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149.不死身同士

 不死身同士の不毛な戦い。とはいえ。勝つ手段がないではないのだ。


 同じエイドス魔法の使い手でも差を出すためであろう、とことんまで殺傷力に拘ったアビスの技のように。俺にもこういった日が来たときのための備えくらいある。……だがそれを実行するにあたっての条件がネックだ。数秒ほど──いやここは意気込みも兼ねて一秒フラット。きっかりそれだけで足りさせてみせると強気に言っておくが、だとしても一秒だ。それだけの長時間・・・何事もなくアビスに触れることができたなら、おそらくそこで俺の勝ちは決まる。


 撃った自分でも目では追い切れない勢いで発射されたメナティス改。を、隙のあった状態からでも防いでみせたアビス。そんな感度も反射もバリバリな相手に貧弱な俺が一秒もじっと触れたままでいろというのはなかなかに難題である。当然のこと、目論見を知っていようがいなかろうがアビスだって無暗に体を触らせたままこちらの動向を見守る真似なんてするはずがない。


「結局は奪い合いかつ削り合いか……仕方ない。千日勝負の気構えで臨むとしよう」


 やるべきことは、つまるところ普通の魔法戦と変わらない。敵のリソースを削るのだ。処理能力を僅かでも超えた一瞬を狙って本命を差し込む、というまさしくスタンダードな一手こそが求められている。言うまでもなく俺もアビスも普通ではないので対応が追い付かなくてパンクする、なんてことはそうそうないのだが。しかし命にも魔力にも底がないと言っても決して完全無欠というわけではないからね。


 考えて動く存在である以上。思考あるいは肉体の速度が目の前の事象から遅れることは、その原因を定めなければ理論上いつだって起こり得るものである。


「けっ、オレぁ望むところだぜイデア。だがてめーがそんなに根気強いタチか!?」


「辛抱なら知っているさ。結果が出るまでの時間を無駄とは捉えていないからね。もちろん、省略できる工程なら是非に省略するけれど」


 でもこれはそうもいかないもんな、と。真っ黒な津波のようなアビスの魔力の横溢に、こちらも最低限に展開した黒い魔力で足場を作って乗りこなす。気分は凄腕サーファーだ。せっかく真下に本物の海があるのだから(凪いでいるので波はないが)どうせボードに乗るならそっちで楽しみたいところだが……なんて思いながらジャンプ。思った通りのタイミングで魔力波の内から飛び出してきたアビスへ加速させたボードをぶつけつつ、世界に極小の穴を空ける。できれば使いたくなかったがしょうがない、これは緊急避難というやつだ。


「魔力レーザー」


「!」


 魔力箱を原料にしたサーフボードを例のチェーンソーなしでも砕いてしまったアビスだが、その破片が纏わりついてくるのは予想外だったらしい。壊されること前提でそういう風に作ったのだ──反転鎧リバーシブルとやっていることが一緒なので対策されているかも、と思ったのだが杞憂だったか。けれど魔力箱ひとつが元手ではまったく足りないな。精々がレーザーで撃ち抜くのを補助する程度にアビスの動きを鈍らせるのが限界……って、それができているなら充分過ぎる戦果だな。


「ガッ……!」


 レーザーとメナティス改の弾速はほぼ同じ。超高速ながらもアビスになら対応できて当然のものでしかないが、俺の魔力に手足を取られていたせいで彼女は防御も回避も間に合わせることができなかった。額から入って後頭部から抜け出たレーザーはその軌道に沿ってアビスの肉体を波へと押し戻す。これは魔力同士が衝突したからこそだな。そうでなければ綺麗に頭部がくり貫かれるだけで、ああも吹っ飛んだりはしない。昨晩ルナリスがそうしたように咄嗟に守りを固めたというよりは、元からある程度の被弾を覚悟で突っ込んできていたのだと思われる。しかし「ある程度」では魔力レーザーを凌ぐのは難しかろう。その証明がよりにもよって頭をやられた今のアビスだ。


 俺たちは人そっくりの身体構造をしているものの人ではない。脊椎だろうと心臓だろうと、その他生命維持に主要の働きを持つどの部位を失おうともまったくの平気である──のだが。やはり頭、正確には脳。そこを潰されると意識に空白が生じてしまう。意識などなくとも勝手に修復されるので問題ないと言えばないのだけれど、ほんの刹那とはいえ無防備になる瞬間があるというのは喜ばしいことではないだろう。


 必要もないのに臓器があったり眠る機能があったりと。変なところで人間らしさが垣間見える俺たちがこうなっている理由は考えるまでもなく、製作者たるオルトーにある。あの男にとっても思考力はとても大切なものであり、その根幹が頭部であるという認識もまた揺るぎないものだったのだろう。だから脳の損傷という俺たちにとっては記号的でしかない負傷でもきちんと思考が止まるようになっている。


