4.25.準備完了
充分なほど魔力石を回収した僕たちは、一足先に魔族領の城へと戻ることにした。
一度の魔力石集めでこれだけ手に入ることは一度もなかったらしく、解体を終わらせたアブスから大層褒められた。
腕には抱えきれない程の魔力石を抱えており、白い肉塊を使って抱えている以上の魔力石を運んでいる。
初めて見る石だったが、魔力石は青色だった。
青い水晶と言った方が適切であり、基本的にはひし形のような形をしている。
水晶の中心では青白く光っている白い玉が光量の強弱を変えながら点滅していた。
魔物の体から摘出されたとは思えない程、美しい代物だ。
魔物によって大小様々な大きさではあったが、小さい魔物に大きな魔力石が、大きい魔物に小さな魔力石が。
その逆も然りで、個体が大きければ魔力石の大きさも大きくなる、ということはないらしい。
とにかくバラバラで、一抱えほどあるものだったり、手のひらに乗る程度のものだったりと様々だ。
因みに捌いた魔物は……アブスが白い肉塊に全部沈めてしまった。
腹をさすっていたが……食べたのだろうか?
魔力石を大量に抱えているアブスはほくほくとした様子で、軽快な足取りを踏んでいた。
「いやぁ~! これなら絶対応錬の封印も解けるぞ~!」
「なんか、嬉しそうですね」
「そりゃそうよー。これで準備は完了。一番懸念だった封印を解く方法が確立したんだからね!」
「ああ、そうか……。今までは封印を解くなんて考えられなかったのか」
「アマリアズ君の言う通り。封印解いたら解いた人も封印してあるものも死んじゃう『封殺封印』だったからねぇ~」
昔は普通の封印魔法だったらしいが、アマリアズが言うには『応龍の決定』の代償で、封印魔法が変化してしまったんだっけ。
不思議なこともあるもんだよなぁ……。
まぁ技能だから……何でもありなんだろうけど。
そこでアマリアズが、小首をかしげる。
先ほどのアブスの発言に気になる点が合った様だ。
「悪魔は応龍の復活を望んでいたの?」
「どうしてそう思う?」
悪戯気に笑いながら、アブスが振り返る。
僕はそれにうすら寒さを覚えるが、アマリアズは一切動じない。
真剣にその問いに答える様に、目をまっすぐに見て口を開く。
「……有益な技能を持っているから?」
「まぁ間違ってはいないかな。でも正解ではない」
「じゃあ……何かに抵抗したいから?」
「天使に抵抗したいのはやまやまだけどね。でもそれだけで封印を解こうとは思わないかな」
「だったらなにさ」
結局分からず、問い返す。
悪戯気に笑った表情を崩さないまま、アブスは魔力石を一個手に取った。
「戦友だからかなぁ」
「……本当に、邪神って言われてる四体は、悪いことしてないんですね」
「そうだよ」
彼女の答えを聞いて、それが確信に変わった気がした。
悪魔の城で五日間生活をしてきたけれど、見た目の割には優しいし、イメージとは全く異なっていたと思う。
そういえば人間に悪魔が何かをしたっていうお話もあんまり知らないかも。
いや、僕が知らないだけかもしれないけど……。
なんにせよ、僕の目線から見れば悪魔はとってもいい種族だ。
それは間違いない。
そんな人たちが“戦友”と口にし、彼らを認めているのだ。
僕の問いにも真っすぐな目ですぐに肯定したということからも、彼らが完全悪ではないと教えてくれている。
彼らに関してのことは分からないことはまだまだ多い。
だけど悪魔たちに話を聞いてもあまり教えてはくれなかった。
本人に聞くのが一番だ、と面白いことに誰もが口にする。
もう既に、封印が解かれることを前提としているように。
そんな簡単に事が進んだらいいんだけどなぁ……。
封印を解いてどうなるか、今のところ分かっていないし。
前も懸念点に上げてたけど、この事がバレたら人間たちに恐れられるだろうし、天使側も何とかしようと来る可能性がある。
……でも、先手を打ってきたのは向こうなんだよなぁ。
僕もやられっぱなしでいたくないし、前鬼の里を危険に晒したであろうキュリィは許したくない。
だけどやはり、不安が募る。
本当にこれでいいのだろうか、と。
「その……大丈夫なんですよね?」
不安を乗せて言葉を放つ。
それが伝わったのか、アブスは満面の笑みを浮かべて白い肉塊で手を作り、親指を立てた。
「絶対大丈夫」
問題ないと確信している彼女の姿は、なんだか心強く思えた。
そこでアマリアズが肘で小突いてくる。
「ここまできたら、もうやるしかないって」
「……それもそうかぁ……」
天使たちに対抗できる手段。
それが今目の前にあるのだから、これを逃す手はない。
彼らの事はやはり何も知らないし分からないが、アブスも、アマリアズもこう言っている。
今は二人を信じ、自分がやらなければならないことを成すのみだ。
真っ暗な森の中を徒歩で帰路に着く。
回収した魔力石が多すぎてアブスが飛べないためだ。
あとはこれをアトラックに見てもらい、確認してもらうだけである。




