無理だね!」
「だめなんかいっ!!」
悪態をつきながら、応錬さんが『水龍』を解除して水に戻した。
それは砂浜に沈んで消えていく。
あ、でも『魔力吸収』が使えるかどうかは試したかったなぁ……。
まぁあとでいいか。
思った以上に時間ができちゃったしな。
すると、アマリアズが口を開く。
「魔力総量に起因する技能だからね。だから供給しながら技能を使うってのは無理だと思う。今のところ、魔力石以外に方法はないかな」
「んなぁー……。これは時間かけてでも魔族領に戻って集めてた魔力石を貰った方が早そうだなぁ……」
ここで見つからない鳳炎という人物を探すより、封印を解く準備を整えてから捜索を再開した方がいい気がする。
時間はかかるだろうけど、まだ天使側も準備をしていると思うし。
今なら時間はある気がする。
だが、よくよく考えてみたらこちらはずいぶん不利な状況に立たされている。
残りの三人の封印を解く前に、天使たちに封印を解かれてしまうと、封印されている対象の人物は死んでしまうのだ。
明らかにスピード勝負になるのは確実。
そう考えると、魔族領に戻っている時間はないかもしれない。
これはアマリアズとお母さんも懸念していたことで、どうしようか一緒に悩むことになった。
今すぐダチアさんに話を通すことができればいいのだが、連絡手段は今のところない。
「ど、どうしようかなぁ……」
腕を組んで首を傾けた。
次の瞬間。
ドオオンッ!!
遠く離れたところから爆発音が聞こえてきた。
全員がバッとそちらの方向を振り向くと、大量の水飛沫が遠くの方で上がっている。
テラオーム海峡の最南端辺りくらいだろうか。
大陸の先がその近くで見えている。
水飛沫は空高く舞い上がり、更にその規模は非常に大きい。
爆発の余波はこちらまで届き、熱風が肌にぶつかった。
「え、もしかして……」
「あそこにいたのか。遠すぎんだろ」
「いやあの、応錬さん……」
「なんだ?」
「間に合わなかったんじゃ……?」
天使が、鳳炎という人物の封印を解いたのかもしれない。
あの爆発がそれを示唆しているのであれば、先手を取られてしまったということになる。
だが、応錬は笑っていた。
そして僕が口にした言葉を否定する。
「大丈夫だ」
「え、でも……」
「あいつは、死なない。絶対にな」
考える手間が省けた、と言わんばかりに、応錬はそちらへと走っていった。
僕たちもその後に急いで続いたのだった。




