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175.正論

「──というわけで、総括すると。メサイスとアルクラッド、あとストーヴィナ。この三人の賢者が死んだ。それから二人の魔女、クラエルとフォビイは敵の手に落ちた。そしてアビスはフォビイの内側にて封印中……まあ、聞いての通り非常事態だね。本性を露わにしたオレクテムを止めるためにもここにいるメンバーで協力してやっていきたいと思っているんだけど、どうかな?」


 説明の終わりに訊ねてみたが、返ってきたのは無言。円卓に着く魔女たちからは困惑というものがヒシヒシと伝わってくる──無理もない。俺とアーデラが転移で戻ってきた直後には、そこにクラエルの姿がないことから交渉が上手くいかなかったのだろうと納得し、高確率でそうなるだろうと予想でもしていたのか大して驚きもしなかった彼女たちだが。さすがに西方の地で何が起きたのか、その一から十までを詳らかにしたところ平静だった顔色もだいぶ変わった。


 アビスとの決着、クラエルとの問答、オレクテムの暴走と逃走。主要の出来事と言えばこの三幕だが注目すべきはやはり最後。誰も想像だにしていなかった中央賢者の秘めたる野望とその発露は、彼の手が起こした被害の甚大さも含めて彼女たちを動揺させるに充分なものだった、ということだ。


 ちなみに円卓の間に残っていたのは四名。ルナリス、ティアラ、ディータの三魔女とミモザだけだ。俺たちの帰還にどれだけの時間がかかるか不明ということでルナリスはスクリットをメギスティンに帰して仕事をさせているようだし、ティアラもそれに倣ってルーインを北方へ戻したらしい。


 聞いたところ、どうも北方圏の国々のバランス調整には彼が寄与するところが大きいみたいだ。本来は北方が支配地のルナリスは中央圏にも(むしろそちらにこそ一層熱心なほどに)手を出して忙しく、ご存知の通りティアラはバランス感覚なんて皆無の生粋なる自由人。必然としてルーインが頑張るしかない状況になってしまっているんだろう。つまりそうそう油を売る暇もない、と。考えてみると彼もかなりの苦労人だな……そも、魔女という癖の強すぎる存在に従う以上賢者というのは誰しもがそうなのかもしれないが。


 なのでこの場に残っている賢者はディータに仕えるミモザのみ。南方はまあ、恐怖政治によって安定(?)しているので、魔女も賢者も不在だからとてすぐに何かしら問題が起こるということもない。……というかディータは黒樹に操作されてひと暴れしたのちに取り押さえられ、ルナリスやティアラ以上に調子が芳しくないのだったな。ミモザだけが残っているのはその看護のため、というのもあるかもしれない。


 で。決して短くない沈黙を経て、最初に口を開いたのはこれでもかという渋面を作っているティアラだった。


「まったくもう。のんびり待ってる間にとんでもないことになってんじゃないの。そもそもなんなの? 還幸って。理想の世界ってどんなもので、そんなのどうやって実現するっていうのよ。それ次第で私たちの対応も変わるんだけど」


「ん……それはじゃあ、オレクテムの目指す世界像によっては彼に迎合することも選択の内ということかな。その場合クラエルもフォビイも取り戻せないだろうけど」


 それでもいいのか、という問いにティアラは鼻を鳴らした。


いいに決まってる・・・・・・・・。『魔女会談マレフィキウム』はクラエルが発足させたものだけど、だからってクラエルの私物ものじゃないし、私だってクラエルの部下になったわけじゃあない。頭を挿げ替えて組織が機能するのならそれで全然構わない。クラエルもフォビイも操られて道具にされたまま? そんなの油断したのが悪いわ、同情の余地なし。逆の立場なら私だって同情なんてされたくないもの」


「オレクテムを責任者として新体制の会談をスタートさせるのもやぶさかではないと。合理的なんだね」


「そうでしょう? それで本当に機能するのなら、ね。だって会談は統治機構よ、その運営に個人の私情なんて挟むべきではないわ」


 すこぶる正論である。彼女はクラエルとフォビイの奪還が必ずしも急務ではないと冷静、あるいは冷徹に判じながらも、オレクテムがその野望のために会談の在り方を歪めるようであれば彼のこともまた歓迎しないし、できないと言っている。あくまで会談をひとつのシステムとして見た場合、ティアラの意見は至極真っ当であろう。


「費用対効果も勘定しなくては。二人もしくは三人の魔女を取り戻すためにここに残る魔女が危険に晒されるのは正しいことかどうか。耳にしたオレクテムの力を思えば私たちの中からも欠員が出る可能性を高く考慮に入れなければなりませんでしょう」


