閑話 シャドー達 4
バラによって暗示のかけられた壺井を、マサは徹底的に自分のことを救世主だと思い込ませた。
そのため廃アパートに壺井を連れ込み、更なる暗示を上乗せしたのだ。
「いいか。お前は世界を救う救世主だ。何をするのか、忘れるな」
「俺は救世主……」
惚けた顔をした壺井は椅子に縛られ、マサの声だけが頭の中に響く。
「お前は、中小企業に働きに行き。いつもの同じように仕事をしろ。そして重要書類のありかを探るのだ」
「俺は、中小企業に行って、重要書類のありかを探る」
「お前は、重要書類を探る間に、ロボットを収容して入り施設を爆破するために爆弾を仕掛けるのだ」
「俺は、重要書類を探り、ロボットを収容している施設を爆破する爆弾を仕掛ける」
「お前は、鈴木が憎い。鈴木 太郎へ復讐するためにどんなことでもする」
「俺は、鈴木が憎い。鈴木 太郎へ復讐するためにどんなことでもする」
「そうだ。お前は救世主であり、スパイであり、復讐者だ。お前には大義名分がある。お前を止めることは誰にもできない」
「俺は……救世主だ!」
壺井は一瞬目を見開き、すぐに意識を失った。
「次にお前が目覚めたとき、この場で起きたことは全て忘れる。しかし魂に刻まれた言葉はお前を突き動かす。待っているぞ壺井。俺の下に重要書類を持って来い」
マサはデクに指示を出して、壺井の家へと送らせる。
壺井の鞄には大量の小型時限爆弾を入れていた。
壺井は無意識に爆弾をロボット収容施設に設置する。
「これで下準備は整った。後はあの二人を打ち合わせをしなくちゃな」
マサは一仕事終えた後の一本を口にする。
「人間の生まれた意味はこれだけだな」
タバコの煙を吹き出し、気持ちを落ち着けたマサは、明るくなってきた外へと視線を向ける。
「とりあえず休むか」
マサは廃アパートの一室で眠りについた。
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ルイとゼロは何度も中小企業にお弁当を配達することで、やっとその存在に気付くことができた。
主にルイの思い込みにより、こんなところにロボットがいるはずがないということで気付けていなかった。
「ねぇ、ルイ。これっといつも見てるロボットだよね?」
「そんなはず……!!!ロボットだ」
宇宙人に知識をもたらされ、地球人である的場が開発を行なった旧型ロボットが修理の為、中小企業地下倉庫に収納されている姿を見たことでやっと二人は存在に気付いた。
「でも本物かな?」
「そっそうだぜ。なんでこんな会社の地下にあるんだよ」
「うん」
「もしかしたら中小企業の社長とかが、ロボット好きで、ハリボテの似た物を作ったとかじゃないのか?」
ルイは自分の考えの範囲にないことを信じられない。
しかし、ゼロは素直に受け入れるたちなので、本物かも……と思いながら、しかしルイの推測もあり得るかもしれないと思った。
「あっ今日もご苦労様です」
そこに鈴木がやってくる。
搬入の手続きに態々課長である鈴木が来る必要はないと思うのだが、最初から鈴木が受け取りのサインをしにくるのだ。
「ご苦労様です」
「ご苦労様です」
二人は頭を下げながら挨拶を返す。
「ちょっとお聞きしたいんですが、このロボットって本物ですか?」
ゼロは素直に思ったことを口にする。
そのため鈴木に対しても気になったことはすぐに質問していた。
「ゼロちゃんだったよね」
鈴木も何度か配達をしてもらううちにゼロが女性であることを知った。
見た目が男の子なので、勘違いしてしまう。
「はい」
「あのロボットは我が社が開発したロボットだよ。宇宙を護るヒーローの裏方だが、僕もその手伝いができていると思うと誇らしいよ」
「そうです……」
「それに君達もその手伝いをしているんだよ。君達が持ってきてくれた食事によって僕達はお腹を満たして仕事のやる気を盛り上げる。本当にいつもありがとう」
鈴木はお礼を言いながら、ゼロの頭を撫でる。
ゼロも何度か鈴木に頭を撫でられたことがあるので、されるがままになる。
「そっそうなんですね。うわ~嬉しいな」
その後ろで大量の汗をかいた。
ルイが棒読みでセリフを言うような口調になっていた。
「うん?ルイ君も男の子だからやっぱりロボットとか興味ある?」
「ええ。もちろんですよ」
「そうか、やっぱり男の子だね」
鈴木が何度も頷いている姿を見ながら、ルイは作り笑いをするのが精いっぱいだった。
こんな重要な情報がこんな簡単に手に入るとは思っていなかった。
「そうだ。今日はいつも配達してくているお礼を持ってきたんだ」
それは中小企業で作っている。
ヒーローバッチやステッカー、ロボット人形だった。
さらに少ないが、謝礼が入った封筒を二人に渡す。
「これからも我が社のため、そして地球のためによろしくお願いします」
鈴木は笑顔で二人にお礼を渡して、代わりに大量のお弁当を受け取る。
「じゃあ。明日もお願いしますね」
鈴木はカートを押して去って行く。
プレゼントを受け取った二人は呆然としていた。
「こんなもの……」
ルイがロボットの人形を叩き付けようとしたところをゼロが止める。
「ダメ。人形に罪はない。それに可愛い」
ゼロは人形を抱きしめた。
お世辞にも可愛いとは思えない人形を抱きしめるゼロの姿にルイは舌打ちをして歩き出した。
「姉さんに報告はするからな」
「うん」
ルイの言葉など聞いていないゼロは、嬉しそうにロボットの人形を眺めていた。
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