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問題

 問題とは、現状と目標との間にある障害のことである。


 絡まった糸を簡略化していくことは書くだけなら簡単なことだ。しかし、人の気持ちというのは簡単に割り切れる問題ではない。では、どうすれば解決できるのか。

 リスク管理を考える上でやってはいけないことがあると耄さんに習ったことがる。問題をブチ壊すことだ。もしも剣で糸が切れるならどんなに簡単に問題が解決することだろう。

 だが、それをしてしまえば人と人との間に出来た縁が切れてしまう。切れた関係はギクシャクしたものになるだろう。

 この場合で言えば、誰か一人の首を切り問題自体を無くせば簡単な話にも思える。それは最終手段ということになるが、できるならばそこまでの手段を取らず、円満に解決したかった。


「私、辞めます」


 やってきたのは溝口ミゾグチ 秀美ヒデミだった。報告書を仕上げ、これからどうしたものかと鈴木が悩んでいるところに溝口がやってきた。


「溝口さんは派遣だから、確かにやめるのは自由だけど本当にいいのかい?」

「はい。元々こんな大きな会社で事務仕事をしてるのも、しんどいなって思っていたので」


 溝口がリスク管理部である鈴木のところにきたのは、直属の上司である平田に辞表を出したが、却下されたためだ。

 鈴木のところにきた溝口の顔は晴れやかで、しがらみから解放されることを心から喜んでいるようだった。だからこそ、鈴木も問題解決ができるこの申し出を受けてもいいと思っていた。


「それで?これからどうするんだい?」

「正直まだ決めていません」


 鈴木は決まっていないと言った溝口に対して何かしてあげたいと思い、ふとある人物の顔が浮かんだ。


「もし溝口さんが良ければなんだけど。仕事を紹介してもいいかな?ここよりも小さな建設会社だけど。そこの社長さんが凄くいい人なんだ」

「助かりますけどいいんですか?」


 鈴木の申し出に溝口は喜んで応じた。さっそく鈴木は電話でその人物に確認を取り、溝口を向かわせることにした。後日、その人物である捻子屋から溝口の採用が告げられた。


「可愛い子を紹介してくれてありがとうな。うちの若い奴らもやる気が出るってもんだ」

「それはよかったです。溝口さんもまだまだ仕事を覚えないといけないと思いますが、ちゃんとやってくれると思いますので」

「ああ、任せろ」


 捻子屋の言葉に鈴木は一つ問題が解決したことに安堵する。溝口が会社を去ることで、山本の嫉妬の対象がいなくなり、平田が恋い焦がれたとしても、すぐに会うことはできなくなる。

 会社内での問題は一先ず落ち着いてくれるだろう。


「失礼します」


 ドアが叩かれ入ってきたのは藤井だった。溝口のことがあるので入ってくるのは平田かたと思ったが、意外な人物がやってきた。


「藤井君。どうしたんだい?」

「鈴木課長。助けてください」

「助ける?」


 藤井の意外な申し出に鈴木は首を傾げて、藤井の瞳を見返した。


「はい。俺、殺されるかもしれません」


 殺される発言に鈴木も黄島も驚いてしまう。


「それは穏やかじゃないね。詳しく聞かせてくれるかい」


 藤井は昨晩一人で飲みに行っていたという。そこで山本に偶然出会い、意気投合して飲みだしたそうだ。元々恋人だったこともあり、藤井は山本に気を許していた。

 いい雰囲気になった二人は自然にホテルに入り、服を脱いだところで、山本が包丁を取り出したという。


「それで、あいつが俺を殺して自分も死ぬっていうんですよ。俺は怖くなってカバンだけもって逃げ出しました」


 情けない話にも聞こえるが、どうやら殺人は未遂に終わったようで良かった。これは本格的に山本をどうにかしなければならない。


「藤井君。これは君が招いた種でもあるからね、協力してもらうよ」


 鈴木は非情な決断をしなければならないと覚悟を決める。藤井に詳細を告げると藤井は青い顔をしてリスク管理部を後にした。


「太郎さんにしては思い切りましたね」


 暖かいお茶を入れてくれた望がテレビを付けながらそう呟いた。


「どうすれば一番会社のためになるのか、そして彼らの行く末も考えるとこうするしかないと思ったんだ」

「そうですね。痴情のもつれほど厄介な者はありませんから」


 映し出されたヒーローたちの戦いでは、セクシーな怪人が死神に変身してヒーローを苦しめると言う展開が繰り広げられていた。

 藤井の話を聞いた後だからか、怪獣の顔が山本に見えてしまうのは、女性を怖いと思っている証拠だろう。


「とりあえず、今日は帰ってモフモフしたいよ」

「そういえば、あれからどうなったんですか?」


 少し前に買い始めたデカい卵から孵ったペットの話になり、鈴木はニヤリと笑った。


「見に来る?一緒にいると愛着がわくもんだね。最近は可愛く見えるようになってきたよ」

「まぁ、元々ブサカワでしたからね。それに太郎さんの家には週一で行ってるから知ってます」

「じゃあ来ない?」


 鈴木はかなり残念そうな顔で顔を俯かせると、望が歩み寄ってきた。


「誰も行かないとは言ってません」


 近づいてきた望の言葉に顔を上げると望にキスをされる。イチャイチャしている二人の下に厄介事が舞い込んできたのは、いつものことだろう。



いつも読んで頂きありがとうございます。

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