三角関係
部長篇スタートです。
一年ほど時間を進めました。
三角関係、三人の人間が同時に恋愛関係に陥った状況、人間関係をいう。
リスク管理部の部長に就任した鈴木 太郎は部長になってから一年を過ごしていた。年齢も32歳になり、30歳のときのような激動の一年に比べれば大部落ち着いてきていた。
今夜は、久しぶりに行きつけの定食屋で平田と煮魚定食をつつきながらビールを飲んでいた。今晩は平田に相談事があると言われて呼び出されたのだ。
「それで?どうしたんだ、平ちゃん。第三営業部は順調だと聞いたぞ」
平田 裕樹は鈴木がリスク管理部の部長になったことで空いた。第三営業部の課長に就任したのだ。その際に派遣社員である藤井 貴之が正社員となり係長になった。
「ええ。仕事の方は上手くやれていると思います。赤城の梶原さんとも鈴木部長のお蔭で上手く繋ぎが取れました。その件に関しては本当にお世話になりました」
「いやいや。梶原さんも仕事ができる人だからな。平ちゃんと上手くいってくれてよかったよ」
鈴木が部長になるにあたり、最初に行ったことは人と、人とを繋ぐことだった。自分が抜けた穴を上手く埋めてもらう為に取引先に一緒に出向き引き継ぎの手続きを行った。さらに、他の者に不備がでないようにリスク管理と同時進行で、第三営業部の手助けもしていた。
「それで?今日は相談っていうのは何だい?」
鈴木は相談があると言われて、いつもの定食屋に来て食事を開始した。しかし、一向に平田から相談らしい内容を聞いていない。
「それがですね……」
平田が何かを言い淀み、ビールを一気に飲み干した。
「実は……」
やっとの思いで話し出した内容を要約すると、痴情のもつれいう奴だった。
新しく係長に就任した藤井が派遣社員である山本 順子と付き合っていたのだが、そこに山本よりも若い。溝口 秀美が入り込んだという話らしい。
「三角関係という奴だな。それで、当事者たちはなんて言ってるんだい?」
相談事を持って来るということは平田も何らかの関与はしているということだろう。
「はい。まだ藤井本人には事情を聞けていないんですが、女性社員二人から相談を受けた内容はこうだったんです」
平田が事情を聞いた山本からは……
「あの人、調子のいいことばっかり言ってたくせに、若い子が出来たら私なんて」
山本の言い分としては、付き合い始めて三年が経ち、マンネリ化してきたという。最初の頃は、藤井が溝口の相談を聞いていたそうなのだ。
そのうちに段々と親近感を持つようになり、今では自分よりも溝口の肩を持つことが多くなったという。そのことで喧嘩が多くなり、揉めているうちに険悪な雰囲気が増えてきたらしい。
「まぁ冷静に話をしなさいとは言ったんですが、人の恋愛ですし、難しいですね」
平田は溜息を吐くと、今度は溝口の話を始めた。
「藤井さんって凄く良い人だと思うんです。真摯に相談に乗ってくれるし、いつも応援してくれるんです。男性として優しいなって。でも、山本さんと付き合ってるって知ってるんで、二人が幸せになってくれればいいなぁ~と思ってますよ」
「溝口的にはまだ恋心まではいっていないみたいなんです。ちょっといいなとは思ってるみたいなんですよ」
平田は困った顔で、鈴木に話を持ってきていた。
「こればっかりは、本人次第だからね。藤井君に話を聞かないとわからないな」
相談を受けた鈴木も人の恋路に踏み込むのはどうかと考えてしまうが、相談されたからには邪気にすることもできない。
「そこで、藤井を次の店で待たせているんですよ」
「えっ!藤井との話を今からするの?」
平田の段取りの良さにビックリしながら、食事を終えたテーブルに残されたビールを飲み干す。
「それなら待たせたら悪いね。じゃ行こうか」
「はい。ですが、時間的に余裕をもって、言っているので大丈夫ですよ」
平田は藤井を呼ぶに当たり、事前に鈴木に話をしてから行こうと考えていた。だからこそ、藤井との待ち合わせ時間を遅めに設定していた。
「そうか……それで?どこに行くんだい?」
「ナイトクラブです。バラさんにも聞いてもらおうと思って」
「彼女か……まぁ彼女ならいい意見をくれそうな気はするな」
鈴木もリスク管理に移動してからは、バラの下に行っていなかったので、バラの顔を思い出しながらサバサバとした性格に姉御肌の雰囲気を醸し出すバラの事を思い出す。
「そうなんですよ。じゃ行きましょうか」
平田もビールを一気に流し込み、会計を鈴木が済ませる。ナイトクラブは営業の経費で落とすということなので、定食屋は鈴木が奢ることにした。
「それよりも部長は、黄島さんとどうなんですか?そろそろ結婚とか?」
望は正社員として中小企業に勤め出した。現在は鈴木の秘書として働いてくれている。
「結婚かぁ、まだ考えてないけどな」
「そんなこと言ってると、他の奴に取られちゃいますよ」
「そうかな?」
「黄島さん超美人ですからね」
「まぁな」
鈴木は気の無い返事をしながら、望の顔を思い浮かべた。一途に思ってくれている彼女の事を愛しているが、自分と望が本当に釣り合っているのか考えてしまう。
「色々あるんだよ」
鈴木はそれだけ言うと望の話を切り上げた。
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