表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/277

125.至宝の魔女

 さて。特異な物質化を行える『黒鉄』や、他者の魔力と魔法式を乱せる『月光』のように、『至宝』についてもその特性はおおよそ見えてきた。彼女の魔力は粒子状をしていて、この小さな粒のひとつひとつが圧縮された魔力の固体となっている。つまり、俺が高次魔力を固めて作る魔力触腕と極めて似た技術が(おそらく)工夫ではなく彼女生来の能力として機能しているということだ。


 圧縮されてなお見た目にも膨大なティアラの魔力は、取りも直さずその出力の凄まじさ。量にも速度にも威力にも優れていることで圧倒的な火力を叩き出せる点にこそ『至宝の魔女』最大の特性があると言っていい。誘いに乗って惜しみなく披露したエイドス魔法の火力に、彼女はなんと通常魔法で充分以上に対抗できている。単純な力勝負が成立している──これだけでもう手放しに素晴らしい。当然ながらこんなことを可能とする人物にはこれまでお目にかかったことがないので、ちょっと信じられない思いだ。大してメンバーがいるわけでもない会談の、されども確かな層の厚さには驚かされてばかりである。


 ただし、出力の高さ故か細やかな操作に関しては今一つのようかな? 粒子魔力を大量かつ高速に展開し敵にぶつける。ティアラが実行しているのは単にこれだけで、その工程において目立った上手さというものは見られない。そもそもそこに挟み込めるだけの技の引き出しがないのか、ただ本人が面倒臭がっているだけかは知れないが、どちらにせよ好む戦法は非常にシンプルなようだから、この戦いにおいても直球の火力勝負しかしてこないつもりだろう。


 と思っていたのだが──。


「陽も昇り始めたところだっていうのに。こんな星空を作られては太陽も居場所がなくて困ってしまうだろうな」


「綺麗でしょう? 私たちが踊るに相応しい舞台ステージは。元から太陽の居場所なんてここにはないのよ」


 ああ、確かにね。日差しすら邪魔になるくらい、満天の如くに荒漠の地を覆う人よりも大きなサイズの魔力の塊……否、結晶か──空間を席巻しキラキラギラギラと輝くそれらはただ眺めるぶんにはとても美しく、目にも華やかな景色であった。人であれなんであれ見た目にそう拘らない俺にそう思わせるくらいなのだから、ティアラが自慢げにする理由もわかる。


「『至宝』を映えさせる宝玉たち! 粒子を固めて作り上げたこれらは私の火力と美しさをもう一段階引き上げてくれるわ」


「なるほど。境界も曖昧に広げられた領域……縮小の反対、さしずめ拡散領域といったところかな? 広範囲を攻め立てる君のスタイルに相応しいものだね」


「──あは。ルナリスはこれを『領域とは呼べない拙いもの』だとか言ってにべもなかったけれど。そして実際、私はあいつみたいに領域で異空間を作り上げるような真似なんてできないけれど。それでもあんたは認めてくれるんだ?」


「領域の定義の差だろうね。ルナリスはより狭義に厳密に定めているんだろうけれど、俺はそうじゃないからな」


 領域とはそも、魔力によって自身優位の空間を生み出す魔法の総称だ。だから時折やっているように、高密度の魔力を周囲に広げる俺のやり方も一種の領域。簡易領域と称しているわけだが……俺が勝手にそうと呼んでいるものを魔女たちも当然のように使っていることは意外なようなそうでもないような。しかし当然ながら一口に領域と言ってもその能力も作製法も、そして形式にも。作者各々の特性に見合った差異がある。


 そこにあえて順位付けをするなら──うん。完成度の高さで言えばディータよりもティアラよりもやはり、ルナリスが勝っていたかな。月光領域は外界と切り離された本物の異空間だったものだから……あれを使える技量を持つ身からすればティアラのこれは、そしてきっと俺の簡易領域も『領域未満の拙い代物』としか見えないだろう。そうと承知した上で、けれど俺個人としての見解は異なるという話。


「とことん彼女ルナリスとは意見が合わないようだ。君だけに作り出せる君だけの支配域。それをどうして認めないものか理解に苦しむくらいだよ」


「嬉しいこと言ってくれるじゃない。まあ、あいつの領域とぶつかれば私の領域は霧散しちゃってどうにもならないし。その点については負けを受け入れてもいるわ──そう、だって私は大人だから。ちょっと相性がいいからっていつでも上から目線なお子様ルナリスとは違うのよ」


「そうかい」


 出会いの時点から薄々感じていたけれど。どうも彼女、ルナリスに対してかなりのコンプレックスがあるようだな。


 戦ってみてわかったことだが、火力頼りの彼女はまずその火力を殺してくるルナリスとは最悪の相性をしている。粒子も、この宝玉とやらも物質化させたものではなくあくまで純粋な魔力の結集体であるからして、月光の魔力に晒されれば──ましてや月光で満たされた領域内へと引きずり込まれればもはやそこに勝機を見出すことは不可能だろう。そりゃあ連戦連敗するわけだし、嫌っているような口振りながらに執着が垣間見えるのも、まあ、そういうことなのだろう。


