不測の日々と希望②
どうしてもバレンタインデー更新したかったので……
いつもと違う投稿時間ですみません。
Wishing you Happy Valentine’s Day!
レオを救い出して、数時間経過した。
最初に発見した時より見るからに血色が良くなり、快方に向かっているように見える。
けれど、未だに目覚める気配はない。
ガーネット伯爵家にレオを保護したと連絡を入れ、駆けつけてきたガーネット伯爵夫妻に、回復するまでロードナイト伯爵家で治療させてもらう許可を得た。
ガーネット伯爵はレオの姿を直接確認するとホッと安堵し、夫人は涙を浮かべた。
少し回復した状態で対面することができて、いくらか心の負担は軽減できたと思う。
万が一、私たちが救い出した状態での対面だったとしたら、あの程度では済まなかっただろう。
豊石祭の関係で領地に帰っていた母が王都に戻ってきてくれたため、母に神聖力の使い方を教わりながら、少しずつレオを回復させていくことになった。
ガーネット伯爵夫人は私に「あとはよろしくね」と微笑み、父との話を終えた伯爵と共に帰っていった。
豊石祭が終わり、いつの間にか吹き込む風が涼しくなっていた。ふわりと舞い上がったカーテンに誘われるように窓際へと近づく。
夕日が街を橙色に染めていく。
「綺麗……」
今朝までは食事も喉を通らないほど苦しかったのが嘘のよう。とはいえ、今は別の意味で食欲がないのだけれど。
私は窓を閉め、すうすうと規則正しい寝息を立てている婚約者の側へと戻る。
二人だけになった部屋の中。
穏やかな顔で眠っている姿に安堵するものの、早く目を覚まして欲しいと願ってしまう。
レオの左手をぎゅっと握り、回復魔法を使った。
「……どこかで見た光景だな」
私はレオの左手に付けていた額をパッと離し、顔を上げた。
「あ。でも、あの時とは逆か……」
ニコッと笑ったレオが、私を優しく見つめている。
右手で右耳辺りの髪をクシャッと掴み、こめかみを刺激するようにグリグリと擦った。
何か言葉を発するより前に、まるで身体が引き寄せられるように自然と動いていた。
「……!!」
温かく柔らかい唇が離れると、目を丸くし放心状態のレオの顔が間近に見えて、私のふわふわとしていた意識が一気に現実に引き戻される。
「……!!」
私は真っ赤になった自分の顔を隠すように、レオの首元にぎゅうとしがみついた。
耳元でクスッと笑った声が聴こえる。
「ごめん、心配かけて」
私はレオの首元に顔を埋めたまま、ブンブンと首を横に振った。
「アイリーン?」
恥ずかしすぎて、レオと顔を合わせられない。私が顔を離せずにいると、大きなため息が聞こえた。
「あー、痛いなー。アイリーンの勢いが強すぎて僕の唇切れたかもー」
「えっ……うそ、ごめん、大丈夫!?」
心配になってガバリと顔を上げると、そこには得意げにニカッと笑ったレオの顔があった。
「アイリーンが治してくれたんでしょ?」
優しい微笑みに変わる。その顔を見て、ホッとしたのか、レオの笑顔が滲む。
「ありがとう」
ぽろぽろと次から次へと流れ落ちる涙にレオの手が触れる。
「聖女の力を発現させたんだね」
私はレオの問いかけにコクリと頷いた。
「結局、物語と同じになっちゃった……」
私が眉間にシワを寄せると、レオはそのシワを伸ばすように人差し指を私の眉間に当てた。
「違うよ。物語の中のアイリーンは自分を護るために聖女の力を発現させたけど、ここにいるアイリーンは僕を救うために覚醒したんだから」
レオがゆっくりと身体を起こした。
「それにあの時、言ってくれたでしょ?『私の愛する人を傷つけたこと、絶対に許しません』って。あれ、めちゃくちゃ嬉しかった」
満面の笑みを浮かべたレオが美しすぎて、止まっていたはずの涙がまた溢れ出し、私の顔をビシャビシャに濡らした。




