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138.五大竜王

 うん。段々と鮮明になってきたぞ……まず手にかけたのは黒い鱗のニーズヘルグ。


 彼とは当初も当初、知り合ったばかりのほんの短い期間だけは仲良くやれていたのだが。しかしあの黒い竜はなんとも横柄かつ欲深い性格をしていて、次第にこちらへ服従を求めてくるようになった。俺を所有物にしたかったのだろうな。気に入ってくれていた故だとは思うが、もちろん隷属はご免である。俺を支配するのは俺だけでいい──当時から今にも続くその価値観、というか当たり前の権利として彼を強く拒否し、必然的に俺と黒い竜は殺し合うこととなった。


 理想領域エイドスでの出来事を除けばそれが初めての実戦であり、まだ魔力触腕や魔力レーザーといった対竜用技の開発前でもあったことだから、相当に苦戦を強いられた覚えがある。振り返ってみると鱗の硬さは竜王の中でもニーズヘルグが最も優れていた。いの一番に戦う相手が彼でなければもう少し楽だったかもしれないが、とまれそれでも勝つには勝った。そうでなければ現代にも竜の時代が続いていることになるからね。泥臭くもどうにか竜王を下し、そこからは彼の配下である竜の群れと連日連夜の抗争に突入して……で、この時点でシースグラムからの接触があったのだったな。


 竜王の一角を落とした存在の確認、という意図も大きかったのだろう。どうやら俺が実存世界イグジスへやってきた時点からそれを感知していたらしい彼女は驚愕と納得を織り交ぜた態度でいた。そうしてニーズヘルグと同じ種族とは思えないほど穏便な語り口で和平交渉を望んできたが、こちらと要求が嚙み合わずあえなく決裂。結果として俺はニーズヘルグの従竜を皆殺しにするまで──確か今で言う南方圏辺りでのことだったと思う──休む間もなく動き続け、ようやく掃除も済んだかというところで「目に余る」と新たな竜王ヨルムングドが制裁を加えんと俺の前に現れた。


 目に余るはこちらの台詞だ、と多少なりとも相手の言い草に苛立った俺は躊躇わずに売られた喧嘩を買い、新たに抗争が勃発。今度はヨルムングドと彼率いるその配下との殺し合いが始まった。木っ端の竜たちはともかく、竜王であるヨルムングドはやはり強かった。ニーズヘルグよりもパワーがある上に厭らしい技を使ってくるので、彼にもまた大変苦戦した。だがその頃には竜との戦い方もある程度掴めてきていた俺だ。苦労するにはしたし、一度は食べられまでしたが、なんとか勝利も一緒にこの手で掴むことができた。


 最初に親玉を討ち取った黒竜勢よりも──ニーズヘルグと彼の従竜をひとまとめにこう表現したい──最初から総勢で俺を追い詰めにかかってきた紫竜勢との争いはより長く激しく続き、俺にも疲弊があった。体力に限りがないと言っても精神的には別だからね。本来はあり得ないはずなのに、寝て起きた後には必ず血圧が低下しているような状態になるのも普通人たる俺のメンタリティが普通ではないこの肉体へと影響を及ぼしているからなのだろう。気疲れを起こしてしまえば動きも思考力も鈍るし休憩が欲しくもなる……そこに付け入るように再びシースグラムがコンタクトを取ってきた。


 そこでのやり取りは前回の焼き直しに近かったが、しかし互いに譲歩もあった。シースグラムは俺を脅威そのものとして見ていたし、俺は俺で大陸のほぼ半分を駆けずり回って血みどろになってまで戦う意味があるのかと疑問に思い出していたところなので、もう少しだけ聞く耳を持とうという折衝の気持ちがあった。だがシースグラムはあくまで俺が別世界エイドスへ帰還することを望み、俺は俺でこの大陸から竜が一頭もいなくなることを望んだ。言うまでもなくシースグラムの要求は俺にとって聞き入れられるものではなく、俺の要求も彼女にとっては受け入れ難いものであった。大陸から出ていけ、という奇しくも求める願いが一致したが故に落としどころのなくなった交渉は再び決裂。


 自主退場が望めないのなら、そして共存も不可能であるのなら。最後まで殺し合ってどちらが大陸に残るに相応しいか白黒つけるしかない──皮肉なことに穏便な話し合いを経たことで俺と竜とは決定的な対立を果たし、全面対決へと舵を切ることと相成ったのだった。


 それを受けて挑んできたのがファフニウス。パワーと生来の固有能力で押し通す戦い方をしていた前の二頭と違ってこの竜王は魔力操作に長けており、竜としての性能スペック以上にその技量部分が厄介な敵であった。編み出して以降は便利に使っていた魔力触腕があまり役に立たずこれまた対処に困らされたものだ──だがそのおかげで鱗と魔法的防御という二重の壁を突破する手段として魔力レーザーを発想し、それで全身を切り刻んだ後にトドメを刺すことができた。律義に王の戦いを見守っていたファフニウスの従竜らはその死を切っ掛けに一斉に襲い掛かってきて、もはや恒例となった群れとの抗争に突入したがもちろんそれにも勝利を収め──そして時間の檻に囚われた。


