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年下の小悪魔!?  作者: 水谷 順
本編
21/28

第21話  やっぱり好き  


 「咲さん、そんな怒った顔しないの。可愛い顔が台無しだよ」


 尻餅をつきながらも、あくまでも余裕な微笑みで、また私が呆れるような言葉を吐く。

 あは……あはははは……。

 そうだった。しばらく会わなかったから忘れていた。

 彼には何をしても敵わないってことを……。


 「なぁ花田。ほんとにこいつでいいのか?」


 坂牧もまた呆れた声でそう言ってくる。

 その意見、あながち間違ってないです……なんて思ったことは、彼には内緒で。

 でも、一度好きになってしまうと、愛情を持ってされることならば何でも受け入れてしまう……。

 それが女性……惚れた弱みというものだ。

 だけど、彼にはどうしても聞いておかなければいけないことがあった。

 

 

 坂牧が、「夕飯作ってやる。食ってけ」と言ってくれたので、その言葉に素直に甘えることにした。

 キッチンで鼻歌交じりに料理を作っている坂牧を気にしながらも、彼にあの日のことを聞いてみる。


 「ねぇ、翔平くん。この前の土曜日のことなんだけど……」


 彼は「あぁ……」と小さな声でそう言うと、真剣な顔をして私の顔を見つめた。


 「咲さん、あの日僕は、咲さんに渡すための指輪を買いに行ってたんだ」


 え?指輪?確かに指輪の話が出ていたのを思い出す。

 それが私のためだって言うの?


 「じゃあ何で女の人と一緒だったの?」


 「……あの人はね……俺の姉貴」


 え?嘘でしょ。それって、信用していいのかなぁ……。


 「でも翔平くん、笑里えみりって名前で呼んでたじゃない。普通、お姉さんのことを名前で呼ばないでしょ?」


 「ああ、普通はね。でも、うちの姉貴、普通じゃないから」


 そう言って、困ったような顔をした。

 そして「何で姉貴を名前で呼ばなきゃいけないんだよ」とブツブツ言っている。


 「小さくて可愛くて……若かった……」


 自分とは全く違っているような気がして、だんだん尻つぼみに声が小さくなってしまう。

 翔平くんだって、ほんとは若い子のほうがいいに決まっている。


 「あれでも30なんだよ。でも30なんて思われたくないから、いろいろ努力してるんだってさ」


 ソファーで背伸びしながら「俺には理解出来ないけどね」と呆れた顔をした。

 あれで30!?努力しただけでは到底無理だというくらい可愛い人だった。

 それに比べて私は……。

 そこそこ身長あるし、可愛いわけでもないし、もう33だ。しかも歳相応に見えるはずだ。

 30を過ぎて「若く見えるね」なんて言われたことがない。

 自分で自分が可哀想になってしまった。


 「ねぇ、また一人で考えて一人で落ち込んでない?」


 相変わらず、私の心の中を読むのが得意みたい。

 そして、また言われるんだろう……。


 「「ちゃんと言わなきゃ相手に気持ち、伝わらないよ」」


 やっぱり。同時に言い合うなんて、息ピッタリ。

 彼は「分かってんじゃん」と笑いながら、私のおでこをチョンっとこつき、顔を耳に近づけた。

 そして、私の耳に唇を優しく押し付けながら、色気を含んだ声で囁いた。


 「ねぇ咲。言ってみ」


 ずるい……。咲って、そんな色っぽい声で呼び捨てにされたら、やっぱり無意識に口が動いてしまう。

 頭が痺れてしまったみたいだ。


 「私、可愛くないし、若くないし、若くも見えないし。でも……」


 「でも?」


 「それでもあの時、追いかけてきて欲しかった。そして私を捕まえて、これでもかってくらい抱きしめて欲しかったっ!!」


 言った……。一気に言ったから息が苦しくなって、ハァハァと大きく肩で息をついた。

 彼は満足気にニコニコ笑っている。


 「よく言えました」


 あくまでも上目線。

 頭をされるがままにナデナデされている私って……。

 これじゃあ、どっちが歳上なのか分からないじゃないっ。

 と思いながらも、その彼の手の感触に身を委ねてしまっていた。


 「僕だって追いかけて行きたかったし、いつだって咲さんを抱きしめたいって思ってる」


 「じゃあなんで……ぶわぁっ!?」


 いきなり私の顔を彼の両手がぎゅっと挟み込んだ。


 「いふぁい…にゃあにふぅんの?」


 「変な顔で面白い。でもすっごく可愛いし、どんな咲さんだって、咲さんだから大好きなんだ。分かる?」


 う〜ん……何かいまいち分からないけど、この状態が照れくさくなってきて、うんうんうんと何回も頷いた。

 すると一度手を離し、今度は私の肩を抱き寄せた。


 「追いかけなかった件なんかについては、今晩ゆっくりと……ねっ?」


 ねっ?って……。その不敵な笑みが怖いんですけど。

 それに今、今晩ゆっくりって言った?


 「翔平くん?今晩ゆっくりって何?」


 「今晩は今晩。だって、ずっと一人で寂しかったからさぁ。咲さんを愛したいと思って」


 私の顔が一気に沸騰したように真っ赤になったのはいつものことで。




 程なくして坂牧がリビングにやってきて、テーブルのセッティングを始めた。


 「花田、何顔を真っ赤にしてるんだよ」


 キャーッ!!!恥ずかしい……。

 その原因を作った彼を睨むように見ると、今にも口笛を吹くんじゃないかと思うくらい呑気な顔をして立っていた。


 ………小悪魔、翔平………


 でも、そんな彼のことを私は誰よりも好きなんだ。

 恋の炎……完全に消えなくて良かった。

 (またこの炎が大きく燃え続けますように……)

 心の中でそう願いを込めた。

  


 


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