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この異世界の救いよう  作者: 山葵たこぶつ
第一話 ハウネル王国騎士養成学校
48/182

48.決着

 ロイドの発言に、会場が一気に歓声に包まれる。

 流は投票の結果を聞き、口元を緩めた。


 アルフィはその結果が受け止められないように、呆然と立ち尽くしている。


「それでは、ウィルク・アルバーニアの票を、全てアルフィ・アルバーニアに移動する。スクリーンの表示数は変えないが、アルフィ・アルバーニアの獲得総票数は一〇二票だ」


 そうロイドが宣言した。


「なんで?」


 ぽつり、とアルフィは言う。


「なんで私なんかに、こんな大金……」


 だが、生徒達はそんな彼女の言葉に、何も返事をしなかった。


 笑っている者。涙を流す者。不満げにする者。顔を背ける者。ウィンクをしている者。

 彼らの表情は様々で。


 ただ、全員が納得の上でアルフィを見送ろうとしているのは、明らかだ。

 王国騎士の中の先鋭部隊。≪剣竜(けんりゅう)現身(うつしみ)≫として。


 アルフィの顔がくしゃりと歪む。


「私、……全然、いい仲間じゃなかったでしょう……?」


 アルフィの声は震えていた。


「アンタら、バカ、なんじゃないの、本当に。敵同士、でしょうが……。友達ごっこでしょうが……。学校生活を円滑にするために、上辺だけ仲良くして、……でも本当は、そんな仲良しクラブみたいな関係じゃないでしょうが」


 彼女の喉が腫れていくのが、その声から明らかにわかる。


「私は、アンタらのことなんてねえっ……!」


 そうして、彼女は俯いてしまう。腕で顔を必死で拭った。


「……ありがとう(・・・・・)、皆」


「――ロイドさん」


 流はロイドに呼び掛けた。催促のつもりだった。

 彼は流の顔を見ると、黙って頷く。


「これをもって、≪決戦(デュエル)≫を終了する!」


 ロイドの高らかな宣言が、会場に響き渡る。


「勝者! アルフィ・アルバーニア! レティシア=ミゼル・ルケーノ! ガーラント!」


「監督官のロイド殿が、≪決戦(デュエル)≫の終了を宣言されました!」


 ロイドに続き、ゴルドー団長が馬鹿デカい声量で言う。

 流の身体は、その脅威を思い出したかのように、ビリビリと痺れる。


「≪剣竜(けんりゅう)現身(うつしみ)≫最終選抜試験、合格者は≪決戦(デュエル)≫勝者の三名といたします!」



***



 ルアノは気が付けば拍手をしていた。

 ハウトが、クレイスが、そしてヴォルガとマーディラもそれに続く。


「どうなることかと思ったけど、綺麗に話がついて良かった」


 ハウトは安堵した様子で言う。


「うん。……良かったね。アルフィ」


 ルアノはぽつりと呟いた。


「意外だな……、絶対に集まらねえと思ってた」


 それを口に出せるヴォルガの歪み具合に、若干引いてしまうルアノである。


「結果など、どちらでも良かったのではないですか?」


 クレイスが肩をすくめた。


「アルフィ・アルバーニアは恵まれているではないですか」


「そうね」


 とマーディラはクレイスに同意した。


「いい学友に恵まれたわ。私達のときは、どうだったかしら?」


「いいえ。そういうことではありません」


 クレイスは穏やかな表情を浮かべながら、ゆるゆると首を振る。


「じゃあ、どういうこと?」


 ルアノは首を傾げて、彼に尋ねた。

 クレイスはふっと微笑む。


「自分が周りにどう思われるか計る術など、人には本来ありません。周囲に流れる噂も、人事考課も、意外にアテになりませんしね。彼女は人が一生に一度、知る機会があるかどうかの評価を得た。金という、明確な単位で」


「ウィルク・アルバーニアの狙いはそれか?」


 ヴォルガが腕を組みながら、腑に落ちない様子で息を吐き出した。


 そう。ルアノはずっと気になっていたことがある。


 ウィルクは結局、あれがやりたかったがために、わざわざ零石に細工をして、第六試合をぶち壊したのだろうか。

 それなら、あの鬼のような所業は、むしろアルフィのため?


 しかし、別の見方をすると、彼は他の生徒達から七十二万シーンもの大金を巻き上げたのだ。

 ただし、『集まった金額が三十万シーン未満なら、一銭も受け取らない』という条件付きで。


「まあ、ウィルク・アルバーニアについて語っても、それは単なる憶測に過ぎません。私は今日の彼に、それを思い知らされた。私なりに、彼のことはある程度分析できていたつもりでしたが、それは幻想だったらしい」


 僅かに疲れた様子をみせて、クレイスが言った。


「彼がどんな人間なのかは、各々が勝手に判断するということで、いいのではないですか?」


「ああ。これ以上、この≪決戦(デュエル)≫について語るのも、野暮ったいしね」


 ハウトはどこか遠い目をして、そう締めたものだった。



***



 流はアルフィに近づいた。彼女はまだ下を向いている。


「合格おめでとう」


「よく言うわよ、このクズ」


 彼女は吐き捨てるように言った。涙声である。


「なあ、アルフィ」


 流には彼女に伝えなければならないことがあった。


「あー……。自分の弱さに挫けたり、惨めな思いをしたことない人間なんざ、いねえと思う」


 そう流はアルフィに言った。


「けど、弱いヤツのことくらい、赦してやれよ」


「……うっ、ううっ」


 いよいよ、アルフィは嗚咽を上げた。


「ま、残念ながら、見ての通り。連中はオメーのこと、認めてるみたいだけどよ」


「やめてよ……」


「もちろん、それは俺もだ」


 彼女の制止も聞かず、流は言った。


「本当にありがとう、アルフィ。この二週間で俺に施してくれた、全部のことに」


「やめ、てって……」


「アルフィ――」





<最終選抜試験編>――




「――お前の勝ちだ」


 アルフィの足下に、光るものが零れ落ちた。

 彼女はそれを誤魔化そうとするが、結局――、


「ッ……、ぅぁぁあ……あぁっ!」


 上を向き、一際大きな声で、涙を流した。





剣竜(けんりゅう)現身(うつしみ)≫最終選抜試験


決戦(デュエル)≫・“人望投票”


勝者

アルフィ・アルバーニア

レティシア=ミゼル・ルケーノ

ガーラント


敗者

神坐(かみざ)(りゅう)





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