 敗北を認めたくないプライドと自分が勝てない相手へのリスペクトがぐちゃぐちゃになった、とてもビターな風味がティアラからは漂っている。


「なんにせよだ。ルナリス相手には活かせない君の領域の真価……俺には見せてくれるんだろう?」


「ええ、もちろん。奴なんぞに認められなかろうと、この『至宝』の星空には些かの瑕疵もないことを証明してあげる!」


「楽しみだ」


 と、頷いた途端にそれは来た。ティアラから放出される粒子。それにプラス、周辺に浮かぶ宝玉からも粒子が漏れ出てきている。先以上に早く大量に粒子に取り囲まれてしまった──乗っている魔力の鳥をその場で回し、大急ぎで魔力蝶をこちらも散布。迫ってくる粒子へと突撃させたが……参ったな。


 先の一撃はティアラの大雑把な操作に付け入らせてもらって粒子の流れをこちらである程度コントロールした。魔力蝶を媒介に介入を行って、次の瞬間には爆発。粒子そのものをできる限り散らしつつ任意に誘爆させることでなんとか被害から免れるだけのスペースを作ったわけだが、かき消される経験はあっても主導権に横槍を入れられた経験はないのだろう。ティアラはそれに大いに戸惑っている様子だったものだから、ひょっとすればこの手法だけで身の安全は保証されるかもなんて考えが頭をよぎりもした……けれど、それはさすがに魔女を前にして呑気が過ぎたようだ。


 コントロールができない。さっきまでは触れられた粒子操作の主導権にまったく手が届かなくなっている……これは。至宝の領域が引き上げているのは火力だけではないし、一段階どころでもないな。その魔法的強固さも先とは比べ物にならないほどに進化している──!


「ちっ……」


 どうにも捌けない。魔力蝶一匹目の爆発によってそれを悟った。なので魔力鳥の背中をぱっくりと開けてそこに潜り込んだ。その直後に衝撃がきた。くう、頭も体もガンガン揺れる。蝶と鳥で減退させてなおこの威力……これが絶え間なく押し寄せてくると思うとさすがに堪ったものではない。


「魔力触腕」


 ぬるりと、簡易魔力を薄く纏って防護服代わりに爆発の中から飛び出した俺は、触腕を形成して空間を埋める宝玉の一個へと伸ばした。近場にあるのを壊してしまえば多少は対応も楽になるだろうと見越してのことだ。壊せるかどうかよりも──硬さはそれほどでもなさそうだと観察してわかっているので──それ以上に接触と同時に宝玉が破裂しないか、そしてその範囲がどれほどになるかが未知数で少し身構えながら実行したのだが。しかし俺の懸念はてんで的外れであった。


「壊せはする、が──なるほど。元々粒子の塊なんだものな」


 触腕は想定よりも容易く宝玉を粉砕したももの、映像の逆再生のように元通りになっていくその様を眺めて納得する。魔力の塊である粒子を更に押し固めて出来上がった結晶に物理的な破壊は用をなさない。つくづくルナリスはティアラと好相性なのだな、と理解したところで。


「ぼーっとしてる暇はないわよイデア! 私主演の、この舞台上ではね!」


「!」


 ティアラに接近されていた。領域の能力に任せて遠距離戦に徹するであろうと予想していただけにこの行動は意外だったが、まあよかろう。宝玉に隠れながら安全圏からひたすら爆破を行うというノーリスクかつモアベターな策を打ち捨てる理由はさっぱりであるが、矢面に立ってくれるのであれば俺としてはやり易くて助かるばかりだ。


「魔力龍──」


「貧弱ッ!」


「……!?」


 正確に狙って撃ち出した龍型の魔力は、撃音と共に繰り出されたティアラの殴打一発で儚く散った。なんて腕力パワー……だけじゃないな、今の拳は光り輝いていた。つまり彼女がしたことは。


「どう!? 第三の必殺、天嵐拳テンペスト!」


「うん。いいと思うよ。粒子を纏ったままの白兵戦……少々突飛だが、それも君の強さが遺憾なく発揮されたものだ」


「ふふん! 褒められるのって気持ちいいのね!」


 いや悲しいな、その物言い。普段どれだけ褒められていないのだろうか。そして彼女、技にいちいちお洒落な名前を付けているんだな……ふむ。なんだかにわかに子供と遊んであげているような気分になってきたが、ティアラの魔法はそんな牧歌的な気持ちで受け止められるものではない。せめてもう少し気を張り詰めておかないとな。


「あっはははははは!」


「っ……、」


 粒子を乗せた連撃。打撃と爆破のブレンドが簡易領域を貫いて俺にダメージを与えてくる。大きく振り被った一打で俺を吹っ飛ばした彼女は、そこで宝玉共々に粒子を大展開。


真天撃ネオダウンバースト!」


「──、」


 溢れた粒子に一瞬で飲み込まれ、一瞬で起爆。だいぶ削ぎ落とされた簡易領域を高次魔力の継ぎ足しで保持させたのだが……どのみち『守るだけ』で防ぎ切れるものではないみたいだね、この火力お化けの超火力技は。あっという間にまた魔力が剥がされてしまった。


 このまま爆炎に揉まれるしかない、とティアラも思っていることだろうし。──そろそろ仕掛け時かな? ティアラはまだトーテムを持ったままだ。それ即ち、いつでも彼女の傍に転移できるという意味であり。


 いつでも奇襲を仕掛けられるという意味である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
でもトーテムと使うのは、戦争ではなく力比べであるならば、なんか反則な気がする。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