快気祝い
快気祝い、病気やけがが全快したことを祝い、お見舞いに来てくれた方やお見舞いを下さった方に、お礼の気持ちを込めてお返しの品を贈ることです。 お見舞いをいただいたら、まず、お礼状を出します。 お礼状はなるべく早い時期に出すようにしましょう。 お心づかいをいただいたお礼と、病気や怪我の回復具合などを伝えます。
鈴木は三か月の入院生活を終えて、病院を退院することができた。
会社側も犯人を追いつめた功績と、最重要機密であるロボットを守った功績を評価して鈴木を正式な幹部へと認める運びとなった。
現在部長職に空きがないので、当分は課長のままだが、幹部ということで給料は少しあがるらしい。
「新しいビルはここか……」
鈴木は松葉杖が取れたばかりなので、歩くスピードは遅いが、なんとか新しい中小企業のビルへとやってきた。
「大丈夫?」
ゆっくり歩く鈴木の姿に望が心配気に肩を貸そうとするが、丁重にお断りしておく。
痛みはさほど残っていはいないのだ。
膝の辺りの曲がり加減が上手くいかないので、引きずるような恰好になってしまうが、リハビリを続けていれば元に戻る医者からも言われている。
「ああ。大丈夫。さぁ新しいビルを案内してくれよ」
望は鈴木が入院している間に正式採用されて社員へとなっていた。
また幹部になった鈴木の専属秘書という役職までオマケ付きだ。
「ええ。平田さんも待っているしね」
平田も昇進するポストが空き次第課長への昇進が決まっている。
その前に鈴木の仕事を肩代わりしていた分を引き継ぐことになっているのだ。
「平ちゃんにも迷惑かけたな」
「ちゃんとお礼をしないとね」
鈴木と望は連れだって新たなビルへと入って行く。
新たなビルは地下50階という特殊ビルではなく普通の造りになっている。
新たな地下修理基地は別の場所に造られることになったので、現在は残業があるときは場所をビルから出て移動しなければならない。
「そうだな」
二人はエレベーターに乗って望が三階を押す。
ビル自体は12階建てと前の物よりも高い造りなっていた。
「僕達のオフィスは三階なのかい?」
「いいえ。太郎さんは幹部になったので、専用オフィスがあるのよ。だけど平ちゃんや他の営業第三課のメンバーは解体されて三階で集合しているの」
「そうだったのか……なんだかさみしいね」
「幹部だもの普通の仕事をじゃないんでしょうね」
「なるほど」
三階の扉が開き、一斉にクラッカーが鳴らされる。
「鈴木課長!」
「「「退院おめでとうございます!」」」
平田の声とともに一斉におめでとうの声が上がる。
「うわっ!ビックリしたな」
「ははは。課長。無事に戻って聞くれてありがとうございます」
平田が鈴木に歩み寄り、握手を求める。
「いや。望君からは君が僕を助けてくれたと聞いたよ」
「僕は鈴木課長の指示に従ったまでですよ。まぁどうしてもお礼がしたいっていうならまたナイトクラブに付き合ってください。そのときは課長の驕りで」
「わかったわかった。そのときは思い存分に飲もう」
平田に握手を返して、他の者達にも声をかけられる。
前川や的場も快気祝いに参加してくれたいたようで、二人が並んでいるところに手招きされる。
「お二人も着ていたんですね」
「おう。この会社の英雄様の快気祝いなんだこないわけにはいかないだろう」
「君は本当に無茶なことをするね。僕も聞いたときは肝を冷やして何も食べられないかと思ったよ。まぁ三キロほど太ったけどね」
さらに成長した腹を突き出す前川に苦笑いしていると、二人は真剣な顔になる。
「君は本当に素晴らしい働きをしてくれた。そんな君に頼みたいことがあるんだ。後で第一会議室にきてくれないか」
二人の雰囲気に断ることもできない。鈴木は頷いた。
「わかりました」
「まぁ悪い話でもないから心配しなくていいよ」
「おいおい。あれが悪い話じゃなくてなんなんだよ」
「君は黙っていなさい」
前川は鈴木に気を使って言っているが、的場にそんな謙虚な気持ちはないようだ。
「あははは。心して伺います」
「そうしろ」
二人と乾杯を済ませ、今日は午前の仕事をお休みにしてくれたみんなに感謝の言葉を言い周り、一通り周り終えたところで、望に声をかける。
「第一会議室に呼ばれているんだ。行ってくるね」
「はい。第一会議室は7階です。後、太郎さんのオフィスは10階なので、そこで待っています」
「ああ。行ってきます」
「いってらっしゃい」
望に見送られて、鈴木はエレベーターニ乗り込んだ。
宴会場は主役がいなくなっても盛り上がっていたが、午前の就業チャイムが鳴るころには片付けも済まされていた。
鈴木は第一会議室と呼ばれている7階の会議室にきた。
「やぁ、来たね」
鈴木が扉を開くと、前川と的場以外に、営業部の部長と宣伝部の部長の4人が立っていた。
「これは部長!」
鈴木は慌てて頭を下げるが、4人は一斉に手で鈴木を止める。
「鈴木君ここでは立場は関係ない。まずは君の退院が無事に済んでくれておめでとう」
営業部部長に言われて、鈴木は恐縮しながらも頭を下げる。
「それと君には幹部になってもらうことが決まっているが、正直部長職もつけたいと思っている」
望から幹部の話は聞いていたが、部長の話は流れたと聞いていた。
「それは……」
営業部長の顔を見てします。
営業部長は50でまだまだ現役バリバリの人物なのだ。
「もちろん。私が退職するつもりはない。また私が上にあがることもない。そこでだ。君が部長を務める新しい課を設立しようと思う」
「えっ!」
「新設される課の部長になってほしい。もちろん最初は大変なことばかりだと思うが、君にならできると私達は思っているんだ。今回私達一同4人の総意であり、社長にも許可を頂いている」
営業部長の言葉に鈴木はどうこたえて良いのかわらかないでいると、的場がニヤニヤした顔で鈴木を見ていた。
「どうしたんだ。心してきたんだろ。受けちまえよ。大変だとは思うけど俺はお前ならできるって思ったんだ」
「そうだよ、鈴木君。君のこれまでの功績と発想が新しい課の役に立つ」
的場と前川に背中を押され鈴木は決意を固める。
「謹んで辞令を受けさせていただきます」
「そうか、よかった」
営業部長が安堵の声を出し、宣伝部長の方を見る。
「君が今度属する課は危機管理課だ」
事例を開いた宣伝部長の言葉に鈴木は聞き返す。
「ああ。君はこれまで数々の危機を乗り越えリスクを回避してきた。そんな君だからこそこの会社の危機を救えるんじゃないかと皆で考えたんだ。どうだい受けてくれるか?」
宣伝部長は悪戯が成功した子供のように、鈴木に笑いかけた。
「ありがとうございまうす。お受けいたします」
鈴木の気持ちはすでに決まっていた。
危機管理課という名前も鈴木には営業課よりもしっくりくると思えた。
「そうかよかった。ではこの辞令を受け取りたまえ」
宣伝部長から辞令を受け取り、鈴木は礼をする。
鈴木に対して4人の部長たちは拍手で若き部長を迎えた。
いつも読んで頂きありがとうございました。
課長編、鈴木視点はこれで最後となります。
数話視点を変えての閑話を入れて、部長篇にいきたいと思います。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。




