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123.どこもかしこも騒がしくて

「……、」


 ふと、何かに気付いたようにイデアが視線を動かした。何を見ているのかとティアラもそちらを確かめてみたが、そこに注目すべきものなど何も見つけられなかった。当然だ、いま彼女たちが立っているのは正真正銘に不毛の大地。ただただ魔女と魔女の激突によって形作られた荒涼たる光景が地平線いっぱいに広がっているだけの、地図上でも空白で埋めるしかない北方の僻地であるからして。元よりこんな場所に『始原』の興味を引く物があるはずもなかった──では、イデアは何に反応したのか。


「どうかしたの?」


 ティアラは探るだとか窺うだとか、そういうことをしない。気になったなら直接聞くし、腹が立てばすぐに手を出す。無論いついかなるときでもそうするというわけでもないが、しかし彼女のスタイルは一貫して単刀直入ストレートである。その良くも悪くも竹を割ったような性格のままに疑問をイデアへ訊ねれば、そちらもそちらで特に隠し立てる様子もなくやれやれと首を振った。


「思いもよらないタイミングで動き出してしまったものだから……少し驚かされてね」


「は? どういう意味よ?」


「ちょっとした仕込みの話さ。──ふふ。どこもかしこも騒がしくていけないね、今日という夜は」


 呆れたような、嬉しがるような。そういう不思議な表情で笑うイデアの機嫌は決して悪くない。それを知ってか知らずか、要領を得ない解答に苛立つでもなく「ふーん」と軽く流したティアラは、釣られたように笑みを返して一方の空と大地の交わりを指差した。


「騒がしい夜も終わるわ。ほら、空の端っこが白み出している。もうすぐあそこから美しく太陽が昇って──そして騒がしい朝が始まるのよ。ねえイデア……あんたがどこの何に意識を向けているのかは知らないし、どうだっていいけど。でも私から目を逸らすことは感心しないわ」


 騒がしい朝、とおうむ返しに呟いたイデアは空惚けるようにして。


「なんのことだろう。俺と君は話し合うだけなんだから、騒がしくなりようがないはずだが」


「はっ! すっとぼけなくたっていいのよ。あんた、私側の魔女でしょ」


「君側って?」


「自分さえ面白ければそれでいい。そういう人種だろうって言ってんのよ。私がそうであるように、あんたもまた絶対にそう。同類は同類を嗅ぎ分けるものよ」


「乱暴な理屈だね。それだと君がそうと思い込んでいるだけかもしれない……実際、遊びと称して大した理由もなく他の魔女と争いを繰り返すような酔狂さは、生憎と俺には持ち合わせがない。同類とは言い難いんじゃないかな」


「動機に多少の差があったところで同じよ、何も変わらない。あんたはあんたなりの理屈を持ってルナリスをああさせたわけでしょ? それ、すごくよくわかる。きっとクラエルは眉をひそめるでしょうけれど、私は共感してあげるわ。だって何よりも大切だもの──私は私自身が至高最高の宝物。だって『至宝』ですもの、当然よ。それはあんただってそうじゃない? ねえ、『始原』」


「ふむ……」


 全身に散りばめられたキラキラとした宝飾にもなんら劣らない、力のある輝きを放つ瞳を向けられて。顎に手をやったイデアはしばし考え込み、それから納得したように頷いた。


「なるほどね……ティアラ。確かに君の言う通り、自身の興味関心だけが指針の全てであるという点で俺たちはとてもよく似通っている。そしてそれを満たすためなら喜んで我が身を危険に晒すし、興味の対象にも同様のことを強要するという点も踏まえるなら、なおのことに。『始原』と『至宝』は同類の魔女と称すことができるだろうね」


 少なくとも『月光』や、話に聞く『晴嵐』のスタンスからすれば、どちらにより近いかと言われればイデアは『至宝』側ということになる。そう認めた彼女に、得心得られたりとティアラは満足そうにした。


「そうでしょうそうでしょう。あんな死ぬほどつまらない秩序一派なんかと一緒になったところで、死ぬほどつまらないだけよ。『つまらない』は大っ嫌い。それは美しい私の美しい輝きを損なう害毒だもの。だから嬉しく思っているのよ──噂に聞く『始原』。クラエルが手を焼いているあなたが、想像通りあいつらのお仲間にはならなさそうな魔女で私はとっても安心しているの……そしてだからこそ」


 ──上下を決めておきましょう。今、この場できっちりと。


 にこやかだった笑みを、顔付きはそのままにしかし克明に戦意が乗せられた凄絶なものへと変えて告げられた、宣戦布告の言葉。その堂々たる誘い文句にイデアは目をぱちくりと何度か瞬かせた。


「……本気かい? いや、予想をしていなかったわけじゃあないんだ。君のエピソードや、さっきのトレードでの様子からしてこうなるんじゃないかと思っていたし、それもまたよしとしてこの地にやって来たつもりではいるんだけど」


