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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第四話

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闘神の牙(9)

 ほぼ同時にGPF旗艦エントラルデン艦底から発進した機影。肩の栄えある「1」のトップエースナンバー。ロレフのシュトロンの姿がブレアリウスからも見える。


「こっちで開始の号令かけるから待機ね」

 通信士(ナビオペ)のユーリンが伝えてくる。

「了解だ」

「すっごく明瞭。このレーザー通信機、便利ね。これからは頼りにしてくれていいわよ」

「よろしく頼む」

 ウインドウ内の彼女に視線を送る。

「頼まれちゃう。クリアになっちゃったのヤバいかも。君の低い声って身体に響くの。ぞくぞくするぅ」

「すまん」

「あはは、気にしない。こっちの話」

 ひらひらと手を振っている。


 ブレアリウスとしても相手の顔を見て通信できるのは助かる。真剣味が如実に伝わるから内容の受け取り方が変わる。声音で深刻度まで測らなくていいのは助かる。


「必要な時はこっちから個々に繋げられるようになってるの。慣れるまでは相手間違えても勘弁してね」

「俺は構わん。エンリコなら告白相手を間違えかねんが」

「あるあるー。最低ね」


 冗談ですませる。しかし、ユーリンは決して間違えないだろう。任務に関してはどこまでもプロである。


「始まるわよ」

 前置きが入る。

(スリー)(ツー)(ワン)、GO!」


 旗艦の前にゆっくりと漂っていた二機が瞬時に弾けて分かれる。互いにいきなりの激突は避ける意図だったようだ。


(意表を突いてくるかと思ったが様子見か。心理戦も巧みとみえる)


 彼は挑戦者の立場。消極的な姿勢をみせれば第三者からの評価は下がる。姑息な駆け引きと受け取られても仕方ない。


(悪いが無謀な賭けはせん。俺の剣術は()(せん)向きなんだ)


 映像ロックオンをされている前提で機体を踊らせる。砲口に目を凝らしつつ、細かなパルスジェットで姿勢を変える。そこに緩急をつければそう当たるものではない。


(撃ってこない。焦りを誘う気だな)


 熟練の手管だ。筒先の動きで牽制されている。ここで焦って動けば相手の思う壺。


(これならどうする?)


 回避の動きに横ロールまで織り交ぜていく。一瞬とはいえ背中を見せるのだ。明らかな誘いへの反応を窺う。


(動かないか。見下ろされてるな)

 ここまではアストロウォーカーの戦闘でも用いられる手法。

(ならばこうだ)


 旋回して背中を見せた瞬間、脇にビームランチャーを差し入れて一射。こちらの射線にしか反応していなかったロレフ機には直撃コースのはず。


(動くしかあるまい)


 トリッキーな砲撃に相手は力場盾(リフレクタ)で受けると思われる。ブレアリウスはビームを追うように加速した。

 力場の表面でビームが弾けた瞬間は視界が遮られる。ロレフもそこを狙ってくると分かっているので振り払いざまに力場剣(ブレード)を一閃させた。


(そこに俺が仕掛けていると思うだろう)


 しかし、彼は死角からの斬撃を放たずワンテンポずらして接近する。振り抜いたブレードの切っ先をリフレクタで押した彼は、ロレフ機の懐を開いた形に持っていく。そこに下段からの剣閃を走らせた。


 勘で危険を察したのか、俊敏な反応を見せたロレフは咄嗟に機体を引いている。ブレアリウスの斬撃は胸部装甲のど真ん中でビームコートが蒸散する白いガスを発生させるに留まった。


「ひょう! やってくれる!」

 それまで沈黙を保っていた相手の口を割らせる。

「さすがと言っておく。今ので判定が取れるはずだった」

「簡単に墜ちるわけにもいかないんだよね」


 雰囲気が変わる。引き気味に緩く構えていたのが、左手のブレードを一直線に掲げている。肘は緩んでいるので攻撃も捌ける構え。


(乗ってきた。そうでなくては困る)


 彼としては中距離から近距離の砲撃戦に持ちこまれたくはない。相手のフィールドで戦えば、負わなくてはいけないリスクばかりが膨らむ。そこにも手管があると思わせるしかない。そのためにトリッキーな砲撃という罠を仕掛けた。


「参ったな。肩に『1』の番号を預かっている限りは無様な負け方はできないのさ。でも、君をこっちに引き込むのは難しいらしい」

「では剣技で勝負になるか?」

「してみせるよ。できなきゃ返上だ」


(安い挑発には乗ってくれない。だが、勝負には持ちこめた)


 加速したロレフ機が突きを放ってくる。彼はブレードを内から絡める。外に流したかったがすぐに引かれた。

 そして再び腰辺りへの突き。今度は外からこすって右半身に入りこもうとするが、また引かれる。連続の突きが変幻自在に各所を狙ってくる。ブレアリウスが捌きつづける形になった。


(引く前提の突き。どこかで本命を混ぜてくる。どこだ?)


 傍から見れば剣先を絡め合っているだけに映るだろう。滑稽に見えるかもしれない。しかし、そこには駆け引きが潜んでいる。


(俺の実力を測ろうとしているな? 対峙してでなくては読めない深みを。そうそう手の内を見せられんがな)


 さっきからパルスジェットは使っていない。ロレフが踏み込んでくる分だけ機体が流れるに任せている。押しこんでいると思ってくれればいいが。


(これか!)


 それまでの力の込めようでは捌ききれないと感じる手応え。咄嗟に刃を立てて絞りを入れる。噛みあったブレード同士が紫電をあげて深くまで絡む。


(なに!?)


 瞬転、受けにこめた力が行き場を失う。ロレフが抜きをかけてきたのだ。一気に二機は激突するほど接近する。


(これか、本命は)

 気付いた時には砲口が脇腹に忍びよっている。


 警報が鳴る間も無く、ブレアリウス機に向けてビームが放たれた。

次回 「俺の覚悟も安くはない」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 今のところお互い様子見?
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