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年下の小悪魔!?  作者: 水谷 順
本編
23/28

第23話  愛しい彼


 彼は、誰がそんなに食べるんですか?というくらいの量の食べ物や飲み物を買い込んで、車に戻ってきた。

 そしてその顔は、買い物をして少し落ち着いたのか、私が逃げずに待っていたからなのか、幾分優しさが戻っていた。

 緊張感で身体がコチコチになっていた私は、ホッと一息ついてその緊張を解きほどく。

 軽く伸びをして肩をさすっていると、視線を感じた。

 ゆっくり彼の方を見ると、笑みは笑みでも不敵な笑みを浮かべてなにか言いたそうな顔をしている。


 「何……かな?」


 「咲さん、余裕あるなぁと思って。まあ僕は一向に構わないけどさ」


 「余裕?私、全くこの先が読めてないのに、余裕も何もないでしょ」


 そう言ってから窓の方に向き直った。

 いや……全くこの先が読めてない……訳ではない。

 今までの車の中での状況からすれば、翔平くんの家に着くなり……そうなることは分かっていた。

 私自身、坂牧の前だったとはいえ、あんな激しいキスをされては少なからず身体が彼を欲してしまっている。

 だから、そうなることが嫌なわけではなかった。

 ただ、“おしおき”をされる覚えはないんだけどなぁ。

 そこだけは、納得いかないことなんだけど。


 「咲さん、着いたよ」


 考え事をしていている間に、翔平くんの家に着いてしまっていた。

 彼は助手席のドアを開けて、いつものように手を差し伸べてくれている。

 久しぶりにそうされて照れくさくなり、俯きながら手を出した。

 おもいっきり引っ張られ、彼の体にドンッと顔からぶつかってしまった。


 「鼻…鼻が痛い」


 「ごめん、咲さんっ。なんか気ばっかり急いっちゃって」


 あれ?急にどうした?怒ってたんじゃないの?

 坂牧の家を出て、車に乗ったばかりの頃の気丈な俺様な態度は何だったの?

 訳がわからなくなってきた。

 半ば引きずられるように部屋の前まで連れていかれ、慣れた手つきで鍵を開けると私に先に入れと促した。

 玄関に入るとすぐ後に彼もついて入り、背後から不意に抱きしめられる。

 ガチャっと鍵の閉まる音が私の耳まで届いた。


 「咲さん、ごめん。車の中で意地悪なこと言って……」


 そう言って強く抱きしめ直し、私の首元に顔を埋めた。

 その行為がなんだかくすぐったくて、肌がぶるっと波打つ。


 「びっくりした。いつもの口調と全然違うんだもん」


 「兄貴に……ヤキモチ焼いた」


 「何で?私はチーフ…お兄さんに、ごめんなさいってちゃんと言ったよ」


 どこにヤキモチを焼くと言う理由があるのだろう……。

 私と坂牧は同じ会社の社員。今更辞めるわけにもいかないし、それさえも嫌と言うのだろうか。

 なんだか彼がすごく可愛く感じ、愛おしくなってきた。

 急に、彼が今どんな顔をしているのか見たくなって、抱きしめている手を優しく摩る。

 すると私を抱きしめている腕の力が少しだけ緩まった。その隙にクルッと体を反転させて彼を玄関のドアに押し付けた。


 「わあぁっ!?何するの、咲さんっ」


 私の突拍子のない行動に驚き、顔を近づけられ気恥ずかしいのか、頬をわずかに赤く染めている。

 その頬に手を滑らせて指でスルスルと撫でた。


 「なんか僕、カッコ悪いんだけど……」


 「そうかなぁ?私は今の翔平くんが好き……なんだけど」


 そう。これが本来の彼なんだから。

 照れくさいのか俯いて私の肩にもたれ掛かる。

 いつもより小さく見えるその身体を優しく抱きしめ、片手で頭を撫でた。


 「でもさっきまでの普段とキャラが全く違う、俺様な翔平くんも……たまにはいいかも」


 彼は、「えっ?ほんとに?」っと嬉しそうに顔を上げ人差し指をピッと立たせると、

 今度は彼が私の頬をその指で上へ下へと行き来させ、撫で回した。


 「へぇ、咲さんにそっちの趣味があるなんて知らなかった。もう“おしおき”は、やめてあげようと思ったけど……」


 「けど?」


 「咲さんにお願いされたら、頑張るしかないでしょっ!」


 あっ……マズイ事言ったかも。彼が目が妖しく光り、私の顎に手をかけた。

 いえいえ、そんな趣味はございません。お願いなんかしてないし……。

 「ないないっ!!」今更そんなことを言っても彼に通用するはずもなくて……。

 形勢逆転。

 あっという間に二人の立ち位置が変わり、今度は私が玄関のドアに押し付けられていた。


 「咲さん。僕に愛される覚悟をしてね。めちゃくちゃにしてあげる」


 彼の初めて見せる、その艶かしくて妖しい顔に、目が釘つけになってしまう。

 恐怖にも似た感覚が私の身体を支配し始めた。

 もうこの状況から逃れることはできなさそうだ。

 諦めてそっと目を瞑ると、彼がクスっと笑ったような気がした。

 指先で唇の輪郭をなぞると背中がゾクッと震え、次の瞬間、彼の熱い唇が私の唇を奪っていた。





  

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