 アビスはまさにその状況下にある。狙った通りの位置へ寸分違わずレーザーが当たってくれた幸運に感謝しながら、魔力波の下底を突き破っているアビスの傍へと俺は転移した。ウン百年ぶりとはいえ三弟子以上に馴染みある彼女の魔力のこと、トーテムがなくとも跳ぶのは容易い。そうして移動時間ゼロで距離を詰め、即座に追撃を行なって攻め立てようとしたところで。


 ぎょろりとこちらを向いたアビスの瞳と目が合った。こいつ、もう意識を取り戻し──。


「もう一度言ってやる──甘ぇんだよッ!」


「っ……!」


 うぐう。見事にカウンターを食らってしまった。両腕を失い、すぐに再生させながら距離を取り直し舌を巻く。傷付いても自動的に回復する体ではあるが、自分の意思でそれを早めることはこのように可能だ。ただし意識のなくなる脳の欠損についてはその限りではないから困る、という話なのだが。しかし今のアビスの立ち直りは無意識下で行われる修繕の速度を遥かに超えている。つまりあいつは被弾の覚悟だけでなく再生についても予定していた……あたかも先行入力の如く、脳なしでも再生が加速されるよう設定していたのだと推測される。まるで全身の神経節で動く昆虫のような技だ。


 同じく不死身なのだから俺にも同様のことができるか、というと、これについてはちょっと怪しいところだ。何せ四姉妹の他三人と違って俺は『人』という自意識が強い。水中にいるとやたら苦しく感じるのもそうだが、脳をやられてブラックアウトする時間も俺のほうが若干長い──これはおそらく人間だった前世の記憶に引っ張られているが故の症状(?)だろう。と言っても、アビスとて思考の余地なくして再生を早める行為が簡単なはずはない。すると、これも俺との戦闘を見越して前々から用意していたひとつの策に違いなく……むう、やってくれるじゃないか。妹が優秀で嬉しい限りだよ。


「何を笑ってやがる、イデア……オレに押し負けるのがそんなに面白ぇか!?」


 際限なく降り落ちてくる魔力から這う這うの体で逃げながらも、俺は笑っていたらしい。アビスに指摘されて初めて気付いたのだが、別に驚きはない。なんのかのと言ってもこの喧嘩が楽しくないわけではないのだから。妹と傷つけ合うのは姉たる者の特権。久方ぶりにアビスの力とその成長を味わえるのは純粋に貴重な時間でもある……そしてなんと言っても数少ない同胞との戯れ・・なのだから、楽しまなくては損というものだ。


「ところでアビス。お前ほど戦闘を重視してこなかったものだから、披露できる技はあまり多くない俺だ」


「だからまともに会話をしろってんだよクソ姉が……で? それがなんだってんだ?」


「だけど戦闘それ以外で培ってきたものなら幾らかある。こいつもそのひとつだな」


 ポケットエイドス。収納空間と呼んでいるそこから取り出した種子に魔力を流し込み、手の内で成長させる。メキメキと枝葉を生やし始めたそれを見てアビスは呵々と笑った。


「お得意の黒樹! 普段からお大事に持ち歩いてやがんのか──だがんなもんがどうした? いくらエイドスの魔力で育った特別製の樹木だろうと所詮木っ端は木っ端だ、それでどうやって抗おうってんだ」


「見せてやろうか」


「ケッ……おうとも。見せてみろや!」


黒樹魔化・・・・──」


 押し寄せてきたアビスの魔力。に、魔化を施した黒樹を突き立てる。すると黒い樹木は魔力を養分として吸って瞬く間に育ち、増殖し、そこに規模は小さくも立派な森を作った。


「何ッ……?!」


「魔力樹海。俺とお前の合作だけどね」


 アビスは魔力の放流をやめようとはせず、黒樹もまたそれを吸い上げるのを躊躇わず。俺たちは二人揃って海の上の森へと飲み込まれた。



◇◇◇



 遥かなる大海原を舞台に繰り広げられる二人の魔女の激戦。その模様を西方の地果ての海岸から眺めるアーデラは、ふと視線を外して自身の横へと目をやった。間を開けること約二十メートル。共連れとしては近いとも遠いとも言えない距離感でそこに立っている一人の男──彼は名をストーヴィナといい、『深淵の魔女』アビスの賢者を務める人物であった。これまで互いを見るともなく、言葉も交わさずにいた二人だったが。アーデラが契機を設けたことで、ストーヴィナもまたゆっくりと彼女のほうを向いた。


「どちらも凄まじいものですね──小生らの主人はまさしく支配者であられる」


「ええまったく。あの絵空事のような戦いには及ばずとも、私たちもそれに恥じない程度は心掛けねばならないな。……準備の程は?」


「小生ならばいつでも」


「私もだ。ではそろそろ始めるとしようか、ストーヴィナ殿」


「承りました、アーデラ殿」


 アーデラはローブを脱ぎ、ストーヴィナは腰に提げていた剣を抜き放つ。──会談より離反した二人の賢者は、天災の如く荒れ狂う魔女たちの傍らでその雌雄を決さんとしていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] あれが戯れとか、死ぬことはないにしても恐ろしすぎるやろ、超次元バトルしながら楽しむとかやっぱ、イデアもやべぇやつだ
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