 俺を閉じ込めた下手人の竜王リンドヴラウはとかく不気味な奴だった。精霊を好んで食す彼は、しかし時間精霊だけは手元に残し侍らせ自分の身を守らせていた。勝つのに苦労したという意味では彼との一戦が一番だろう。何せ単純に攻撃するだけではいくらでも時間を巻き戻せるリンドヴラウをいつまで経っても下せやしない。俺と同じように再生できると言っても痛みはしっかり感じていたようだが、至って普通性癖ノーマルな俺と違って彼は苦痛を与えられることを喜んでいる──否、悦んでいる節があり、ただでさえ長期に渡っての連戦で疲労も溜まっているコンディションで相手取るにはなかなかにキツい強敵であった。


 まあ最終的には精霊を一体一体潰していって、丸裸になったところを切り崩していったわけだが。時間精霊なくとも竜王は竜王、素のままでも凶悪な強さがあったものの軍配は俺に上がり、かくして五大竜王の内の四大を屠ったことになり。


 これで残るはシースグラムのみ。彼女は基本的に誰も彼も傲慢な竜の中で唯一話の通じる人物(竜物?)で、他の竜王を見る限りバランサーかつキーマン(キードラゴン?)として竜の時代の要を担っていることは重々に窺い知れもしたので。そんな相手を屠るのには少々気も引けたが、事ここに至ってはお互い引けやしない。最後の最後まで手を出してこなかったシースグラムも初めて君臨者の顔を見せて俺を排しにかかり、どうしても雌雄を決さんとする彼女に応えて俺も全力で迎え撃った。


 シースグラムは強かった。硬さではニーズヘルグに劣り、力ではヨルムングドに劣り、魔力ではファフニウスに劣り、強かさではリンドヴラウに劣り──けれどもニーズヘルグに次ぐ硬さと、ヨルムングドに次ぐ力と、ファフニウスに次ぐ魔力と、リンドヴラウに次ぐ強かさが彼女にはあった。


 彼女こそが完璧な『竜』だった。その理知と理性も含めての飾りない評価である。


 決着がついて、死にゆく彼女は自身と竜という種族全体の不出来を嘆き。同じ不幸が次代の支配者に起こらぬことを強く願った。俺に協力を取り付けてきたのも、もはや自分とはなんの関係もなかろうに未来の大陸の在り方を心から案じていたからこそなのだろう。俺は迷わずその言葉に応を返した。


 何せ年単位で竜と戦い続けながらもその合間に、精霊や人間を──ほとんどが成り行き上のこととはいえ──助けてきてもいたのだ。生き残りの竜はシースグラムの言い付けを守って大陸から出ていくことになったので、もはやこの地の繁栄はたった二種族にかかっている。精霊が出自からしてそういったものと無縁に等しい存在である以上、大陸の今後は人類に託されたに等しかった。


 余程のことがない限り俺が人を滅ぼすこともないだろう。そう思ったから頷いたのだし、そこまで深く考えてもいなかったものだからそんな会話をしたことさえ忘れていたくらいなのだが──。



◇◇◇



「──まさかシースグラムとの約束が『魔女会談マレフィキウム』に連なることだなんて、どうして気付けるって言うんだ? 言い訳に聞こえてしまうかもしれないが、さすがにこれは想定外だよ」


 会談の一員でありながらちっともそれらしい行動を取ってこなかった、どころか現在進行形で輪を乱している俺に厳しい目を向けてくるクラエルにそう言ってみれば。


「そもそもシースグラムに誰何されて『魔女だ』と名乗ったのはあなたよ、イデア。だからこその『魔女会談マレフィキウム』で、だからこそ私はあなたを『始原の魔女』と名付けた。名無しのあなたを誰の目にもわかりやすく、誰の耳にも聞こえよく表現するためにね」


「……なるほど」


 てっきり『晴嵐』や『黒鉄』みたいな魔女が持つ二つ名は、その特異な力を目の当たりにした人々の間で自然発生的に広まって定着したものだと思っていたのだが。魔法の祖だと勘違われている俺が『始原』と呼ばれているのもそのせいだと……しかし考えてみれば竜魔大戦時のエピソードを発信していた大元がクラエルであったからには、名付け親もまた彼女であるというのは半ば必然か。それも魔法を人類に教えたから『始原』なのではなく、魔女の始まりだから『始原』だったとは。これには見事に騙されたな。いやクラエルにそんな意図などちっともなかっただろうとは思うけれども。


 なんにせよこれで知らない内に会談へ組み込まれていた訳も明らかとなった。……だがそれは理由が知れたというだけで、まだまだ疑問は尽きていない。


「それじゃあクラエル。記憶というのが誰のものであるかはよくわかったから──次は、どうして君がシースグラムの記憶を受け継いでいるのか。そこのところを教えてほしいな」



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― 新着の感想 ―
精霊や人間を──ほとんどが成り行き上のこととはいえ──助けてきてもいたのだ。 ↑イデアは成り行きが大切なんですよね。 弟子との深い関係も成り行き、新王国やそこで出会った人、隣国との関わりも成り行き。 …
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