特殊な日々と断罪③
ロードナイト伯爵視点です。
「では、こちらを御覧ください」
あらかじめ用意していた魔法具を取り出すと、議場の真っ白な壁に収められた記録を映し出した。
もちろん、面会したばかりのクオーツ侯爵が洗いざらい自白をした映像である。
証拠を出せ、と息巻いていたジルコニア公爵の顔から血の気が引いていく。
「なっ……何だ、これは!」
クオーツ侯爵がレオナルドを誘拐するに至った経緯を淡々と話している。
ジルコニア公爵がクオーツ侯爵家へ娘を伴いやってきたことがすべての始まりだった、と。
『ジルコニア公爵は私に、ガーネット伯爵家について聞いてきました。伯爵に息子がいることを知っているか、直接会ったことはあるか、と』
クオーツ侯爵の衣服は汚れており、その首と両手首には魔法具がつけられている。
『息子を亡くしていた私は、子どもを伴う社交をしていなかったため、会ったことはなかった。そう答えると、ジルコニア公爵は御令嬢が先日、行われた王家の舞踏会でアラスターを見たと言ったのです』
その場にいる者たちが一瞬ざわめいた。
ジルコニア公爵は眉間に深いシワを寄せる。
『最初はたちの悪い冗談だと思ったのですが、ジルコニア公爵令嬢はアラスターが持っていた能力の詳細を言い当てた』
「やめろ」
ジルコニア公爵の低い声が室内に響き渡る。
もちろん、中断することはない。
『ジルコニア公爵令嬢は、私にこう言いました。“私には未来を視る能力がある”と。そして、“アラスターは記憶をなくし、今はガーネット伯爵令息として生きている”と』
「こんなもの、捏造だ!」
「静粛に」
ジルコニア公爵はガタリと音を立てて椅子から立ち上がるが、国王陛下の一言で唇を噛みしめると静かに腰を下ろした。
『ジルコニア公爵令嬢は“アラスターを取り戻し、クオーツ侯爵家が繁栄する未来が視える”と言ったのです』
そこでぷつりと映像が終わり、議場にシンと静けさが戻った。
「クオーツ侯爵の証言からジルコニア公爵、そして、ジルコニア公爵令嬢の関与は明らかです」
「クオーツ侯爵は倒れたと聞いている。このような証言ができるはずもない。この映像はロードナイト伯爵が作り上げた偽物だ!」
ジルコニア公爵がクオーツ侯爵家に遣いを出していたことはわかっている。それにクオーツ侯爵家の従者としてその対応をさせたのも、ロードナイト伯爵家の者なのだから。
「ほう、そうですか……。では、この魔法具は偽造のできる欠陥品、ということになりますね」
ジルコニア公爵の前まで行き、先ほど使用した記録用の魔法具をコトリと置いた。
その魔法具を間近で見たジルコニア公爵の顔から徐々に色が消えていく。
「ジルコニア公爵家は欠陥品を製造していた、と?」
「いや、そういうわけでは……」
「ならば、こちらは偽造できない正規の魔法具ということでよろしいですか」
ジルコニア公爵はググッと押し黙った。
魔法具の管理や販売はガーネット伯爵家が取りまとめているが、製造は他家も行っている。
クオーツ侯爵を尋問する際、自分の持っている魔法具だけでなく、ガーネット伯爵から譲り受けたジルコニア産の魔法具も同時に使って記録した。
まさか自分の家が製造する魔法具を欠陥品であるとは言えないだろうし、万が一欠陥品となっても自分の魔法具でも記録しているため、偽造していない証拠になる。
「記録に偽りはありません。クオーツ侯爵も獄中生活で弱ってはおりますが、映像で御覧いただいたとおり、意識ははっきりされていました」
(――今はわかりませんが、ね)
国王陛下と視線を合わせると、小さく頷いたので、そのまま話を進めた。
「ここで、この件で最も重要な人物に来ていただきました。お連れしてください」
議場の扉近くに立っていた近衛騎士に指示を出し、扉を開けてもらう。
「お父様……」
入ってきたのは、両側を騎士に挟まれ、今にも泣き出しそうな顔をしたディアーナだった。




