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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第四章 魔族領へ
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4.31.刺客


 応錬を追いかけるが、その後ろ姿はまったく見えてこなかった。

 大して時間をおいて追従したわけではなかったのだが……。

 どうやら走る速度が速いらしい。


 さすがにウチカゲお爺ちゃんはついて行ってるみたいだけど、これ合流するのに時間かかりそう!

 ていうか何で急に走り出したのか分からないんだけど!


「お母さん!? なんで応錬さん走り出したの!?」

「ちょっと分からないかなぁ」

「私も分からん! なんか分かったんじゃないの!?」

「アマリアズの『空間把握』で何か分からない?」

「走ってる時はちょっと無理かなー!」


 近距離であればまだしも、遠距離の索敵となると立ち止まって集中しなければならないらしい。

 近づければわかるようだが……。

 先の状況が掴めないというのは何だが怖かった。

 先行している二人に任せておけば何とかなりそうではあるが、できれば近くにいておきたい。


 ていうかどうして置いていっちゃうかなー!

 守ってもらわないと困るんですけどー!


「よし、じゃあ二人とも」

「え、なに? お母さん?」

「『クイックリー』」


 僕とアマリアズに手を向けてそう呟いた瞬間、ギュンッと走る速度が上昇した。

 一瞬驚いたが、これは一度体験したことがある。

 すぐに感覚を思い出して足を踏ん張り、地面を蹴って加速した。


 今回はお母さんも隣にいて、今は三人で走っている。

 走り方かっこいいんだけど。

 いや、そうじゃなくて……。


「魔法使うなら使うって最初に言ってよお母さん!!」

「でもこれで合流できるでしょ?」

「そうだけど!!」

「これがカルナさんの技能かー。なるほどね」


 あ、そうか、これお母さんの技能なのか!

 高速移動系の技能ってことでいいのかな?

 アマリアズはなんとなくどういうものか理解しているみたいだったけど……僕にはさっぱりだ。

 あとで技能の詳細を教えてもらおおう。


 移動速度が速くなったおかげで、思った以上に早く洞窟を出ることができた。

 地面を滑ってブレーキをかけ、走ってきた勢いを殺していく。

 相変わらず燃えているドロッグ山脈に出てきたのはいいが、そこでお母さんが二振りの剣を抜刀する音が聞こえた。

 アマリアズも『空圧剣』を作り出して構えている。


 少し反応が遅れてしまったが、洞窟の外には多くの気配があった。

 ここに連れてきてくれたダチアの気配もしっかりとあるが、他の気配は悪魔のものではない。


 顔を上げて視界の中に映った存在は……多くの人間と、一人の天使だった。

 人間たちは同じローブを身に纏っており、テキルという人物が作った魔道具鎧を全員が付けているらしい。

 その証拠にコアとなる部分の光が、ローブの下からぼんやりと零れている。


 誰もが好きな武器を手にしており、その切っ先はすべてこちらへと向けられていた。

 明らかな敵意。

 僕たちが五年前に向けられた男の気配と、そう遜色のないものだった。


 そして……白い翼を広げて滞空している天使が、軽蔑するような冷たい目でこちらを見下ろしている。

 白い衣に金色の金具が付いており、ゆったりとした動きやすそうな服装だ。

 その分防御面は皆無そうではあったが、その代わり大楯と長剣を手にしている。

 細身の彼が手にするには明らかに重そうな代物ではったが、軽々と扱っているところからして見た目以上に力があるのかもしれない。


「こりゃ、随分派手なお出迎えだな」

「言ってる場合か応錬……! ゲホッ……!」

「大丈夫かお前」

「ぷっ! ダイスの出目が悪かった……!」


 苦しそうに腹を押さえ、口から血を吐き出しながらそう愚痴る。

 応錬の封印を解いた後か、その前くらいから天使の軍勢はここに集まっていたのだろう。

 現に数名の人間が倒れている。


 今までダチア一人で対処していたのだろうが、その中で強烈な一撃を貰ってしまったらしい。

 体は既にボロボロで、所々から出血が確認できる。

 立つのもやっとだったらしく、皆が合流したことで気が緩み、今、膝を着いた。

 息が荒いが、死ぬほどの攻撃を貰ったわけではない様だ。


「ふむ、技能持ちの魔将と、技能持ちの鬼、子供二人に、邪神が一匹。これらを持ち帰れば、研究の役に大いに立ちそうだな」 


 男の天使が、おっとりとした口調でそう言った。


「だが女はいらん」


 その言葉が合図だったかのように、周りにいた人間たちが一気に姿勢を低くして突撃してくる。

 僕とアマリアズ、それをお母さんはすぐに対処しようとしたが、それは応錬さんに止められた。


「ちょい待ち」

「えっ、でも……!」

「いやいや、久しぶりに連携を試してみたくてな」

「連携?」

「なぁ、ウチカゲ」

「そうですな」


 刻一刻と敵が迫って来ている中、ウチカゲお爺ちゃんは丁寧な動作で籠手を装着した。

 ガチャッと音を立てて熊手を降ろし、腕をまくる。

 応錬さんは懐から魔法袋を取り出し、その中に入っていた武器を取り出した。

 それは白い日本刀だ。

 大きさからして脇差しだろうが、それをすぐに腰に携える。


 応錬が鯉口を切る。

 その瞬間、ウチカゲが消え去った。


「んじゃ、いっちょやってみますか」

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