特殊な日々と断罪②
ジルコニア公爵視点です。
「くそっ……! 先手を打たれたか」
詳しく調査するため、クオーツ侯爵家へ遣いを出したが、戻ってきた者から伝えられた言葉に絶句した。
(――いよいよまずいことになったな)
クオーツ侯爵が国王陛下の命令で捕縛された。
しかしながら、彼は意識のない状態だったようだ。これは、私にとって幸運だった。
誰一人彼を聴取できないということを意味しているからだ。そのまま儚くなってしまえば、尚の事良い。
(死人に口無し。墓場まで持っていってくれよ……)
薄情かもしれないが、すべては愛する娘ディアーナを護るため。亡くしてしまった愛する妻の二の舞にはしたくない。
幼少期の姿から考えられないほど、娘は成長した。物腰の柔らかさはかつての妻を思わせるほどに。
今回のことにしても、黙っていることもできただろうに、わざわざ他家を心配し、心を寄せたからこその結果だ。
そんな優しさで溢れた愛娘に、また恐怖で怯える日々を送ってほしくない。
そもそも、クオーツ侯爵が捕縛された理由は何だ。意識のない状態でも連れて行かれるほどの罪を犯したのだろうか。
アラスターの件に関して、正式な手続きをしていなかっただけとは思えない。
しかし、私でさえ、彼から詳しい状況を聞き出せていないのだから、ロードナイト伯爵がこの短期間ですべてを把握することは不可能なはずだ。
今、私が捕縛されていないことが何よりの証拠。
むしろ、クオーツ侯爵が取り戻した息子であるアラスターを連れて帰ったことで、伯爵に対して誘拐罪が適用出来るのではないか。
どうやって彼に対抗しようかと考えを巡らせていた私は、この後、後悔することになる。
ロードナイト伯爵を甘くみていた、自分に。
◇
「ロードナイト伯爵。どんな証拠があって、私を罪に問うのです?」
翌日、緊急議会が開かれ、私も招集された。
しかし、蓋を開けてみれば、クオーツ侯爵に対する裁判であった。
予想はしていたのだが、やはりクオーツ侯爵はアラスターを取り戻すのに正式な手順を踏んでいなかったのだ。それだけではなく、さらに彼を拉致するため、馬車を襲撃し、ガーネット伯爵家の御者を事故に見せかけ殺害していた。
ズキズキと痛み出した頭をほぐすように、こめかみに指を当てた。
もちろん、それで少しも痛みが和らぐことはないのだが。
「そこで、彼がどうしてそのような行動に出たのかを調査いたしました」
ロードナイト伯爵は透き通るような桃色の髪をサラリと掻き上げると、私に視線を合わせた。
「ジルコニア公爵閣下、ご説明いただけますでしょうか」
すべてを見透かしているような赤に近い桃色の瞳。
私は怯むことなく、答えた。
「一体、何を説明すれば?」
ロードナイト伯爵は驚いた表情で首を傾けた。
「ジルコニア公爵家に訪れた後、彼はガーネット伯爵家へ訪問し、レオナルド卿を御自身の亡くなった御令息と思い込んだようです。今まで一度も会ったことがなかったガーネット伯爵令息に、突然会いに行ったのは、何故でしょう?」
「私がクオーツ侯爵に吹き込んだと言いたいのか?」
私が冷静に言い返すと、伯爵も顔色一つ変えずに、「ええ」と肯定した。
その堂々たる態度に、腹が立つ。
「仮にそうだったとしても、ガーネット伯爵令息を誘拐したのはクオーツ侯爵がやったこと。私は関わっていない」
「本当にそう言い切れるのでしょうか?」
「どういう意味だ?」
私は思わず怪訝な顔をしてしまった。彼はまるで私にも罪があると言っているようだ。
「ロードナイト伯爵。どんな証拠があって、私を罪に問うのです?」
彼の整った顔に、美しい微笑みが浮かんだ。
まるで、その言葉を待っていましたとばかりに。




