第24話 幸せな朝
彼の貪るようなキスに、身体が熱くなって息が出来なくなってきた。
立っていられなくなりそうになった時、それに気づいた彼は唇を離し片方の脇に手を差し込んだと思うと、一瞬で私を抱き抱えてしまった。
小さな笑みを私に向けながら一番奥の部屋まで行き、身体をベットにゆっくりと横たえる。
そして自分もベットの上にあがり私を跨ぐように膝立ちになった。
上に着ている服を一枚一枚脱いでいく。
真っ暗だった室内に目が慣れてきて、彼の身体がハッキリと見えるようになってきた。
その姿に見とれてしまい、思わずその身体に手を伸ばしてしまう。
「今日の咲さん、エッチな顔してる」
身体に触れていた手を慌てて引っ込める。何だか私の頭の中を覗き込まれてしまったみたいで急に恥ずかしくなった。
両手で顔を塞ぐと、上着を脱ぎ終えた彼が私に覆い被さってきて肩口に顔を埋めてきた。
そして愛おしそうに肌を摺りあわせながら甘い言葉を告げてくる。
「その隠してる可愛い顔を僕に見せて」
そう言うと、少しだけ体を離し私の両手を掴んで顔の両横に押し付けた。
透き通った綺麗な目が私を見つめている。その彼の瞳が放つ威力から目をそらすことができなくて、私も彼を見つめた。
「もう絶対に離さないから」
彼はそう言ってから、私をぎゅっと強く抱きしめた。
唇が重なる。さっきまでの貪るようなキスとは違って、とても優しく私の身も心も虜にしてしまうような媚薬のキスだ。
その媚薬の効果は抜群で、私はあっという間に何も考えられなくなってしまっていた。
彼にされるがまま唇を重ねあっているうちに、いつに間にか二人共、生まれたままの姿になっている。
「咲さんの身体、ピンク色に染まってる。火照ってるね」
彼の右手が私の胸を優しく包み込む。
もう片方の手は私の髪を梳きながら、可愛い顔で魅惑な眼差しを向けてきた。
そのギャップに、わたしの身体は敏感に反応し始めてしまい、自分から彼の背中に指を這わせた。
彼は少し苦笑すると、それが合図だったかのようにもう一度私を抱きしめると唇を強く重ね、息もできないくらい深く舌を絡ませてきた。
「……んっ……んぅ……」
この激しいけど甘いキスで私の身体を中心まで溶かしていく。
部屋中にお互いの吐息が響き渡り、私の身体を熱く刺激していく。
そしてふたつの身体がひとつの身体に重なり合うと、その快感が私の脳をも刺激して意識を朦朧とさせていった。
朝、目を覚ますと、彼が部屋のカーテンを開けた窓際で大きく伸びをしていた。
「あっごめん。起こしちゃった?」
そう言ってベットに腰掛けると、頬を優しく撫でてくれる。
「ううん、ちょうど起きたとこ。気持ちいい……」
まるで子猫のように、彼の手に擦り寄りながら甘えてみる。
すると彼は飛びつくように私を抱きしめ、ぶんぶんと振り回した。頭がクラクラする。
「もう、そんな格好でそんな事されると、朝からしちゃうよ」
はぁ?朝からしちゃうって、何言ってるの……バカ。
それに、そんな格好?どんな格好なんだ?と自分の姿を確認して、顔が青ざめていく。
そうだった。私、エッチしてる途中で、あまりの気持ちよさと激しさに意識なくしたような……。だから裸なのはしょうがないとして。
でも、こんなカーテン開けられた太陽サンサン明るい部屋で、裸体を晒していいわけがな〜いっ!!!
慌てて彼をひっぱなし、布団の中に潜り込んだ。
ダメダメダメ……。暗い所でならともかく、明るい部屋でこの身体はお見せできません。
恥ずかしさでワナワナ震えていると、彼も布団に入ってきた。
「なんで隠れる必要があるの?もう咲さんの身体なんて、隅々まで見ちゃって全部分かってるのに」
ぷはぁ……よくもそんな恥ずかしいセリフを、なんて可愛い顔して言っちゃうんだか。
そりゃあね、全部見せちゃったかもしれないけれど……。
だからってだからって、朝起きていきなりの状況では無理!
こんなメリハリのないボディーはやっぱりお見せできませ~ん!!
こっちに来ないでと、グイグイ彼を押し戻そうとするけれど、女の私では敵うわけなくて……。
「そんなツレナイことするなら……ほらっ!」
バサッと布団を捲り上げてしまった。
「イヤイヤイヤイヤイヤーーーッ!!!」
身体を小さく丸めてダンゴ虫のような格好になる。
「早く布団戻して。お願い……」
今にも泣き出しそうな声で懇願すると、「しょうがないなぁ」と言いながら、私を後ろから抱きしめてきた。
その感触が昨晩を思い出させ、私の身体をまたしても火照らせてしまう。
「ね……ねぇ、布団……が、欲しいんだけど」
「部屋あっためておいたし、僕もいるから寒くないでしょ?」
全く話が咬み合ってない……。
ドキドキしてしまっていることをバレないように、平常心を保ちながら彼に言い放った。
「翔平くんは服着てるからいいけど、私は何にも着てないの!は、早く布団っ!」
「あれ?咲さん、鼓動早くなってない?」
「は、は、は、早くなってないっ!!!」
こんな体勢、どきどきしないはずないでしょっ。
焦って吃りながら答える私を見て、後ろから大きな笑い声が聞こえてきた。
「はははははっ!……もう…咲さん……可愛すぎる……」
私のことなんて、どうせお見通しなんだよね。
隠してるつもりが、全く隠れてない私の胸の内。
もう怒る気にもならない。いつものこと過ぎて……。
彼が大笑いして腕の力が抜けているうちに、その場からスルッと逃げ出し布団を纏った。
あっちこっちに散らばっている服と下着をパパっと手にとり、ちょっと行儀が悪いけれど足で隣の部屋の襖を開ける。
中に入るとクルッと向きを変え、人差し指を彼に指した。
「いいっ!罰として、朝ごはんつくってあげないんだからっ!!!」
そう言うと襖をバタンと閉めて、服を急いで着た。
リビングからは彼の悲痛の声が響いてくる。
「咲さん、ごめーんっ。お腹空いた……僕にも朝ごはん。じゃないと死んじゃうー!!」
その大袈裟な叫びに、思わず笑ってしまう私だった。




