閑話 シャドー達 2
マサはある人物に会いに来ていた。
マサにとっては地球に降りてからの恩人であり、最初の友人である。
「オヤッさん。いますか?」
「おう。マサじゃねぇか」
ダンボールで作られた家の中にマサは入って行く。
「どうです情報入ってますか?」
「お前はそればかりだな」
「まぁそれが仕事なんで」
「仕事熱心なのはいいことじゃ。まぁお前さんが言っていた会社はこれじゃろ」
オヤッさんが投げた資料には中小企業の文字が書かれていた。
「宇宙人共に対抗するためにロボットを開発した男がそこに努めておるんじゃ。名前は的場 元。エンジニアとして天才と呼ばれている者じゃ」
「的場……」
マサは資料に目を通しながら、的場の写真を見つめる。
「しかしな。今はそいつよりも目立ち奴が二つおる」
「目立つ奴?」
「うむ。一人は営業第一の壺井 浩孝。もう一人は総務部の鈴木 太郎じゃ」
「その二人がどうしたんだ?」
「うむ。なんでも営業課の壺井を鈴木が蹴落として、営業課の課長に収まったらしい」
「そんなのどこにでもある話だろ?」
「それがじゃ。鈴木という奴は営業課に写ってから、どうやらロボット事業に深く関わっているそうなんじゃ。そしてそんな鈴木を壺井は恨んでおる。意味はわかるな」
オヤッさんはマサがどんな仕事をしているのかわかっていない。
しかし、産業スパイや情報屋に似たような仕事をしているのだろう思っていた。
「こいつを使えば情報が手に入るってことですね」
「そうじゃ。弱い奴を攻める。情報を獲得する極意じゃよ」
「オヤッさんにはいつも勉強させてもらってます」
マサは数枚の現金と日本酒をテーブルの上に置いた。
「お前さんも頑張れよ」
「了解です」
マサはダンボールの家を飛び出して、スマホを取り出す。
「姉さんですか。一つ聞きたいんですが。中小企業の壺井ってやつのこと知ってますか?」
「ええ、ええそうです。なるほど。じゃ一つお願いがあるんですが」
マサは今聞いた情報を姉さんに伝えた。
「これで、あとは壺井が罠にハマるのを待つだけだな」
マサは厭らし笑みを作り歩き出した。
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マサから情報が入った。
姉さんことバラは仕事前にあるメールをお客に送る。
「今晩。久しぶりにいらっしゃいませんか?仕事が大変だと聞きました。今日は私の驕りなので、お待ちしてます。あなたのバラより」
メールの内容を確認して、完璧だと自分で頷いて送信ボタンを押す。
「姉さん」
デクがソファーに寝そべるバラに話しかけてきた。
「どうしたんだい?」
「大丈夫なんですか?マサの情報なんか信じて」
「あんたは頭が足りないからわからないだろうけどね。マサの奴はあれで情報分野のスペシャリストだよ」
デクは力自慢なので、バラのボディーガードとしてバラの務めるナイトクラブで黒服として働いている。
「そうですか?あいつは短気ですぐに喧嘩をしてるようにしか見えませんが」
「まぁ短気なのは間違っていないけどね。それでもマサが持って来る情報に間違いはなかったよ」
デクはバラの言葉に頭を掻くだけで納得していないが、バラは確信を持ってマサの情報を信じていた。
それはバラの下にもマサが得た情報に近い情報が手に入っていたからだ。
「昨日の平ちゃんが連れてきたのはそういう客だったのかい」
鈴木の顔を思い出して、胸がチリチリと熱くなる。
「ふふふ。私に靡かない男かい。楽しみだね」
バラは鈴木に婚約者がいること。そして超絶美人だという言葉に闘争心を燃やしていた。
「手に入らない男ほど手に入れたくなるってもんだよ」
今晩の用意のために店に連絡を入れながら、心の中では壺井ではなく鈴木のことを考えていた。
今日は壺井にたらふく酒を飲ませて、既成事実を作る。
その上で、壺井の心を奪い去るのが目的なのだ。
「憐れな道化になってもらうよ」
バラはいつも以上に着飾り、壺井をもてなす。
壺井は落ちた自分に構う者などいないと思っていた。
こんな形で通っていたクラブのホステスから癒してもらえるなど考えもしなかった。
バラの心中などお構いなしに壺井は酒に、そしてバラに溺れた。
「あなたは世界を救う救世主だよ。そのために中小企業の見取り図と重要書類を盗み出すんだ。もちろん用意は大切だよ」
バラは裸で眠る壺井の耳元で暗示をかけるように囁き続ける。
「どうです?姉さん」
壺井とバラがやってきた場所は、マサがネグラとして廃アパートだった。
「もう大丈夫だと思うけど、それでこいつをどうするんだい?」
「まだですよ。もっと深く中小企業の中にモグリ込む必要がある。もぐりこんだ上で壺井が書類を盗み。秘密基地ごとロボットも爆破する」
「なるほどね。あたしらが直接手を下さなくてもいいってことかい」
「そうです。でもそれにはまだまだ計画を練る必要がある。姉さんには続けての壺井への洗脳お願いします」
「まぁ任せておきな。私の力は誘惑や幻惑。洗脳なんてお手のものだよ」
バラは妖艶な笑みで壺井を見つめ、その先にいる鈴木の姿を重ねた。
「あいつもいつかあたしの手の中に」
「うん?何かいったかい?」
バラの呟きはマサには聞こえていなかった。
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