逃亡
逃亡、義務・束縛・逮捕をきらって逃げ(うせ)ること。
ブレインからもたらされた情報を下に、壺井を捕まえるため鈴木は平ちゃんと望に協力してもらうことにした。
「二人には話しておく。壺井の居場所が判明した」
「どこなんですか!」
「第三倉庫近くにある廃アパートに潜伏しているらしい」
「そんなところに……」
鈴木の言葉に平田は考えるそぶりを見せ、望は続きを促すように鈴木の顔を見つめていた。
「できれば警察や他社よりも早く壺井を確保したい。そうすることで我が社の信用も少しは回復できる」
「それで私達が協力するのね」
「君に危険なことはさせたくないが、信用できる人間だけで行動したいんだ」
鈴木は誰が信用できるかわからない。
それでも望のことは誰よりも信頼していた。
そして、平田も立場的に壺井を捕まえるのに協力してくれると判断したのだ。
「太郎さん。私を選んでくれてありがとう。私頑張ります」
「俺も、いえ私も課長に協力します」
平田も考えるのを止めて、鈴木に協力することを約束した。
「俺達は専門家じゃない。夜に行っても正直捕まえられるとは思えない。何より武力的な確保は不可能だ。だからこそ対話でなんとか壺井に投降してもらおう」
「わかりました」
鈴木の申し出に平田が応え、望が頷く。
「もしかしたら壺井以外に誰かいるかもしれない。何か遭った場合は必ず逃げること。何よりを自分を大切に考えてほしい」
壺井は宇宙怪人を危惧していた。
どんな怪人がいるのかわからないが、刺激しなければ向こうも正体を現すことはないだろうと鈴木は思った。
そうでなければ潜入などしていない。
「あとの作戦は移動しながら話そう」
三人は平田の運転で会社の車を出した。
壺井の護送時に車は必要だろうと判断してのことだった。
「課長はどうやって壺井さんの情報を?」
平田は素朴な疑問を鈴木にぶつけることにした。
会議から帰ってきたときの鈴木はそんなことを知らなかった。
「情報屋がいてね。まぁ僕以外には会いたがらない人だけどね」
「いいなぁ~僕もそんな人がほしいです。営業マンにとって情報は命ですから」
鈴木の言葉に平田は勝手に想像してくれたようだ。
「太郎さん。この事件が終わったら、あの話も考えてくださいね」
後部座席に座る鈴木と望は、就職の話を蒸し返していた。
「ああ。本当に今回の事件が全て片付いたら、話し合おう」
鈴木は今回のことで中小企業が成り立っていけるのかわからないと思っていた。
「必ず」
望の言葉を聞きながら、鈴木は今は目の前に集中しようと思った。
先のことを話すためにも壺井を捕まえなければならない。
「着きます」
平田は鈴木に指定された。
廃アパートが見える工場の影に車を止めた。
「どうされますか?」
「まずは僕と平ちゃんで正面から行ってみる。望君は車の中から、壺井が逃げるようならどっちに逃げたか見ていてほしい」
「本当にそれでいいんですか?」
望は強い意志を込めた目で鈴木を見るが、鈴木は望に危険なことをしてほしいとは思わなかった。
「大丈夫だよ。耄さんとこで合気道を習っているから壺井に襲われても対処はできる」
鈴木は努めて明るい口調で望に語りかけた。
平田も鈴木の思惑に賛同らしく望を援護することはなかった。
「わかりました。でも危険だと思ったら必ず逃げてください」
望が願うように言って、鈴木と平田は頷いた。
二人は車から下り、望が運転席へと移動する。
「気を付けて」
望に見送られながら、二人は廃アパートへと歩いて行く。
「なんだか刑事ドラマみたいですね」
平田の肩は震えていた。
彼なりに気持ちを奮い立たせようとしているのだろう。
「そうだな。でも俺達は刑事じゃないから、危険なことはしなくていいからな」
「わかってますよ。殉職なんてしたくないですからね」
二人でそんな話をしながら、アパートの中に入って行く。
倉庫や工場で働いていた者達の住まいとして作られたアパートは工業が潰れたことによって破棄された。
壊されることなく、残されたアパートを壺井は根城にしていたのだろう。
「多分ここだな」
ブレインに言われた部屋についた。
鈴木はいきなり開けるのではなく、ノックをした。
「いいですか、課長?」
「ああ。俺達は争いにきたんじゃない」
ノックを数度するが返事はなかった。
相手もここが廃アパートだということをわかっているのだろ。
居留守で通すつもりだと判断して、鈴木は扉に手をかける。
扉には鍵がかかっていたので、平田に合図を送る。
二人がかりで扉に体当たりして、老朽化された扉は簡単に開いた。
「なんだおめぇら!」
中にいたのは冬だと言うのに半袖アロハシャツを着たチンピラ風の男だった。
「ここに壺井 浩孝が潜伏していると情報があった。壺井はどこにいる?」
「はぁ~人んち壊しといて謝罪もなしかよ。それに何訳の分からんこと言ってんだ!ここに壺井なんてヤツはいねぇよ」
男は鈴木を睨みつけながら、近づいてくる。
鈴木は男を無視して、周りを見るが、壺井らしい人影はなかった。
「おうおう。どうしてくれんだ。人ん家壊しといて」
チンピラがいう家とはすでに廃棄されている者なので、鈴木がどうこうする必要はない。
しかし、もしこのチンピラ風の男が宇宙怪人かもしれないと思うと、鈴木的には揉め事は避けた方がいいと判断した。
「どうやら勘違いだったようです。すみませんでした。これは少ないですが修理費です」
リスク管理で培った。怒れる人へと対応を取る鈴木は謝罪と謝礼を差し出した。
「おっおう。まぁ分かってんならいいのよ」
「それでお話なんですが、ここに住まわれいるのはあなただけですか、情報を頂ければお礼はします」
鈴木は下手に出るのではく、あくまで対等なビジネスだということを伝えてチンピラに話しかけた。
「壺井ってやつは確かに知らねぇけど、ついこの間までデカい顔の男はいたぜ」
「その男がどこにいったか知りませんか?」
「出すもんあるだろ」
男が右手を差し出したので、鈴木は一万円を差し出す。
「なんでも復讐がどうとか言って、昨日帰ってきたと思ったら今日の朝には出て行ったぜ。どこに行ったかまではわかねぇよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「おう。俺はマサってんだ。あんたの名前を教えろよ」
「鈴木です」
「鈴木さんか、あんたは金払いが良いし礼儀を弁えてるから良いことを教えてやるよ。アイツには惚れてる女がいるらしいぜ。何でもクラブで働いているホステスでバラとかキクとか言ってたな」
マサの情報を聞いて、鈴木の頭には一人の女性が浮かんできた。
それは平田も同じようで、二人で顔を見合わせる。
「貴重な情報ありがとうございます。これはお礼です」
鈴木はさらに一万渡し、マサに礼を告げて、その場を後にした。
「へへへ。上手いこと動いてくれよ」
去って行く鈴木の姿を見ながら、マサは笑っていた。
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