こぼれ話その2 IFルート
大変お待たせしました、『Hereafter apollyon online』のコミカライズ第一巻が発売となりました。各書店・サイトにて購入可能です。
https://bookwalker.jp/de585b6dea-8c0c-437d-8eb2-d7725f682679/?srsltid=AfmBOooUPtSINJLDYpc0-41cAQrti8oqHROPWBT3jl5cxt6Oq-Sqcu7y
また私が執筆しましたSFコメディ小説の『サイバーパンク居酒屋『郷』』も第一巻が好評発売中です。よろしければお手に取って頂けますと幸いです。
https://www.kadokawa.co.jp/product/322410000473/
というわけで一巻発売記念の小話『エイプリルフール17日目:もし勘次が別ゲーにハマりまくって『HAO』を欠片もプレイしてなかったら』です。
2040年6月。『HAO』発売より既に3か月が経過していた。一度死亡すれば次のアップデートまでログイン不可能、リアリティ重視という名の理不尽極まりないクソゲー『HAO』の名は世界的に広まっていた。
そして同時にこの春大学生となった白犬レイナは疲弊していた。
「まだVer1.10……4度の小さな変化を終えても何も起きていないんだね」
レイナはいつもの道を歩く。人々はまるで何事もないかのように今の時代を楽しんでいる。
しかしレイナと、一部の人々だけは知っている。2050年に世界は滅亡すると。洪鱗現象と酸素の低下により、人類の大半は死滅すると。
「Hereafter社が扇動し、『HAO』という形で民間人をいくら2060年に送り込んでも変化はなし。まあ『革新派』が失敗したことからして分かり切っていた結末ではあるけどね」
現時点では各企業が『HAO』から2060年のデータを回収することしかできておらず、破滅の回避はおろか機械獣の進化スピードにすら負けている始末である。
プレイヤーたちは未だに機械獣を倒すのに苦戦し続け、多くのものがログイン不可、あるいはゲームを放棄する事態に陥っていた。
「やはり破滅は回避できないか」
そういいながらレイナは見慣れた道を歩く。向かう先は小さなマンション。彼女の数少ない友人がいるところだ。目的の部屋の前に辿り着き、ちょっと強めに扉を叩く。
「おーいロボゲーしか頭にないおバカ君、生きてるかーい」
レイナの一見ひどいその呼びかけは、しかし何一つ間違っておらずむしろ抑えているといってもよい。
「今アーマードギアプレイ中~!」
「そのために友人を外に待たせるのかい!?」
そう、未島勘次という男はあろうことか大学に入るや否や『奇妙な日程変更』の末発売された新作ロボゲー『アーマードギア』にドはまり、家から出てこなくなってしまったのだ。(無論、最低限の講義はオンラインで受講しているが)。
未島勘次との大学生活を本気で楽しみにしていたレイナにとってそれは青天の霹靂であった。
「神ゲーすぎてやめどころが分からないんだよ!」
「せめて大学行こうよ!」
「別にオンデマンドでもいいじゃん」
「それはそう……だけどさ!」
因みに『アーマードギア』の売上は凄まじく好調。圧倒的なボリュームと操作感、高いレベルの戦闘システムにパーツ。そしておまけとして付けられたチャレンジモード。……発売日変更とこのスピード感からして、恐らく『HAO』を利用し2060年から完成データを持ってきたのだろうな、とレイナには何となく想像がついていた。
自分も『アーマードギア』をすればいい……という考えもあったが、言語化し難いイライラ、あるいは対抗心のようなものに襲われプレイするのが躊躇われ。気づけばこの3か月、最低限のチャットしかしていないという、彼らの友人関係においてもっとも疎な期間となっていた。
そして苛々が頂点に達していたレイナは、ドアノブに手をかけてべきりと取っ手を鍵ごと破壊する。
「入るよー」
「壊すよーの間違いだろ!」
フルダイブ型ゲーム機の遮音機構(親の要望や安全面の懸念により一定以上の音量は聞こえるような仕様となっている)を突破する音に部屋の中の人物が慌てる音が聞こえた。顔面にデコピン(ver第二世代獣人)でも叩き込んでやろうとしていたレイナの意気は、しかし直ぐに消えてなくなる。
「……?」
レイナが部屋に入った瞬間感じたのは違和感。レイナの予想では、例えばゴミ袋の山とかそういうのが出迎えるのではないかと思っていた。
ゴミ袋の山は予想通りであった。幸いにもレトルト系ばかり食べていたらしく、匂いや虫といった懸念がないのは救いだ。
しかしレイナが気づいたのはそこではなかった。
「ゴミ袋の中に、無数のメモ……?」
A4の紙にびっしりとメモが書かれており、それらが無造作にゴミ袋の叩き込まれている。何十枚も、何百枚も。
不審に思いながら扉の扉を開けると、そこには異世界が広がっていた。壁に貼られている無数のメモ。レイナも見覚えのある、量産型Apollyonの機構図とその外観、それぞれ独自に測定したのであろうパラメーターたち。そして机の上に積まれた、100枚以上のメモ。
「レイナ、扉をどうしたんだよ! アルバイトしてないから修理費なんてないぞ、大丈夫だよな!?」
「それよりこれはなんだい?」
レイナは額に汗を書きながら周囲に貼られていたメモを見る。無数のそれらは的確で、何百何千何万と試行錯誤を続けた量産型Apollyonの兵器としての運用方法であり、その実践データであり、そして教科書であった。現時点では量産型Apollyonは荷物を運送する役割しか果たさないにもかかわらず。
「いや、『アーマードギア』の最新作にリアルモードってのが追加されててさ。なんか『どこかで手に入れたロボットのリアル訓練シミュレーター』をそのまま組み込んだらしいんだけど。でもクエストが『貨物輸送A』みたいなのばっかりで、敵から逃げるやつばっかなんだよ」
「……」
「だから逆に手持ちの装備で倒せないか無限に試行錯誤して、今『機械獣』?とかいうエネミーに勝率8割まで行ったんだよ!あともう少し詰めないと……」
白犬レイナは絶句する。自身が知っているロボット、量産型Apollyonはあくまで輸送用ロボットのはずだ。それを戦闘に応用、しかも勝率8割。
万一、万一ではあるが。その手法を万人に共有できれば。機械獣を倒せる量産型Apollyonの群れができるのであれば。回避の糸口が、できるかもしれない。
「……ねえ、これ一回発表してみない? 私も伝手で『関係者』に配ってみるからさ」
「……いいけど?」
これは後に全てのApollyon使いの祖と呼ばれる男の始まり。才能や生まれ持っての特性などではなく、経験と技で機械獣たちを蹴散らし、人類の破滅を跳ね除ける男の物語である。
※漫画版『HAO』の発売はエイプリルフールではありません。サイバーパンク居酒屋と共に是非よろしくお願い致します。




