覚悟
すみません。昨日はお休みしました。
覚悟、危険なこと、不利なこと、困難なことを予想して、それを受けとめる心構えをすること。
小男をすり抜けようと走り出した鈴木に対して、小男は鈴木の前に立ちはだかる。
「いかせねぇって言ってるだろ」
男が鈴木を掴もうとしてきたので、とっさに腕を捻り投げ飛ばす。
耄の道場で学んでいる合気道が、週一学習でも役に立った。
小男と身体を反転することができたので、上がる階段が見えている。
「いってぇ!お前なかなかやるじゃねぇか。なら俺も容赦できねぇな」
男がそういうと、黒い霧が男を包み込む。
そこにいたのはテレビでよく見る雑魚キャラ、シャドーだった。
鈴木は男の変貌に驚きを隠せなかった。
「なっ!やっぱりお前が宇宙怪人だったのか、これは協定違反だろ」
「こんなところに誰も来ないからな正体をバラしても問題あるまい。地球人よ。俺がこの姿になったということはお前の最後だということだ」
小男に変わりないが、それでも宇宙怪人が目の前にいると思うと足が竦む。
「鈴木!リモコンを返せ!」
階段を上りきった壺井が迫ってきていた。
「どうするのだ。奴も我々の味方。すでに貴様は詰んでいるのだ」
シャドーになった男は跳躍して鈴木の後ろに見えていた階段を塞ぐ。
「これでお前に逃げ場はない」
「それはお前も同じじゃないのか?」
「それはどうだろうな。俺は宇宙人、お前が考え付かないような逃げ道があるかもな。何より、お前達の自慢のロボットを破壊すれば、この街自体がなくなるんじゃないのか?」
鈴木はシャドーの言葉に、核爆発が起きる姿を想像して背筋に汗が流れた。
「さぁ、来たぜ」
シャドーの言葉に鈴木が振り返れば壺井が立っていた。
「ス・ズ・キー!やっと追いついたぞ」
壺井は息を切らしながら、それでも鈴木を捉える瞳はしっりとしていた。
「どうするんだい。鈴木さんよ」
絶対絶命に陥った鈴木は当たりを見渡す。炎の勢いが増して来ている。
30階で上がった炎は上にも下にも燃え上り、鈴木達がいる場所も黒い煙が立ち込め始めていた。
「壺井……お前は本当にいいのか?」
鈴木は狂気に落ちた壺井に対して、問いかけた。
「何を今更、お前は俺から全てを奪っていったじゃないか、仕事も恋人も御前に奪われた。今の俺には生きる希望なんてないんだよ。唯一残った俺の夢は俺自身が世界を救う救世主になるだけだ」
鈴木は壺井が取り返しのつかない領域まで足を踏み入れていることに残念に思った。
「もう戻れないんだな」
「ここで死ぬ者に関係あるまい」
変身したシャドーは人間の動きでは追いつけないスピードで動く。
鈴木は目で追うのではなく、煙の動きでシャドーを捉える。
「ほう、やるな。普通の人間がよく俺の動きを避けたな」
鈴木はシャドーを避けた後、転がるように階段へ向かう。
「待てよ!」
シャドーの動きに対して、壺井の動きは遅いが、二人同時にかかられては鈴木も行き詰る。
「もう、逃げ場はないぜ」
シャドーが階段から鈴木を見下ろし、壺井が嫌らしい笑みで鈴木を見つめる。
「ならこんなもの!」
鈴木がリモコンを振り上げて、壊そうとすると壺井がさらに大きな声で笑い出す。
「ふはははは。本当にいいのか?そのリモコンが壊れても最後の爆弾は爆発するぞ」
叩きつけようとした手を止める。
壺井が言うことが本当のことなのかはわからない。
しかし、鈴木の行動を止めようとは二人ともしなかった。
ならば壺井の言うことが本当のことだと思える。
鈴木は振り上げた腕を胸に抱えて、リモコンを護る。
「なら命に代えてもリモコンを守る」
鈴木は逃げることも壊すこともできないのなら、戦うことを選んだ。
「できることをしてやるよ」
鈴木も覚悟を決めて階段へかける。
「ほう。俺を相手にするのか?」
シャドーは見えない顔で、嘲笑う声を出す。
そして一切の躊躇も手加減もなく。鈴木の正面に現れてボディーブローを見舞う。
「グハァ!」
「俺がザコ怪人だから舐めてたか?」
シャドーは先ほどよりもさらに速い動きで鈴木を翻弄する。
右から顔を、左から背中を、正面から腹を殴っていく。
「何か覚悟を決めたんだろ?ならその覚悟を見せて見せろよ」
鈴木は殴られながらも倒れることなく階段へ向かう。
後十階上がるだけで、誰かに助けてもらえるかもしれない。
「ほう。殴られても進むか。それがお前の覚悟か……無駄だな」
シャドーは今まで以上に距離を空けて勢いをつける。
「これで終わりだ」
シャドーにとって必殺に一撃が、鈴木に飛来する。
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