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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第四章 魔族領へ
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4.22.Side-ケンラ-お引き取り願います


 ウチカゲとスレイズが前鬼城二の丸御殿に入っていくのを見届けたケンラは、玄関前で彼らが出てくるのを待った。

 密会は時間がかかるのが常だが、今回ばかりは状況的に早く話を終わらせて出てくるだろうと思っていた。

 自分はその間の護衛。

 不審者が聞き耳を立てていないかを調査する役目を担っていた。


 この密会を邪魔させるわけにはいかない。

 恐らくウチカゲはスレイズと腹を割って話し合うつもりだし、これは宥漸の為でもある。

 彼とアマリアズを守るために、今回の密会は開かれているのだ。

 その話を聞かれるのは非常にマズい。

 情報が洩れでもしたら、アマリアズを返す気がないということと、宥漸を本当に匿っていたということになりかねないからだ。


 いつもの数倍気を張り巡らせて、周囲に近づいてくる人物たちに気を配る。

 鬼の家臣がこの屋敷を取り囲んでおり、警戒態勢は万全だ。

 何かあれば笛で合図を送ることになっている。


 ケンラは家臣の中で最も強いとされていながら、絶対に刺客が入ってこないであろう玄関の前で待ち構えていた。

 だが今回の敵は刺客ではない。

 ガロット王国の、兵士だ。


 薄目を開けると、三名のガロット王国兵士がこちらに向かってきているということが分かった。

 主の言いつけを無視してやってきたのだろう。


「お引き取り願います」


 彼らが声をかけてくるより先に、ケンラは言葉を投げつけた。

 だがそれを無視して兵士はこちらへと歩いてくる。

 目の前に立ち、剣の柄に手を置いたまま周囲を警戒し、声をかける。


「スレイズ様はどこだ」

「お引き取り願います。お客人は今大切なお話をされている最中ですので、邪魔立てすることは許しません」


 剣の柄に手を置いている時点で、強引な手段を取ろうとしていることがありありと伝わった。

 ケンラは手挟んでいる合口拵えの日本刀の鯉口を気付かれないように静かに切る。

 向こうもこちらの武器には気づいているようだが、柄に手を置いていないので油断しているらしい。

 侮られていることは分かったが、それが彼らの寿命を縮めることになるためそこまで気にしていなかった。


 三人の兵士は、ケンラの言葉を無視し、今度は強めに問いかける。


「スレイズ様はどこだと聞いている。国王がこのような所に一人で行かせられるわけがないだろう! 護衛が必要だ! 邪神の子を匿っているとなれば、尚更!!」

「匿ってなどおりませんが」

「天使様の言うことが間違っているというのか!?」

「天使?」


 その天使というのは、先日拾ったキュリィのことだろう。

 どうやら姿を現して技能を使い、ガロット王国の国民に宥漸のことを広めたらしい。

 となると天使の息が掛かっている者は非常に多いということになる。


 一夜にして大勢の味方を手に入れたようだ。

 今まで姿を現さなかったというのは、この準備の為だったのだろうか?

 なんにせよ、この事はウチカゲに報告しなければならない。

 とはいえ、今密会を邪魔されるのは困る。


「なんにせよ、今はお会いすることはできません。お引き取りを」

「鬼どもには任せられんと言っているのだ! 聞かれて困るような話をしているというのか!?」

「自分には分かりかねます。しかし、そもそもの話。命令違反を犯している貴方たちに、スレイズ様はお会いになりたがらないと思いますが」


 至極真っ当なことを口にしたつもりだったのだが、それが彼らの逆鱗に触れたらしい。

 一人の兵士が柄に置いていた手に力を込め、剣を抜き放った。


「我が国王の身を案じて何が悪い!!」

「その前にご自身の身を案じてみてはいかがですか。動けなくなれば、守れなくなりますが」


 その言葉に激高し、剣を振るってくる。

 こんな兵士が近くにいるとスレイズも苦労するだろうな、と思いながら、即座に手挟んでいる日本刀を構えて抜刀した。

 居合抜きで繰り出された一閃は容易く兵士の剣を吹き飛ばし、遠くへと落ちる。

 だが剣が地面に落ちる前にケンラは納刀し、今度は柄頭を相手の喉元へと繰り出した。


 兜をしていなかったが、胴を守っている鎧は喉を少しばかり守っていた。

 なので顎を打ち抜く結果になったのだが、それで十分だ。

 兵士は糸が切れたかのように後ろへ倒れ、気絶する。

 相手からすれば見えない斬撃を感じた次には、ケンラが突っ込んできたようにしか見えなかっただろう。


「鬼人舞踊、正手頭」


 チンッと音を立てて鯉口を閉める。

 続いて残っている二人を睨むと、彼らは柄に手を置いたまま二歩下がった。


「まだやりますか?」

「こ、この鬼め……!」

「なんの騒ぎだ!!」


 すると、聞き覚えのある声がした。

 振り返ってみると、ウチカゲとスレイズが慌てた様子で出てきたようだった。


 ケンラはすぐに跪き、報告する。


「スレイズ様のお連れの者が参りました故、お引き取りを願ったところ下がらず、更には剣を振るってきましたので致し方なく対処しました」

「なんだと!? それは本当かお前たち!!」

「し、しかしながら! この状況に置いて鬼たちは邪神の子を匿っていた犯罪者であり──」

「まだ事実かどうかも分からぬことを口にするな愚か者!! それゆえ調査に入ったのだろうが!! 不興を招いて本当に敵対関係になったら貴様らに責任が取れるのか!? どうなのだ!!」


 スレイズの力強い叱責に、兵士たちは完全に委縮してしまっている。

 今にも掴みかかりそうな勢いではあるが……。

 それからしばらく叱責が続き、倒れている兵士を持って帰れと指示を出す。

 彼らが居なくなったところで、大きくため息をついた。


「はぁー……すまないウチカゲ」

「構わぬ」

「ケンラだったな。うちの者が済まなかった。大事ないか?」

「ええ、問題ありません。しかし一つお耳に入れておきたいことが」


 そう前置きしてから、兵士が天使について知っていたことを共有した。

 彼らの言葉を完全に復唱しておく。


 それを聞いた二人は顔色を変えた。

 天使が姿を現して情報を流したということは、ガロット王国の国民のほとんどが天使の陣営につく可能性があったからだ。

 そうなった以上、ますますアマリアズをガロット王国へと戻すわけにはいかなくなった。


「……なんだか嫌な予感がする」

「私もだ。お主が国を一時的に空ける事すら、奴らの策だと思えてきた」

「今帰る訳にもいかんしな……。クソ、厄介だぞ」

「できる事からやっていこう。あとは……悪魔たちに委ねるしかない」


 そこで、ウチカゲの懐に入れていた水晶が音を発した。

 取り出してみると、既に目玉が形成されてこちらを覗いている。

 ……ダチアからの連絡だった。


『状況が好転した』


 その水晶を見てひどく驚いているスレイズだったが、目玉は無視して話を続ける。


『応錬の封を解くぞ』


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