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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第四章 魔族領へ
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4.21.Side-ウチカゲ-報告


 前鬼城二の丸御殿へと足を運んだ二人は、その中にある一室に入る。

 スレイズが『静寂』という魔法を使用し、会話が漏れないように配慮してくれた。

 薄暗い空間ではあるが、雰囲気は密会に丁度いい位だ。


 座布団に座り、対面する。

 さてどこから話したものか、とウチカゲが考えていると、まずはスレイズが自国で起こったことを淡々と説明してくれた。


「事の始まりは昨日の夜だ。時刻的には……まだ夜も深まっていない時間帯だったはず。ほぼすべての国民が、一斉に立ち上がって宥漸が霊亀の子供であると口にし始めたのだ」


 本当に急なことだったという。

 邪神の子供を匿っている前鬼の里と友好関係を結んでいるとはどういうことなのか。

 そんな会話が飛び交い、驚くべきスピードでデモ集会が起きた。

 兵士が止めるも、ほぼ全国民が参加している集会を押さえるのは難しく、話を聞くために国王本人が前に出るしかなかったらしい。


 スレイズは本来であればここに来るのは自分ではなかったはずだが、何かおかしい事は分かっていたので無理を通してここへ来た。

 部下や兵士に任せているだけでは、面倒なことになりかねないことは分かっていたし、案の定既に敵対意識を持っている者たちもいる。

 前鬼の里の者たちとは友好的であったスレイズにとって、彼らに任せることはどうしても許すことができなかった。


 国王自らが前鬼の里に調査に行くことと、無事にアマリアズを保護して帰って来ることを条件に国民には何とか退いてもらった次第。

 王失くして国民はなく、国民失くして王はないという考えの下、スレイズは彼らの言葉を無下にすることはできなかった。


 とはいえ一方的な調査をする事になってしまった。

 先ほどの無礼にもほどがある態度を、スレイズは今一度謝罪する。


 ガロット王国で起こったことはこれで分かった。

 天使はガロット王国国民に技能を使い、宥漸が邪神の子供であると広めてしまったのだろう。

 あいつが姿を現して技能を使ったのであれば、それを教えてくれた天使は国民にとって救世主とまではいかないが、危険をいち早く教えてくれた恩人ということになる。

 物の数秒で、天使側の陣営に属することもおかしな話ではない。


「……しかし、天使はお主に技能を使わなかったのか」

「て、天使?」


 今度はこちらの状況を話す番だ。

 ウチカゲは昨日の出来事を事細かにスレイズに説明する。

 先日悪魔に化けた天使を宥漸が拾ってきたこと。

 そいつが急に変貌し、前鬼の里を破壊したこと。

 そして技能を所有しており、宥漸が邪神の子供であると伝えたこと。


 スレイズは崩壊して復興途中の家屋を見ていた様で、あれはそういうことだったのかと納得したらしい。

 だがそれと同時に、嫌な予感がした。

 一つの疑問が浮上し、思わず聞いてみる。


「……ちょっと待てウチカゲ。天使は一人か?」

「一人だ」

「……一人であれだけの被害を出したというのか!?」

「私の配下も、一名重傷を負った。止めようと戦ってくれたらしい」

「鬼でも敵わないってんなら、俺たちなんて足元にも及ばないんだろうな……」


 スレイズは嘆息する。

 そんな強大な敵を、ウチカゲは相手にしているのだ。


「話を戻すが、お主にはこの話が来なかったのだな?」

「俺は国民から話を聞いて知ったんだ。天使など見ていない」

「ふむ……何故王族には技能を使わなかったのか……」

「魔力切れとかじゃないか?」


 そこで、はっとした。

 ガロット王国の国民の数は前鬼の里を遥かに凌駕し、今では大国と言わしめるほど領土を広げている。

 いくら技能持ちだからと言って、さすがに全国民に技能を使うことは不可能だ。

