表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
年下の小悪魔!?  作者: 水谷 順
本編
26/28

第26話  強くなるということ


 彼はゆっくりと私を下ろし、服の汚れを簡単に払ってくれる。

 落ちていたカバンを拾い、私に「はい」と差し出す。何も言わずにそれを受け取った。

 まだ訳が分からずボーっとしている私を見て苦笑する彼。

 でもその顔を、今まで一度も見たことのない真剣な顔にすると、私の右肩を乱暴に掴んだ。


 「咲さん、どうして?って聞いたけど。それは、こっちのセリフ」


 肩を強く捕まれ、その痛さで我に返った私は、彼のその不機嫌そうな顔に怯んでしまう。

 

 「翔平くん、肩……痛いんだけど」


 「それぐらい我慢してよ。僕のここは、もっと痛いんだから」


 そう言って、自分の胸をぎゅっと掴んだ。

 なんで胸が痛いんだろう?それは私のせい……だよね、きっと。


 「怒ってる?」


 私のその言葉を聞き、呆れたように大きく溜息をつくと、肩から手を離した。

 しばらく黙り続ける彼。

 嫌われたんだろうか……目の前に彼がいるのに、どうしてこんなに胸が苦しくなってくるんだろう。

 何も話してくれない彼を見てとてつもなく悲しくなり、目に涙がじゅわっと溜まってきてしまった。

 私の変化に気づいた彼は、もう一回溜息をついてから、重い口を開いた。


 「その涙の訳は?」


 「…………」


 「また何も言わないんだ。そんなんじゃ、いつまでたっても変われないよ、咲さん」


 「だって……言わなくたって分かってるんでしょ?」


 今だって、彼は私の涙の理由を絶対に分かっている。

 なのに、そんな意地悪を言うんだ。


 「前にも言ったよね。分かってても咲さんの口から聞きたいって。でも、この話はまた後でゆっくりするとして……」


 そこで一旦、話を切ると、私に携帯電話を出すように促した。

 首を傾げて携帯を見つめていると、「兄貴に電話」と言われてハッと気づく。


 「やっと気づいたみたいだね。みんな、どれだけ心配してるか分かってる?」


 「ごめんなさい」


 「僕はいいから、早くかけて」


 すぐに坂牧の携帯に電話をかけた。

 ワンコールでた坂牧は突然大きな声で「バカかお前はっ!!!」と怒鳴りまくり、切り際には「帰ったら覚えとけよ」と耳を塞ぎたくなるような恐ろしい言葉を残した。な、なんか、さすがは兄弟って感じだ。

 

 「……はぁっ……くしゅんっ!」


 うぅ〜寒い……。長い時間ここにいたからか、身体がかなり冷えていた。

 すぐ隣から「しょうがないなぁ」と声が聞こえると、両腕がすっと伸びてきて私を包み込んでくれた。


 「こんなに身体が冷えるまで、何してんだよ。まったく……」


 抱きしめ方は優しいのに、その言葉はまだ怒っているような口ぶりだ。

 そりゃそうだろう。彼も今はとても忙しい時なのに、ここにいるって言うことは……。

 仕事、途中で抜けてきてしまった訳だよね。


 「迷惑かけて、本当にごめんなさい。こんな情けない30過ぎた女のことなんかより仕事……っ」


 (パシッ!!!)


 話してる途中で、彼に頬をおもいっきりひっぱたかれてしまった。

 あまりにも突然のことで、ひっぱたかれた頬を押さえ呆然としていると、彼はとても悲しそうな目をして佇んでいた。


 「咲さん、もうそれやめない?前にも言ったと思うけど、僕は咲さんの歳のことは気にしてないって言ってるでしょ。でもね、年下だってことで負けたくないから、僕だってこれでも一応頑張ってるつもりなんだよ。歳の差はどうやったって埋められないのに、そんなことばかり言うなんて……」


 そこまで言うと彼は俯いた。ぎゅっと握っている手と肩がブルブルと震えている。

 叩かれた私より、彼の心のほうが傷ついている……そう思ったら、今すぐに彼を抱きしめたくなった。

 そっと手を伸ばし、彼のやわらかい髪に手を差し入れ包みこむと、それを自分の胸にへと導き入れる。

 30過ぎだと歳に事を気にしているのに、実際は彼に甘え助けてもらってばかりだった。

 でも今はっきりと気づいた。歳は関係なく、私はもっと強くならないといけないって。

 そして私も彼を守ってあげたい、助けたいって……。


 「ねえ咲さん。僕の事、嫌い?」


 「何言ってるのっ!そんなことある訳……」


 「だったら好き?」


 「当たり前でしょ。……大好きだよ」


 「だったら、それでいいよね?お互いに大好きってことだけで、僕達はこの先ずっと一緒だ」


 私の胸から顔を上げ、少し赤くなった目で私を見つめ、そっと唇を重ねる。

 ほんの数秒しか唇は重なっていなかったのに、それだけで私の心は満たされてしまった。

 でも身体は正直で、まだ満たされていないのか、彼から離れようとしない。


 「咲さんには、まだ聞かなくちゃいけないことたくさんあるし、今日は僕の家に来て」


 「え?でも明日も仕事休むわけにはいかないし……。翔平くんも困るでしょ」


 「僕は休みとってきたから大丈夫。って、上司には文句言われたけどね」


 そう言って、笑いながら私の顔を覗き込んできた。

  

 「で、咲さんもお休み」


 「え?」


 「兄貴がね、もう一日休ませてやるから元気とヤル気、充電してこいって」


 「でも……」


 「咲さんが今のままだと、兄貴に咲さんを奪われちゃうでしょ?だから一晩かけて咲さんを元気にしてあげる」


 その意味をすぐに理解した。

 だって、ここに一人できた理由は寂しかったから……彼に触れたいのに触れられたいのに、そう出来なかったから。

 その想いが限界に達してしまい、心と身体が勝手にここに連れてきてしまったんだ。

 だから、その病を治せるのは彼しかいない。特効薬だ。


 「よろしくお願いします……」


 少し照れながらそう言うと、彼は驚いたように目を丸くさせた。

 しかしそれも一瞬のことで、私と目が合うといつものフワッとした可愛い笑顔を見せてくれる。

 

 「翔平くん……大好きっ!!」


 愛おしい気持ちが込み上げてきて、まるで小さな子供のように彼の腕にしがみついた。

 

 そして……。

 その夜の彼は、今までで一番の快楽を私に与えてくれた。

 もう気持ちや言葉だけでは足りない私の身体を、愛しむように抱いてくれた。

 彼と一つに繋がると、今までのそれとは比べ物にならない快感が私の身体を駆けめぐる。

 手を伸ばし彼の頬に触れると、彼もその手を包んでくれた。


 「……好き……翔平、が……大好き……」


 幸せすぎて、知らない間に涙が頬を伝っていた。

 大好きな彼に全てを委ね、私の心と身体は幸せで満ち溢れていった。 

 

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