 けど、あまりにもストレート過ぎる。明け透けが過ぎるだろう──と予想通りの展開とはいえ流石に困惑もするイデアだった。もう少しこう、戦う必然性が求められるのではないかと。何をするにも何かしら理由を求めてしまう理屈派の我儘である彼女に対し、感覚派の我儘であるティアラは腕を組みながら顎を下げて、上目遣いで自分よりも小さな少女を見やった。


「あら。直球の誘いはお嫌いかしら? 私は好きよ、まどろっこしくなくて。フルコースだってすぐにメインディッシュを食べたいタイプだもの。ねえ、わかるでしょ。目の前にご馳走・・・があっておあずけを食らうのをよしとするほど、私は我慢に美徳を見出していないのよ──あんたは違うって言うの?」


「…………」


 呆気に取られたような間が、数拍。それからくっくと少女の喉が愉快げに鳴った。


「本当に直球なんだな、君は。──いいよ、ろうか。まずはどちらが上なのか、その格付けを済ませてから……全てはそれからということでいいだろう」


「ふふん、あんたならそう言うと思ったわ。……魔女封じの魔女、『月光』のルナリスを破ってみせたその手腕。この『至宝』に存分に見せてみなさい、『始原の魔女』!」


「うん。承ったよ『至宝の魔女』。きっと君を満足させてみせよう」


 瞬間、煌めく粒子と真っ暗な闇が少女たちから溢れ出し、互いを目掛けて押し寄せ、ちょうど彼我の中間で衝突。まったく性質を異ならせるふたつの魔力が、牙を立て合う二匹の猛獣の如くに絡み合って荒れ狂う。


「「……!」」


 カッ、と凄まじい魔力爆発がイデアとティアラを光の中に消し去った。



◇◇◇



 至宝ことティアラが操る魔法は、非常に単純明快。自身の魔力を散布させて爆破する。ただそれだけである。


 しかし術者の意のままに、素早く大量に場を埋め尽くす粒子状の魔力はこの単純極まりない戦法を絶対的に強力なものとしてくれる。誰にも真似できない特異な性質を有する魔力を、誰にも真似できない威力で爆ぜさせる。煌めく己が魔法とそれに散る敵を見ることがティアラは何より好きだったし、そのときこそが自身の最も輝く瞬間であると強く信じてもいる。


 美しい私は私の美しさを最大限に輝かせる必要が──義務がある。と、心の底から思うままに生きる自分が大好きで仕方がない彼女は、故にルナリスとの相性は最悪であり、目の上のたんこぶのように思えてならなかった。


 しかしそれはティアラにとってルナリスが、常に視界に入っているほど離れがたく忘れがたい相手でもあるということで。中和の性質を持つ月光の魔力によって起爆魔法がその本領を発揮できず、勝負がいつも尻切れトンボに終わることも含め、いつの日かルナリスを自身の前に跪かせて足を舐めさせることが会談加入後の最大の目標となっているティアラであった。顔立ちも魔女の中では特に美しいし……もちろん、自分の次にだけど。なんてことを思いながら、いつの間にかデートのようになった定期的な彼女との決闘を楽しむこと幾星霜。私闘厳禁の会談の例外として黙されてきたその遊びに、ひょんなことから横槍が入ってしまった。


 最も謎めいた魔女『始原』。会談にも名すら明かされていなかった彼女がなんの予兆もなく東方において活発に動き出したかと思えば、あれよあれよという間に事態は進み、気が付けば──それは東方圏にも始原にもあまり興味を抱いていなかったティアラの感度の低さのせいでもあるが──何故かルナリスはイデアと事を構える決意をしていたし、そしてあえなく敗北を喫してしまっていた……とまあ、ルナリスがイデアをどうするつもりであったかとか、どういう顛末で争いが起きたのかなどは、別にどうでもいい。それもまたティアラの興味の外にあることだ。彼女が気にしているのはたったひとつ、その戦い方同様に非常にシンプルな一点だけだった。


 あのルナリスを打ち負かす『始原』とは、どれほどの強さなのか。どれほどに美しく戦う魔女であるのか──そんな強敵を凌駕する私はきっと最強に美しいに違いない、と。


 他者への興味すらも結局のところは自らを引き立てる道具として利用することに終始されるティアラの精神構造は、真っ直ぐであるとも言えるし歪み切っているとも言える。あるいは、歪み過ぎて直線に成ったのだと表現するべきかもしれない。


 自分こそが全て。という、決して折れず曲がらず逸れない精神性。それを初めて自分以外からも感じた。よく似ている、だけどどこかが決定的に違う、されどやはり酷似した、鏡に映る彼女こそがイデア。他の魔女たちにも感じなかった強烈なまでのシンパシーをぎゅっと大切に抱きしめて、彼女は叫ぶ。


「最ッ高に! 楽しい夜明けにしようじゃない、イデア!!」



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― 新着の感想 ―
[一言] 魔女(物理)じゃないだけまだましw
[一言] イデア以上に何も考えてない脳筋魔女…。
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