表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悪役令嬢が転生者の異世界で主人公やってます!  作者: 夕綾 るか
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/109

旧友との再会

レオナルド視点です。


 ルーナさんの額にジワジワと汗が滲む。

 一見すると、ただジッと宝石を見つめているだけのようにも思えるが、実際は膨大な魔力を消費しているのだろう。

 もしかしたら、この魔法具は思うよりずっととんでもない代物なのかもしれない。


 ルーナさんがふうと肩の力を抜いた。


「こんな魔法具(もの)、一体どこで手に入れたの?」


 ルーナさんは眉を顰めた。彼女のそんな顔、今まで一度も見たことがない。


「酷い魔法具なのですか?」

「ええ。酷いなんてものではないわ」


 ため息を吐いて席を立つと、片足を引きずりながら戸棚の前まで行く。その棚の引き出しから手袋を取り出し、手にはめながら戻って来た。


「まず、これはアンドロス製ね。そして、傀儡魔法がかけられている」


 そこまでは父の見解と同じだ。

 専門の鑑定士でもないのに、そこまで見抜けた父を心から尊敬する。

 僅かに緩みかけた頬に力を入れ、引き締めた。


「ただ、この魔法は後から付与されたもので、元々はただの鉱石だったみたい」

「では、アンドロスでは普通の装飾品だった、ということですか?」

「そうね」


 手袋を付けた手でピアスを摘み、光にかざすように視線の高さに持ち上げた。


「それと――この血痕は王族のもの、なのではないかしら」

「そんなことまでわかるのですか?」

「ええ。大抵の場合、魔法具に付着したものの鑑定も必要になるから」


 改めて、ルーナさんの鑑定力の高さに驚く。

 この力をアルカディアの国家機関が放って置くはずがない。


「あの、ルーナさん」


 僕の考えが間違っていなければ。

 もしかしたら、ルーナさんは――


「アルカディアから逃げてきました?」


 ルーナさんは上げていた手をゆっくりと下ろした。


「視覚誤認の魔法具を使っているのは、この国で生活しやすいように、だとばかり思っていたのですが……違いますよね。たぶん、ルーナさんはアルカディア王国では元の姿だった。この前、お母様の形見を魔法具に作り変えた、といっていましたね? そして、その魔法具(ピアス)も作り変えられたもの。そんなことができるのは――アンドロスでもジュエライズでもない」


 ルーナさんが魔法具(ピアス)をそっと箱の中へ戻した。


「アルカディアが関わっている」


 ルーナさんは手袋を外し、テーブルの隅に置いた。そして、冷めてしまったハーブティーを一口飲むと、口を開いた。


「レオくんの言った通り、この魔法具の製造にはアルカディアが関わっている。少なくとも傀儡魔法はアルカディアで組み込まれたものね」


 ハーブティーをグビッと一気に飲み干すと、ルーナさんは新しいティーポットを用意するため、ゆっくりと立ち上がった。


「でもね。私はアルカディアから逃げてきたわけじゃないわ。それと、アルカディア王国を擁護するという意味ではないけど、とても健全な国家よ」


 お湯を沸かしながら、僕に背を向けて話している。ルーナさんの表情が見えない。


「アルカディアで作り変えられたなら、それは個人だと思うわ」


 湯が沸き、ティーポットに注がれると、アイリーンが一番気に入っている香りが漂ってくる。

 目の前に用意された新しいカップに、蒸されて香りを増したカモミールティーが注がれた。

 一口飲み、ほぅと気の抜けたアイリーンの顔が思い浮かぶ。

 本当は今すぐアイリーンに会いたい。

 そのために今、僕がすべきことは――


「ルーナさんに、もう一つ、お願いしたいことがあります」

「何かしら?」


 視線を窓の外にやる。自分が乗ってきた馬の近くに馬車が止まるのが見えた。

 ちょうどよいタイミングだ。


「足を怪我しているところ申し訳ないのですが、僕についてきていただけますか?」





「おかえりなさいませ。坊ちゃま」

「ただいま、じいや」


 慣れたやり取りを見て、ルーナさんは首を傾げた。


「ここは……レオくんのお家?」

「あ、いえ。違います」


 ガーネット伯爵家を出る時、ロードナイト伯爵家に先触れを出しておいた。

 僕は馬で来ていたし、足を怪我しているルーナさんに同乗してもらうわけにもいかない。

 ロードナイト伯爵家の馬車が書店の前に止まったのを確認すると、それに乗ってもらい、一緒にここまで来てもらった。


 予定通り迎えの馬車が来たことで、少し安堵した。ロードナイト伯爵家自体に何かがあったわけではなさそうだ。


 老執事ジャスパーが正面玄関の扉を開くと、そこには瞳を潤ませたアイリーンママが待ち構えていた。


「久しぶり、ルーナ!」

「え……? マリー?」


 ルーナさんの姿を見つけるやいなや、彼女に駆け寄り思い切り抱きついた。

 それを抱きとめたルーナさんはあまりに突然の再会に、驚き固まっている。


「話したいことが、たくさんあるの!」


 アイリーンママは抱きしめていた腕を緩め、ルーナさんと目を合わせる。


「それにしても……その髪も瞳も素敵な色ね! 私も視覚誤認の魔法具、使ってみたいわ! そうだ、レオくんのお家で買えるかしら? 今度、お店にお伺いしてもいい?」

「僕がこちらにお持ちします」

「本当? 楽しみだわ!」


 旧友との再会に喜びが爆発していたアイリーンママから急に笑顔が消えた。


「近々、お世話になりそうだから。なるべく、早めにお願いできる?」

「明日にでも」

「ありがとう」


 突然、変わった声色と表情に背筋が伸びる。

 アイリーンママは絶対に怒らせてはいけない人だと全身で感じ取っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