「奪還のためだけ・・に敵対するのはリスクが高い、か。それはその通りだね。実際に彼の鮮やかな手口を目撃した身としては同意できるよ」


 ルナリスもオレクテムという藪を積極的につつきたくはないないわけだ──と理解を示しかけたところで、ふるふると彼女が首を横に振った。


「危険であることを承知の上で、それでもオレクテムを早急に叩くべきだと判断します。あなたも仰ったように彼の描く未来に会談はそもそも必要とされていない節がある──長きに渡って私たちを騙した狡猾さ、いざとなれば仲間の命や自我を奪うことも厭わない残忍さ。そんな相手と仮に共同、あるいは無干渉で関係を築けたとしても、先を思えばその程度なんの担保にもなり得ませんでしょう。クラエルと同じ轍を踏むことだけはなんとしても避けねばならない。そのためには彼に何をさせることもなく『叩き潰す』。それ以外に正解と呼べる道はないと思われます」


 言い方は過激だが、こちらはこちらで正論か。オレクテムのやったこと、それを元に彼の印象を一言でまとめるなら『信用してはいけないやべー奴』。これに尽きる。そんな奴を再び会談に招き入れるのはもちろん、放置するのもあり得ない。総力をあげてぶっ潰そうぜという主張だ。


 確かに魔女すら下せるオレクテムの危険度を思えば──認知を歪めるあの術がどれだけ持続するか、また併用できるかは判然としないものの──全面対決に持ち込んででもここで始末しておくべきだというのは、これもまた真っ当な意見だろう。どちらかが滅ぶまでのデスマッチならば自然と総力戦になり費用対効果などに悩む必要もなくなるしな……これは少々逆説的な屁理屈ではあるが。


「それで、ディータは? 君の意見も聞かせてくれ」


「…………」


 共存可能であればオレクテムですら受け入れ会談を補強すべきだとするティアラ。オレクテムの目指す未来がなんであれ会談の今後のために排除しておくべきだとするルナリス。一見して主張者と内容が逆に思えるふたつの案。正面衝突、とまではいかないがスタンスを違えている両者に挟まれてディータは何を思うのか……それを知りたくて無言のままだった彼女に発言を促してみれば。


「私はあなたに従う。イデアの決定が私の決定……それでいい」


「────、」


 円卓の間にまたしても沈黙が流れた。それは先ほどの困惑によるものとよく似ているようで少しばかり異なる、「いったい何を言っているんだこいつは」という大方の心情が一致した空白の間であった。それをいの一番に破ったのはやはりティアラ。


「ちょっとちょっとディータ。敗者は勝者に従うっていう魔女同士の暗黙のルールをまだ引き摺ってるわけ? そんなのはさっきの臨時会でイデアを庇った時点で帳消しよ、帳消し。そうじゃなくたって今は会談の根本的危機、個人だろうと個人間だろうと感情での判断は厳禁でしょうが。ちゃんと考えてから物を言いなさいよ」


「普段は感情のみで判断してろくに何も考えていないくせにどの口がそれを言うのか、というのが私の本音ですが──」


「喧嘩売ってんなら買うわよ」


「──しかし言は正しい。ディータ、あなたが自ら認めた人物に対して非常に従順であることは知っています。イデアとの戦いでの敗北を、私たち以上に重く深くに捉えていることも……ですがそれとこの場での主張を混同させるのは如何なものか。イデアだってあなた自身の言葉を聞きたがっているのですよ?」


 魔女二人からの猛烈な反発。ディータの背後でミモザは諦めたようにどこか上のほうをぼんやりと見ているし、俺の背後ではアーデラがくすくすと笑い声を立てている。あまりよらしくない雰囲気になってきたぞ。しかし、この空気感にもなんら怯むことなく俺からルナリス、そしてティアラへと視線をゆっくりと移していったディータはその朴訥とした口調のままで言った。


「私は私の言葉を口にしている。『イデアの決定に従う』、これが私の決定であり──引いては会談の決定でもあるべきだと考えている」


「はー? どういう理屈よそれ」


「イデアはもう席だけを置いた不参加者じゃない。先の臨時会で正式に円卓へ登録され、今後の会談への参加も表明したれっきとした七魔女の一人。私たちと立場を同じくする者。そして責任者のクラエルが欠けた今、この場にいる三魔女を揃って下したのはイデアで、またオレクテムに唯一単身で対抗できるのも彼女だけだと思われる。……何か間違っている?」


「何も間違っちゃいないわ。でもだからってイデアを会談の責任者に? 馬鹿ね、強さだけで立場が決まるほど野蛮じゃないわよ私たちは。それじゃ野生動物の群れと同じになるわ。本っ当に、めっちゃくちゃに癪なことではあるけれど。この中でクラエルの代わりをするならまだしもルナリスが適任でしょ? オレクテムやメサイスと同じくらい、こいつだってクラエルの補佐をしていたわけだし」


「なのにオレクテムの本性を見抜けなかった」


「う、……それはまあ、そうなんだけど」


 反論、というよりもぽつりと呟かれただけの独り言のようなそれに思わずといった様子でティアラの気勢が弱まる。そこにディータはこう続けた。


「これがそもそもの理由でもある。何故なら私たち三人は論ずる余地なく、会談を預かるに相応しくないのだから──」



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