【番外編8(完)】皇女ヴィヴィアンは箱推し中!
「ディアルゴ!」
わたしはすぐに、ディアルゴに駆け寄り抱きしめる。
ディアルゴはダイアナとは違い、わたしそっくりのピンク色の髪の毛で生まれてきた。だけど、それ以外は本当にエレン様に生き写し。紫色の神秘的な瞳に、幼いながら理知的な表情、まだ四歳だというのにすでに王者の風格が漂っている。……が、とにかくとてつもなく可愛い。隙あらば抱きしめてデロンデロンに甘やかしたくなるほどだ。
「お母様、苦しい……」
「ああ! ごめんごめん! 可愛すぎて、つい」
平謝りするわたしに、ディアルゴは「大丈夫」と言って笑う。可愛い。本当に天使だ。
「ヨハナ、ディアルゴを遊びに連れていってくれてありがとう! ディアルゴたら急に『エイジャックスたちに会いたい』って言うことを聞かなくて」
「とんでもございません。うちの子もディアルゴ殿下と遊ぶことができて、とても喜んでおりますから」
ヨハナはそう言って満足そうに微笑む。
ヨハナはというと、わたしが結婚した直後にエイジャックスと結婚。それから、わたしが妊娠したのを見計らって、自身も子どもを妊娠した。
『わたくし、ヴィヴィアン様とエレン様、お二人のお子様の乳母兼お世話係になるのが長年の夢だったのです……! ああ、ようやく夢が叶うのですね!』
瞳をキラキラさせながらそう訴えるヨハナに、わたしとエレン様は驚きを隠せなかった。
『そりゃあ、気心が知れていて、なにより信頼しているヨハナが子どもを見てくれたら、わたしたちは安心だし助かるけど、ヨハナの子どもはどうするの?』
『大丈夫です。エイジャックス様が魔術師団を休んで、みてくださいますから! その分、わたくしが働きます。そういう約束なんです』
『えぇ?』
はじめのほうこそ、本当にそれでいいのかな?って迷いもあった。ヨハナは元々身分の高いご令嬢だし、仕事なんてしないで自分の子どもとゆっくり素敵な時間を過ごしたほうがいいんじゃないかなって。
だけど、ディアルゴとダイアナをわたしと一緒に育ててくれて、活き活きと働いてくれているヨハナを見ていたら、これも一つの正解なのかもしれないと思いはじめた。わたし自身、子どもたちを生んで以降も精力的に公務を続けているしね。
とはいえ、ヨハナとヨハナの子どもには、できる限り一緒にいる時間を作ってほしい。
そんなわけで、わたしは『子どもたちの遊び相手になってほしい』という理由をつけて、しょっちゅうエイジャックスと二人の子どもを城に呼んでいた。おかげで三人はまるで兄弟のように仲がいいし、わたしもヨハナたちの子を自分の子みたいに大事に思っている。ディアルゴなんかは空気を読んでか、定期的に『エイジャックスたちに会いたい』と自ら言ってくれるしね。
「エイジャックスも、相変わらず面倒見がいいよね」
エイジャックスはダイアナを含めた子どもたちから人気で、ほどよく自由に、ほどよく世話を焼いてくれるのがちょうどいいらしい。エレン様もエイジャックスのことは未だに『先輩』と呼んで慕っているし、ヨハナと結婚したことで、わたし自身前より交流が増えた。
「そうですよね? 俺もそう思って……」
「ヴィヴィアン様、エイジャックス様を調子に乗らせないでください」
が、相変わらずヨハナはエイジャックスに手厳しい。けど、その瞳にはしっかり愛情が込もっていて、見ているこちらまで嬉しくなる。
「――やっぱりまだここにいた」
と、背後から声がかけられた。その瞬間、わたしの心臓がキュンと跳ね、体がものすごく熱くなる。
「エレン様!」
やっぱりわたしの推しが最高! 今日もとんでもなく尊い!
声を聞いただけでそんなふうに思うのだから、自分でも本当におめでたい人間だと思う。
「今日は魔術師団を見に来てくれるんじゃなかったの?」
「それが、途中でダイアナが暴走しちゃって」
「まあ、そうだと思っていたけど」
エレン様は苦笑しながらディアルゴを抱き上げた。
「お父様!」
「ディアルゴは先輩と遊んできたんだろう?」
「うん! 楽しかったよ!」
返事をしながらエレン様に甘えるディアルゴの姿に、わたしは思わず悶絶した。それにこたえるエレン様がまた最高で! どれだけ絵に描いても、文章に書き起こしても、足りないほどの尊さだ。心のなかで喜びに咽び泣いてしまう。
「お母様ったら、またやってる。どれだけお父様のこと好きなの?」
と、ライナスに連れられてダイアナがこちらにやってきた。ライナスに手を繋いでもらうというとんでもないイベントをこなしつつ、必死に平静を装っているらしい。
(なによ、ダイアナだってまったく同じ状態じゃない)
ダイアナの心の状態が筒抜けなわたしたちは、互いに目配せをしながらニヤリと笑う。
「ごめんね、ライナス。訓練の邪魔しちゃって」
「いや、大丈夫。それにしても、ヴィヴィはこんなふうに外を出歩いて平気なの?」
と、ライナスがちらりとわたしのお腹に視線をやる。
「大丈夫。今回は双子じゃないし、適度に運動もしないとね」
大きく膨らんだお腹を撫でながらそうこたえると、みんなが嬉しそうに目を細めた。
もうすぐエレン様との間に第三子が生まれる。そうなったら、わたしの周りはもっと賑やかになるだろう。
「女の子だったら、ダイアナみたいに『推し活』皇女になっちゃうのかな?」
「いいじゃない! 大好きなことがあるって素敵なことだもの」
自分を見ているようで苦笑をすることも多いけど、ダイアナの推しへの熱意はすさまじいものだし、仲間ができて素直に嬉しい。
「ダイアナ、もうすぐ公務がお休みになるから、刺繍とうちわづくりとスイーツ作り、他にも色々教えてあげるね。推しグッズを作るの、すっごく楽しいんだから!」
「え? いいの!? わたし、ライナスのぬいぐるみを……っと」
未だにライナスと手を繋いでいることを思い出し、ダイアナは恥ずかしそうに頬を染める。
(ああもう! 可愛いなぁ)
微笑むわたしを、エレン様がそっと抱き寄せる。「幸せだね」って耳元で囁かれて、わたしは大きく頷いた。
数年前とは立場も状況もみんな変わっているけど、わたしの周りには最高に推せる大好きな人々と、幸せで溢れている。
「推しと結婚してよかった」
こっそりそう伝えたら、エレン様は弾けんばかりの笑みを浮かべるのだった。