 魔力切れになるのも当然である。


 それに気付き、ウチカゲは片手で顔を覆った。

 何故そんなことにも気付かなかったのか。

 技能を持っていながら魔力切れに関することを忘れていたというのは痛手だ。


「抜かった……!」

「え、どうしたんだ?」

「奴が技能を使うことは分かっていた。魔力切れを考慮しておけば、奴の戦闘力は大幅に減少する……。復興など後回しにして精鋭部隊を向かわせ、始末するべきだった……!」

「ああ……。だが国を思うのは王として当然のことだ。気を取られても仕方ないさ。それに、もうすでに後の祭りだしな。今はこれからのことだ」

「……そうだな」


 歳をとって思考が鈍ったことは言い訳にはしない。

 これに気付かなかったのは自分の考えが至らなかったせいだ。

 この汚名を挽回するために、より現実的な話をしよう。


 そう思い直し、顔つきが真剣になったと同時に、スレイズが問いかける。


「そういえば件の宥漸はどこに? アマリアズも気になるところだが……どうせ山籠もりなんかしていないんだろう?」

「今は悪魔に匿ってもらっている」

「悪魔ぁ!!?」


 スレイズは身を乗り出してそう叫ぶ。

 彼がそういう反応を示すのも至極当然のことだ。

 だが落ち着くように手で制し、説明をする。


「悪魔は技能持ちが多く、なにより私の戦友だ。信頼できる」

「そ、そうなのか……? な、なら、いい……」


 ずいぶん動揺しているようだ。

 だがそれもそうだろう。

 悪魔といえば人間に対して極悪非道の行いをする悪者でしかないのだ。

 とはいえそれは言い伝え。

 実際の彼らはそんなことをするような者たちではない。


 未だに不安が拭いきれていないようではあったが、とりあえず自分を落ち着かせることに成功したスレイズは大きく息を吐き、こちらを見据える。


「で、これからどうする」

「天使の目的は技能持ちの回収だ。それは私も例外ではないだろう。とはいえまずは、ガロット王国と前鬼の里の関係性の継続を図りたい」

「それは俺も同じだ。まったく面目ない事だが、アマリアズを受け入れても守れる気がしないのでな。相手が技能持ちだという時点で、大敗しているようなものだ」

「であれば、スレイズはその団体をなんとかしてもらいたい」

「きびしぃー……」


 頭を抱えて大きく唸る。

 それもそうだろう。

 ここに来た目的の一つに、アマリアズの奪還というものがあるのだから。

 先ほどは山籠もりだと嘘をついたが、状況が状況なので下手をすれば数年は帰ってこれない。


 本当のことを説明したとしても、聞く耳を持ってもらえないことはなんとなく分かっているので、スレイズはどう説明すればいいのか真剣に考え始めた。

 だがどう説明したとしても、糾弾の声は避けられないかもしれない。


 悩んでいる彼を見ながら、自分も考えを巡らせる。

 だがまずは、ガロット王国兵士に帰ってもらわなければならない。

 彼らの監視下で何かしようものなら、止められるのは目に見えている。

 そのせいでスレイズの説得に支障をきたすことがあれば、今度は強引な手段で迫って来るに違いない。


「して、お主はどれ程ここに滞在するつもりだ?」

「このような状況でなければ何ヵ月でも滞在したいものだが、できる限り早めに去る。調査が終わり次第一度下がるとしよう。王が何日も国を空けておくわけにもいかんしな」

「ではそれと同時に天使の行動についても調べてくれるか」

「そのつもりだ。そいつが敵となれば、あの団体も少しは考えてくれるだろう」


 結果が出るのに数日はかかるだろう。

 こちらもその間、できることをしておかなければならない。


 ここで長々と話していると、スレイズの兵士が煩そうだ。

 今回はここで切り上げ、共に二の丸御殿を出ることにした。

 そこで分かったのだが、なにやら、外が騒がしい。

 顔を見合わせてから足早に玄関へと向かった。


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