プロローグ&1.
~プロローグ~
「……勝った…………勝ったぞー!!!」
男がそう言って持っている武器を高々に掲げ、勝利の宣告をする。
その男の言葉に、共に戦った仲間たちは歓喜の声を上げる。
そして、戦争に勝利した記念として、民族から国として掲げることになり、自分たちの国を「ラグアンチ国」と名付けて、制作した旗をその国で一番大きな塔に掲げる。
こうして、とてもとても小さな国として「ラグアンチ国」が出来た。
しかし、彼らはまだ知らない……。
この戦争の勝利がこれからの悲劇の始まりの音だという事を……。
1.
「……おーっし!釣れた―!」
ラグアンチ国のはずれにある川でアルト=ロバーズは魚釣りを楽しんでいた。
「すごーい!アルトはもう三匹目ね!」
その様子に一緒に来ているレイン=ピューシャが手を叩きながら笑顔でそう言葉を綴る。
「俺だって負けないからな!」
アルトの傍で同じように釣りをしているカルマ=ジッキーニがそう言いながら竿を必死で振るう。
アルトは今年で十二歳になった。明るく元気な少年で、この国の国主であるガン=ロバーズの息子だ。傍にいて手を叩いている少女、レインはアルトの幼馴染で同じ十二歳。そして、アルトに負けじと釣りをしているカルマは一つ下で十一歳の少年だ。
三人は幼馴染で、仲が良かった。時にはアルトの妹である、まだ三歳になったばかりのミント=ロバーズの面倒も三人で面倒を見たりして、平和でのどかな日々を過ごしていた。
「……よし、今日はこれくらいで村に戻ろうぜ」
アルトが魚の入った籠を手にそう声を出す。
「絶対次は俺の方が多く釣ってやるからな!」
カルマが空の籠を振り回しながら叫ぶようにそう声を発する。
カルマは昔から負けず嫌いなところがあった。今まででもカルマは何度かアルトに事あるごとに「挑戦だ!」と言って何かとアルトと対決したがっていた。アルトもその度にその挑戦に乗るが、結果はいつもアルトの方が一枚上手だった。でも、カルマのそんな果敢な精神がアルトは気に入っていた。
そして、アルトたちは村に戻っていくと、そのまま三人でアルトの家に向かった。
「……ただいまー!」
アルトが元気よく家の扉を開けて、大きな声を出す。
「あら、お帰りなさい。レインとカルマもいらっしゃい」
家にいたアルトの母親、シルク=ロバーズが笑顔で迎える。
「おっ!今日はどうだった?!」
アルトが帰ってきたことが分かったのか、奥の部屋から父親であるガンが顔を出す。
「今日は三匹だよ!」
アルトが籠を見せながらガンに笑顔でそう声を発する。
「おっ!凄いじゃないか!」
ガンがそう言ってアルトを高々と抱きあげる。
ガンは力が強く、「鋼の肉体を持つ男」と言われているほど、強靭な肉体を持っている。その逞しさや筋肉隆々の身体は日々の鍛錬のもので、ガンが言うには「みなを守り抜くためだ」と、いう事らしい。その為、日々の鍛錬を欠かさずに毎日を過ごしている。
アルトにとって父親のガンは憧れの存在だった。
『いつか父のように自分も立派な大人になる』
アルトの中にはそういう目標を持っていた。そして、いつか自分も民を守るための立派な国主になるのだと……。
「じゃあ、今日はこれも使って夕飯を作ってくれ!」
ガンがアルトから受け取った魚をシルクに渡す。
「はいはい。今日の夕飯はこの魚も使って作りましょう」
シルクが魚の入った籠を受け取りながら朗らかな声でそう言葉を綴り、キッチンの方に消えていく。
その時だった。
「にーたっ!にーたっ!」
アルトの妹であるミントがよちよち歩きしながらアルトの所にやって来る。
「ただいま、ミント!今日の夕飯は兄ちゃんが釣ってきた魚だぞ!」
アルトがミントを抱えながら笑顔でそう言葉を綴る。
その言葉にミントが嬉しそうに声を上げる。
「レインもカルマも夕飯食っていくだろ?」
アルトの言葉にレインとカルマが頷く。
レインとカルマはラグアンチ国が作った小さな建物で暮らしていた。先の戦争でレインとカルマの両親が亡くなり、そういった子たちでも過ごせるようにと国はそういった建物を建てて、国のみんなでその子たちを支えていた。
この国では皆が協力し合い、助け合うことを掲げて、みんなで力を合わせて、この小さな小さな国を支えていた。
国主であるガンも、そういった立場だからと言って、その立場を使って横暴な態度をとる人ではなく、国の事を思い、どうすればもっとより民が豊かに暮らせるかを考える国主で、生活もみなと変わらない生活を送っていた。
それがこのラグアンチ国の人たちの暮らしだった。
***
「……目障りだな……ラグアンチ国の奴ら……」
ある男がある一室で唸る様にそう口を開く。
「どうなさいますか?」
その傍にいる別の男がそう言葉を発する。
ここは、アンシェル国。ラグアンチ国から東に行ったところにある国だ。
そして、その国の王宮の一室でうねるように口を開いたのは軍事宰相のグルドフ=ゲルニーニだった。そして、その言葉に応じたのは大佐であるファン=クリムソン。
「……のんきにいられるのも今の内だ……」
グルドフがある国から送られてきた手紙を握りつぶしながら、黒い笑みを称える。
「準備をしろ……」
グルドフが低い声でそう声を発する。
その言葉にファンは返事をして、ある準備を行うために、その部屋を出て行った。
***
「……アルト!今日はかけっこで勝負だ!」
カルマがアルトの家にレインと共に来て、入り口の扉を開けるなり、叫ぶようにそう言葉を発する。
アルトはその勝負に乗り、三人で村の中にある広場のような場所に向かう。
「……それでは……よーい……ドン!」
レインがそう口を開くと、アルトとカルマが全力で走り出す。
「ま……負けるか~!!!」
カルマがそう叫びながら、前を走っているアルトに必死で追い付こうとする。
「二人とも頑張れー!」
レインが笑顔で二人を応援する。
アルトとカルマの距離がどんどん離れていく。アルトの背中を追うようにカルマは負けじとその背中に食らいつくように必死で走る。
「……ゴール!!!」
アルトが両手を上げながらそう声を発する。
「……ち……ちくしょ~……」
しばらくしてカルマが息を切らしながらゴールをして、悔しそうにそう言葉を綴る。
「二人ともお疲れ様!」
レインが二人にそう労いの声を掛ける。
「つ……次こそは負けないぞ~……」
カルマがそう言いながら走り疲れたのかその場に仰向けになって倒れ込む。
「いつでも受けて立つからな!」
カルマの横に腰を下ろしたアルトが笑顔でそう言葉を綴る。
その時だった。
――――ドカーーーーン……!!!




