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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第四章 魔族領へ
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4.36.目的地


 黒い刀身の脇差を慣れた手つきで納刀すると、手を払いながらこちらを向いた。

 わざとらしく胸を張ってドヤ顔を決めている。

 強いけど中身は愉快な人なのだな、と思ってちょっと笑った。


 すると、すぐにカルナとダチアがこちらに向かってきた。

 すべて終わった後なのでもう何もないが、ダチアの手には天使の首が握られている。

 それを見た応錬は少し驚いた様子で声を掛けた。


「ぬぉえ!? え、ダチア、お前天使殺しちゃったの!?」

「何も見えなかったからな。だが天使の場合はそうでない可能性がある。何かされる前に始末しておいた。どうせ何も聞き出せないからな」

「ま、まぁそうか……」


 いやその前にそんなもの持ってこないでほしい。

 絶対にもう必要ないものでしょ……。


 顔を背けてそれが視界に入るのを避けていることが分かったのか、ダチアは一度持ち上げて遠くの方へ放り投げた。

 燃えている木に直撃し、火だるまになって転がっていく。


 それにしても……あの羊皮紙がそんなに危険なものだとは思わなかった。

 もし前鬼の里で解読が完了していたら……どうなっていたのか想像もしたくない。

 応錬さんだからすぐに対処できたけど、鬼たちだけだったらそれは叶わなかったかも。

 解読できなくてよかった。


 だが、手掛かりはこれで手に入ったと思う。

 再び集まった皆は顔を見合わた。

 そこで、ウチカゲお爺ちゃんが腕組をして提案する。


「では、そろそろ私たちも動かねばなりませぬな。応錬様」

「そのようだ。で、とりあえず鳳炎を助けるという方向で話は進んでいたが、お前は来るのか? ダチアはどうする?」

「申し訳ございませぬが、私は前鬼の里でのいざこざを治める義務がございます。故に、此度の旅にはついて行けませぬ」


 今前鬼の里は、ガロット王国と戦争をする可能性がある危険な状態だ。

 国王が友人なので、今は何とかそこまで発展はしていないが、天使の動きが活発になれば、どうなるか分かったものではない。

 そんな時に城主不在というのはマズいだろう。


 できれば増援を送り込みたい、とウチカゲは嘆息したが、それもできそうにない。

 鬼の中で本質に気付いている鬼は戦力としてとても優秀だ。

 そもそも数が人間より圧倒的に少ない種族であるため、彼らは残しておく必要があった。


 話を聞いて納得した応錬は、少しも困った様子は見せなかった。

 それを親身に受け止め、小さく頷いて『こちらは任せろ』と口にする。

 それを聞いてウチカゲは安堵したようだ。


「すまねぇが、俺も同行は無理だ。天使が襲ってきた以上、こちらでも調査する必要がある。アトラック様に話をしないといけないし、ルリムコオス様にも出張ってもらわなければ。他三名の救出は、応錬、宥漸、アマリアズ、そしてカルナに任せる。俺たち悪魔は天使の情報を集めよう。四天教会ってのも気になるしな」


 天使の活動が活発になってきた以上、悪魔にもやることは多くある。

 動き出したのであればそれを追うことはできるだろうし、敵の本拠地、敵勢力の把握をしておかなければならない。

 要するに諜報員として活動する予定らしく、今分かっている情報を基に各国へ仲間を飛ばして調査させるとの事。


 残り三名の封印を解きながら、天使の情報を得るのは非常に難しいだろう。

 そこで悪魔たちがそれを買って出てくれたのだ。

 誰も反対意見は出さず、その話を聞いて頷いた。


「てことは、あいつらの封印を解きに行くのは俺たち四人か。カルナはいくよな?」

「私は特に何もないので。勘も取り戻したいですし」

「んじゃ、決定だな」


 ということで、僕とアマリアズ、応錬さん、お母さんで三人の封印を解きに行くことになった。

 次は鳳炎という名前の人らしいが……。

 封印されている場所はテラオーム海峡。

 だがそこがどんな所か知らないので、ウチカゲお爺ちゃんに聞いてみる。


「まず、陸地に挟まれた海の狭い部分を海峡という」

「鳴門海峡とか関門海峡とかだな。……あれ狭いか……?」

「……? ごほん。場所はここから遠く南に行った所に位置しており、テラオーム海峡の海の中に……鳳炎殿が封印されている」

「海の中なの!!?」


 テラオーム海峡は、その距離が非常に長い。

 なのでどこに封印されているか、悪魔でも把握していないようだ。

 しかし実際にその場にいた人物は、それを知っている。


 ウチカゲお爺ちゃんが、ダチアを見た。

 視線を受け取って頷く。


「俺が場所をすべて知っている。鳳炎はテラオーム海峡の中央より東に向かった場所だ。ま、言わなくても行けば分かると思うがな」

「そうなんですか?」

「ああ。あいつ、封印されるときは応錬と同じように魔物の姿になって封印された。応錬ならそれがどういう意味か解ると思うが」

「……え、もしかして……。あいつ、海を沸騰させてたりする?」


 海を沸騰という言葉に、鳳炎をいう人物の強さを少しだけ理解できた気がする。

 ということは炎系の技能を使うのだろう。


 ダチアはそれを聞いて、首を横に振った。

 さすがに海を沸騰させるだけの力はなかったらしい。


「沸騰とまではいかないが、生態系を大きく変えた」

「あ、やっぱり?」

「お前も大概だが」

「えっ」


 そういえばこの人、悪魔の住んでる魔族領に森を生やしたんだっけ……?

 いるだけで環境を変えるって、冷静に考えたらおかしいよね。


 すると、ダチアが空を手で斬った。

 気味の悪いゲートが開き、その中へと入る様に勧める。


「テラオーム海峡に繋げておいた」

「そういえば他の場所は?」

「あとはカルナが知っている。場所さえわかれば自力で行けるだろう。ほれ、行け。時間はないぞ」

「そうだな」


 今こうして話している間にも、天使は行動を起こしているはずだ。

 早くしなければ、手遅れになるかもしれない。


 応錬は一度、僕たちを見た。

 そして手招きをする。


「っしゃいくか!」

「はい!」

「よーし……!」


 アマリアズも何かを決心したようで、握り拳を作ったままダチアが作ったゲートへと入っていく。

 カルナもすぐに続き、応錬も入っていった。

 僕もそれに続いてはいって行こうとすると、後ろから声を掛けられる。


「宥漸」

「? なに、ウチカゲお爺ちゃん」


 心配そうにウチカゲがこちらを見ていた。

 なにかいろいろ思うところがあるのだろうが、その目はなんだか申し訳なさそうな感じもする。

 胸の内で何を考えているのかはさすがに分からない。

 だが最後に一言だけ、ウチカゲは言葉を口にする。


「行ってこい」

「行ってきます!」


 最後にそう告げて、僕はゲートの中へと入っていった。

 それは静かに小さくなっていき、最後にはフッと消えてしまう。


 その場に残されたウチカゲとダチアは、感慨深そうに消えてしまったゲートがあった場所を眺めていた。

 周りで木々が燃えている音がやけに耳に着く。

 ダチアがちらりとウチカゲを見てみると、彼は目を瞑ってため息を吐いていた。


「……どうした。らしくないじゃないか」

「子供の成長は、速いと思ってな」

「俺たちに比べればな。人間だし」

「そうだな」

「そんじゃ、お前も一回帰れ」

「ああ」


 ダチアがもう一度、ゲートを作り出す。

 その中にスッと入っていき、また、ゲートは静かに閉じて消え去った。

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