発見されたのは?
レオナルド視点です。
国王陛下が見覚えのない不審な魔法具を見つけた、との報告を受け、まだ城内にいた父と僕は指定された応接室へと急いだ。
「私の執務室にて発見された」
すでに待っていた陛下は、僕らが席に着くなり、矢継ぎ早に話し始めた。
「探し物はコレか? ガーネット伯爵」
卓上にコトリと小さなピアスを置いた。
どうだ、見つけてやったぞ、とでも言いたげな陛下のしたり顔に、僕は思わず表情を崩しそうになる。
(僕らが探しているのは“指輪”だ。それも“対”の。見当違いもいいところだ!)
ムッとして、口を開きかけたけれど、間を置かずに聞こえてきた父の安定した柔らかい声に、僕は平静を取り戻した。
「詳しく拝見させていただいても?」
「ああ、構わない」
頭から否定してやりたいと思っていた。
しかし、父は顔色一つ変えず、両手に手袋をはめると、鑑定のための準備を整えた。
持参していた鞄から手のひらほどの小さなケースを取り出す。その中からルーペを手に取ると、ピアスに近づけ、中心をジッと覗き込んだ。
父はルーペを外し、大きく息を吐き出す。
「これは――私が探していた魔法具ではありません」
「何だと? そんなはずは……!」
焦ったように視線の定まらない陛下に、父は穏やかな口調で話を続けた。
「しかしながら――この魔法具にも重大な問題があるようです」
「やはり、禁忌の魔法が?」
父はゆっくりと頷いた。
「この魔法具には“傀儡の魔法”が付与されています」
「しかし、ガーネット伯爵。そなたは先ほど『自分が探していた魔法具ではない』と言ったではないか」
否定されたことがよっぽど不満だったのか、陛下は少々不機嫌そうに言った。
「はい、確かに。ご説明いたしますと――そもそも、この魔法具は私の管理下にあるものではありません」
「どういうことだ?」
「この魔法具は――アンドロスで作られたものだからです」
陛下は目を大きく見開き、息を呑んだ。
「ですから、この魔法具も私の“探知”を掻い潜るもののようです」
父は再度視線をピアスに落とした。
「ところで陛下、御身体に異常はございませんか? どこかにお怪我などされてはおりませんか?」
「なっ……何故、そのようなことを……?」
視線をピアスから陛下へと移した父は透き通るような碧眼をまっすぐに見つめて言った。
「血痕が付着しているのです、このピアスに」
陛下の身体が氷のようにカチリと固まる。
「それも――かなりの量、出血されたのでは?」
「…………」
「陛下。この魔法具はどこで見つけられたのです? 一体、どなたが付けられていたのでしょう? 正確にお答えいただけますか?」
穏やかだけれど、有無を言わせない気迫。見ているだけの僕でさえ、背筋が凍る。
アイリーンパパとはまた違った威圧感。重責を担う家門の当主は皆、そうなのかもしれない。
陛下は胸に大きく息を吸い込むと、観念したように名前を口にした。
「フレデリックだ」
何となく想像はついていた。でも彼は誰に操られていたのだろう。
(まさか、ディアーナ?)
彼女なら物語の内容も知っているし、その魔法具が存在していることも知っているはず。
今までフレデリック殿下がディアーナに操られていたから、物語とは違う態度だったという説明もつく。
「では、殿下はもう操られてはいないのですね」
少しホッとしたように、父が陛下に問いかける。
しかし、陛下の顔は暗く沈んだまま。
「まだ、お怪我が完治しておられないのですか?」
「いや、治療はすぐにした。今は傷跡一つ残っておらんよ」
そうだとすると、陛下の浮かない顔の原因は――
「この魔法具がアンドロスのもの、ということが問題なのですね?」
「ああ、そうだ」
内戦が激化し、ジュエライズに移住しようと考える者がここ最近、増えていると聞く。
元々は一つの王国であり、同じ王家の血筋。安定した生活を送りたいと思うのも当然だ。
ただ、誰かがジュエライズ王家を乗っ取ろうとしている。次の王となる者に禁忌の魔法具を付け、操ろうとしていた。自分の思いのままに。
「フレデリック殿下はその魔法具をどうやって付けたのか、仰っていましたか?」
「それが……どうも、腑に落ちない」
陛下は首を傾けた。
「エスメラルダから贈られたものだと思い込んでいるようなのだ」
「王妃様からの贈り物だと?」
「ああ」
確か――エスメラルダ王妃にはアンドロスに遠縁の親戚がいたはずだ。
物語の中でフレデリック殿下とディアーナの婚約が解消された後、王妃様は気に入っていたアイリーンを息子の婚約者にするため、アンドロスにいる遠縁の侯爵家と縁組させていた。
その家門は――アルキオネ侯爵家。




